第333話:VS.【癒やしの天使】ラファエル① / 〜Healing Angel〜
「グッ……爪が駆体に喰い込んで離れない……!?」
「覚悟しろ、ラファエル!! お前に俺の新しい居場所は奪わせない! もう、俺の大切な人は誰一人として奪わせないッ!!」
――――戦艦ラストアークの眠る凍土へと続く【ステューディム渓谷】、吹雪吹き荒れる極寒の地で俺は機械天使ラファエルとの一騎打ちに突入した。
強襲要塞から勢いよく飛び出してラファエルを補足し、そのまま彼女の胸元を左手で押しながら俺は射出の勢いが完全に死ぬまで飛び続けた。ラファエルと“木馬”を引き剥がすために。
そして、思惑通りに引き剥がしには成功。“木馬”とそれを追う量産型の機械天使はあっという間に吹雪の彼方へと消え去り、凍てつく渓谷には俺とラファエルだけが取り残された。
吹雪の中を【ルミナス・ウィング】を展開して高速で飛行する俺とラファエル、先手を取ったのは俺だ。彼女の胸元には俺の左腕の鋭利な爪が突き刺さっている。簡単には抜け出せない筈だ。
後は左腕の掌から砲撃を撃ち出せば、ラファエルを撃破ないし重傷を負わせることが出来るはずだ。
「このまま一瞬で決めてやる! 喰らえ――――“光量子輻射砲”――――」
「――――空間転移」
「――――ッ、消えた? なるほど、自己保全に特化した機械天使のようだな、ラファエル……!」
「いきなり淑女の胸元に手を掛けるとは野蛮人ですね、ラムダ=エンシェント。それとも本機に欲情でもしているのかしら?」
しかし、左腕から撃ち出された閃光がラファエルを射抜くことは無く、俺が出来たのはただ薄明かりに吹雪く寒空を照らすことだけだった。
接射攻撃を行なう直前、ラファエルは忽然と姿を暗ました。空間転移――――そう呼ばれる移動技術を用いて彼女は俺の拘束から逃れたのだ。
そして、何も無い空を攻撃した俺を嘲笑うように、ラファエルは俺の頭上で腕を組んで浮かんでいた。
「胸元の爪痕が修復されていく……!」
「本機は最高峰の【自動修復】を搭載し、損傷した他の機械天使すら修理する事が出来る駆体……! 故に『癒やしの天使』――――ノア=ラストアークお母様が造り上げた傑作機と知りなさい!」
「あぁ、そうかい。機械天使の修理屋さんって事だな? 是非、ラストアーク騎士団に勧誘したい逸材だ……!」
「――――ふふっ、素敵なお誘いね♡ ノア=ラストアークお母様と生意気なホープ=エンゲージ、そして二人の“人形”に集る“人間”を駆除したら考えてあげるわ♡」
ラファエルの胸元に空いた傷がみるみる内に修復されていく。機械天使に備えられた【自動修復】の機能による効果だ。
機械天使の内部には『損傷箇所を補う有機ナノマシン』を精製する機関があると言う。多少の損傷程度なら、その機能で修復できるらしい。そして、ラファエルの修復機関は他の機械天使よりも高性能な代物らしい。
平たく言えば、ラファエルは尋常ではない回復力を誇っていると言うこと。少々の傷では彼女を倒すことは不可能だろう。
「制圧兵器【ナイチンゲール】――――起動!」
「ラファエルの左右に出現したのは……巨大な竪琴……! ノアが造った兵器か……」
そして、俺との戦闘が避けられないものだと判断したラファエルは巨大な武装を自身の左右に展開し始めた。
自身の駆体と同じ程の大きさのある竪琴。名を【ナイチンゲール】――――弦から奏でられる“音”を用いた不可視の干渉によって盤面を制圧する兵装。
ノアがラファエルに与えた『クリミアの天使』の名を冠す、傷付いた者を優しく癒し、人々を蝕む病巣を根絶する武器だ。
「音による不可視の旋律で気付かれること無く戦場を制圧する兵装。美しき天上の調と共に彷徨える“魂”を救い上げる天使の音色、貴方に聴かせてあげるわ♡」
「悪いけど、俺には『天上の調』なんて必要ない……! 俺は欲しいのは……ぬるま湯のような、何にも変化しない日常と言う“絶望”の先にある、苦痛と困難の果てにある“希望”だけだ!」
「それは叶いません。何故なら、本機が今すぐに、貴方を苦痛から解放するからです!」
その“竪琴”の弦を鳴らし、天使の歌声のような甲高い音色を奏でながらラファエルは俺を威圧する。
彼女にとって、俺は女神アーカーシャの築いた『世界平和』を蝕む病巣なのだろう。そして、俺はラファエルの判断を否定はしない。俺は確かに、世界の『現在』を蝕む病巣なのだから。
だが、止まる気は毛頭ない。
何故なら、俺が求める“希望”は、女神アーカーシャと言う“絶望”を越えた先にあるのだから。
「来い、破邪の聖剣【シャルルマーニュ】、神殺しの魔剣【ラグナロク】!! e.l.f.、駆動斬撃刃展開!!」
「了解しました、ご主人様! 駆動斬撃刃――――ゴーッ!!」
「“白衣の天使”――――起動開始……! 病魔を断て――――“帝王切開”!!」
「“永久式観測眼”――――起動! 行動予測――――【脅威観測】!!」
背負っていた聖剣を右手に、魔剣を左手に握り、俺は目の前で荒ぶるラファエルの攻撃に備える。彼女が展開した“竪琴”から放たれるのは“音”で形成された不可視の斬撃、俗に言う“鎌鼬”だ。
だけど、俺にはその視えない筈の斬撃が観えている。
ホープが開発した新しい義眼【永久式観測眼】――――この金色の眼が持つ『あらゆる“脅威”を観測する』機能のお陰だ。この右眼には、不可視の斬撃が朱い幻影で表示されている。避けるのも防ぐのも容易だ。
「本機の“帝王切開”を見切った……!? やはり、その右眼は『観測眼』……!!」
「お前の竪琴は俺には通じない! さぁ、痛い目に遭いたくなければ降伏を!」
「――――笑止。攻撃が観えていても避けれないなら意味が無いでしょう? それに、【行動予測】なら本機だって持っていますのよ!」
だが、相手の動きが予測できるのはラファエルも同じ、彼女の装着したバイザーにも【行動予測】に関する機能が備わっている。その機能でウィル=サジタリウスの狙撃を回避し続けていたのだろう。
試しにと俺が魔剣を振って放った横薙ぎの斬撃をラファエルは大きく弧を描くように宙返りして回避して見せていた。ラファエルの回避行動を予測して放った聖剣の斬撃を翼の出力を上げて放出した衝撃波で、背中を向けたまま打ち消しながらだ。
「突撃しか脳のないウリエルと本機を一緒にしないことね? 闇雲に攻撃を繰り出しても本機を捕らえる事など不可能……!」
「そうかい……ならもっともっと攻めるまでだ! 撃ち出せ――――“光の羽根”!!」
「行動予測――――守りなさい、“縫合”!」
「なんだ……空間がねじ曲がって、俺の攻撃を弾いている……!? 彼処だけ風圧が異常だ……!!」
次に俺が放ったのは翼から撃ち出した無数の光弾。小さく光る発光体を渓谷に吹き荒れる吹雪に紛れさせてラファエルに向けて飛ばした。
しかし、彼女は少しも動くこと無く、竪琴から発生させた“音”で自身の目の前に障壁を展開して光弾を弾き飛ばしていた。
「なるほど……制圧兵器【ナイチンゲール】、思ったより厄介だな。攻撃も防御もお手のものか……!」
「そうよ、本機はさながら“要塞”……! 簡単には撃ち落とせないわ♡」
「そりゃ、落としがいがあるってものだ! だったら、俺の新しいスキルを見せてやる……!!」
「――――っ!」
自己修復、空間転移、行動予測、攻防一体の竪琴――――攻撃一辺倒だったウリエルとは違う、守勢に重きを置いた戦闘スタイル。難攻不落の要塞、それがラファエルの強みなのだろう。火力や技量で無理やり突破するには時間が掛かる。
此処は極寒の渓谷、いくらホープから貰った防寒着を着ていたとしても生身である俺では長くは保たない。それをラファエルも知っているからこそ、彼女はのらりくらりと時間を稼いで俺の自滅を待つだろう。
なら、彼女に正攻法が通じないのなら、ここは搦手を使う時だ。そして、俺にはその準備がある。
「固有スキル発動――――【白雪ノ氷結晶】!」
「これは……吹雪が勢いを増している……!?」
「亡き父から拾得したスキルだ、存分に味わえ! 氷結戦技――――“暴風雪”!!」
渓谷に吹き荒れる吹雪はさらに勢いを増して。視界をみるみる内に真っ白に染め上げていく。その凍てつく世界こそが、俺の新しい“剣”だ。
亡き父・アハトの遺品から、俺の固有スキルで獲得した氷雪系のスキル【白雪ノ氷結晶】。雪と氷を操るこのスキルでラファエルの堅牢な守りを突破してみせる。




