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【書籍3巻発売中】ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う【コミック4巻発売中】  作者: 待鳥園子
第三章

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3-12 事情

「……どうも、ありがとう。パトリック。無理を言ったのに……ここまで、連れて来てくれて」


 スイレンは草原まで自分を迎えに来てくれた水色の竜パトリックから降りると、彼の頬に手を当てた。心配そうなパトリックは応えるようにして、可愛らしい声でキュイっと一声鳴いた。


(ここね……思ったより、小さな洞窟だけど……)


 スイレンはとにかく急いでいるからとライデンヴァーガルと別れた後にワーウィックから前もって聞いていた、竜殺しの一族に指定されていた場所までやって来た。攫われたプリシラを解放する交換条件である上位竜の鱗を置いて来るためにと、スイレンは意を決して小さな洞窟へと足を踏み入れた。


 本当はワーウィックと鱗を貰った後に共に来る予定だったが、彼はどうするかという相談をする前にリカルドに呼ばれてしまった。


 竜の姿のままのパトリックには、この場所に先んじて来ることは渋られたのだが、攫われてしまったプリシラにとっては一刻を争う事態かもしれない。彼女の身を案じたスイレンは、急いだ方が良いと判断して無理を言って連れて来て貰ったのだ。


 パトリックは、まだ人化の術が使えないようだ。大きな竜の姿のままでは、とてもこの洞窟に入ることが出来ない。大きな水色の瞳を向けて、スイレンを心配そうに見ていた。


「大丈夫よ。向こうが要求した物を、ただ置いて来るだけだから。すぐに戻るから、待ってて」


 竜は人化の術を使えば、使える能力が制限されてしまう。竜の生態を良く知る竜殺しの一族だからこそ、人化した竜なら取引の場でもし会ったとしても、どうにかなると考えているのだろう。


 怒り狂う竜がその姿のままで会えば、彼らは目的の物を持ち去る前に影もなく去ってしまうかもしれない。圧倒的な力の差を知りながら、自分の身を守ろうとする。狡猾な判断で選ばれた、最適な取引場所だった。


(けど、不思議だわ……竜の生態なんて、なんでそんなに良く知ることが出来たのかしら……)


 スイレンはそのことが、かの一族を知った時からずっと不思議だった。竜と契約した竜騎士だって、彼らの習性を熟知しているとは言い難い。つま問いの季節をリカルドが知らなかったのだって、きっとそうだ。あれだけではなく、竜はきっと竜騎士にさえ必要なことしか教えないのだろう。


 頼りになるワーウィックもクライヴも、彼らの竜騎士と共に戦闘に出ているので近くには居ない。要求された物をただ指定された場所に置いて来るだけだというのに、夜目の利かないスイレンが薄暗い洞窟の中に足を踏み入れることはとても勇気が要ることだった。


(もうすぐ……完全に陽が落ちて、夜になる。リカルド様は遠征だと言っていたけど、いつ帰って来るんだろう……)


 リカルドたち竜騎士が遠征すると言えば、高速飛行も可能な空を飛行する竜に乗れば移動時間などは考えなくて良い。だから、戦闘さえ終えれば、彼らは王都へと帰還するだろう。


 事情を知り人化出来るワーウィックやクライヴがすぐにスイレンと合流してくれればそれが一番なのだが、彼らは未だ遠い空の上だろう。


「……止まれ。お前。何しに来た?」


 スイレンは洞窟を何歩か歩いたところで、背後から聞こえて来た高い声にびくりと身体を震わせた。咄嗟に振り返れば、誰も居なかったはずの洞窟に居たのは目深に黒いフードを被っているまだ幼い少年だ。夕暮れの薄暗い光の中で、口元だけがかろうじて見える。


「貴方……誰?」


「こっちが、聞きたい……ただの人間が、こんな山深くに何の目的がある? この洞窟には、何もない」


(何もない……? 何もないことを知っているということは、この人)


 スイレンは彼がどういう存在であるかを悟り、コクリと喉を鳴らした。竜殺しの一族が何人居るのかは定かではないが、どうやら洞窟の中に居るのは彼一人だけのようだ。


「……あの、取引材料を持って来ました」


 そうスイレンがライデンヴァーガルから貰った透き通る青い鱗を差し出して言えば、彼は酷く驚いた声を出した。


「これは……ヴェリエフェンディの、守護竜の色じゃない! どういうことだ! お前。ただの人間の癖に。これを、何処で手に入れた?」


 イクエイアスの白い鱗ではないことに気が付いて、顔を上げ驚いた少年に、スイレンは質問には応えることなく眉を寄せた。


 何の罪もないプリシラを攫ってまで目的のものを手に入れようとする、そういった彼の悪どいやり方がどうしても嫌だったからだ。


「私はこの上位竜の鱗と引き換えに、囚われた竜を解放して貰えると聞いています。貴方はこれが、欲しかったんでしょう?」


「……そうだ。すぐにあの竜は、解放する。これを手に入れるのは、骨が折れただろう。すまなかった。こちらも、不本意だった」


 スイレンの差し出した手から大きな鱗を受け取り、彼はそれを大事そうに黒い袋の中へと入れた。深い悔いの滲んだその言葉の意味が理解出来なくて、スイレンは思わず眉を寄せてしまった。


(不本意だった……?)


 プリシラと彼女を心配している群れの竜たち、そして、彼女を想い助けたいと願うワーウィックの気持ちを考えれば、スイレンは彼の言葉を腹に据えかねた。


「そんな風に、謝るのなら……何故」


 何故こんな非道なことが出来たのかと問おうとしたスイレンに、彼は言葉を被せるようにして言い募った。


「一族の者が何人か捕まって、脅迫されている。俺たちは自分たちが生きるため以外の、無益な狩猟は本来ならしない。上位竜の鱗をどうしても手に入れたいという、何処かの有力者に脅されたんだ。群れから逸れたり年老いた竜であれば、まだともかく……上位竜など、捕獲することなどは絶対に出来ない。これは、苦肉の策だった。特殊な事情があるからと、許して欲しいとは言わない。だが、こちらにも事情があった」


 スイレンは彼が語った、いくつかの欲の悪循環を思って思わず溜め息をついた。上位竜の鱗が欲しいと言って、竜殺しの一族を脅し、そうした彼らが一匹の竜を攫いそれを取引条件とした。


(それって、同じことで……彼だって、大事な家族のために致し方なくこうした犯罪を犯した? けれど、プリシラを攫ったことは、許されることではない……けど)


「これを脅している奴に渡せば、俺は戻って来る。俺はもう、殺されても良い……それだけのことをした。祖先たちが決めた大事な誓いを、破った。償いはしよう」


 まるで神へと懺悔するようなその声に、スイレンはどう言えば良いか迷ってしまった。先祖代々の禁を破るほどに切羽詰まっていただろう状況にあった彼を、これ以上は責める気持ちにはなれない。


「……私にも、大事な人が居るから貴方の気持ちは理解出来る。けれど、何の罪もない竜を攫ったことは、とても許すことは出来ないわ。この鱗は私が貰った物だから、あげるわ。攫った竜を解放したら。もう戻らなくても良いから。早く、この国を出て行って」


 竜殺しの少年は自分を見つめるスイレンに、何かを言おうとしたところで思い直したのか言葉を詰まらせた。


「悪かった」


 彼は短く言い放つと、素早く身を翻して暗い洞窟の中から去って行った。



◇◆◇



「スイレン!! 僕を待てずに、一人で行ったって!? どうして!!」


「しーっ……ワーウィック。ダメよ。リカルド様に聞こえちゃう。貴方がこのことは、内緒にしようって言ったんでしょう?」


 家に帰って来るなり、台所に居たスイレンに駆け寄って抱き着いたワーウィックは、目に見えて狼狽していた。事の顛末をスイレンを乗せて帰り竜舎へと戻ったパトリックから、先んじて聞いているらしい。


「……何が、どうしたって?」


 続いて扉から入って来たリカルドは最近多忙で家にろくろく居られない上に、自分にだけ何かを秘密にされているという状況がとても不満だったのか真顔のままで、抱き合っているスイレンとワーウィックの元へと歩み寄って来た。


 リカルドがスイレンに危害を加えることなど、絶対にないと理解はしていても、戦闘職にある彼の発する圧は強い。帰って来てすぐにスイレンに抱き着いたワーウィックの言葉を聞けば、スイレンが無茶するような何かがあったことは察しているはずだ。


「……えっと……」


 スイレンは流石にこの状況を見られて、リカルドにまだ内緒にするということは難しいと悟った。目を泳がせてワーウィックを見下ろすと、彼は何かを諦め観念した顔になっている。


「……うん。わかった。僕が、もう何もかも隠し事をせず全部話す。だから、スイレンの前で、敵将を前にした時のような、覇気を身に纏うのは止めてくれ。リカルド」



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