第332話:飛べ、ラムダ=エンシェント / 〜Sword or Trash Ⅱ〜
《こちらウィル=サジタリウス、戦況を報告する。現在、交戦開始から三十分が経過、敵撃破数は35機。敵指揮官・機械天使ラファエルは僕の狙撃を予測して回避、恐らくは高度な予測スキルを積んでいると思われる。繰り返す――――》
――――吹雪舞う渓谷を駆ける“木馬”とそれを追う機械天使、ラストアーク騎士団とアーカーシャ軍との交戦開始から三十分が経過した。
戦況は此方がやや不利。ウィル=サジタリウスによる長距離射撃によってラファエルを遥か後方で足止め出来てはいるが、量産型の機械天使を常に“木馬”への接近を試みている。
ラストアーク騎士団も対空攻撃で随時迎撃に当たっているが、トネリコ=アルカンシェルの差配だろうか、機械天使たちは攻撃しては離脱を繰り返す『ヒット&アウェイ』で被害を最小限に抑えながら戦闘を繰り返していた。
敵の狙いは俺たちの足止めだろう。トネリコは戦艦ラストアークを狙っている。俺たちを此処で足止めできれば出来るほど、アルカ・ナディア氷界域に向かったミカエルの捜索時間は増やせ、女神アーカーシャが戦艦ラストアークを奪取できる可能性が高くなる。
故に機械天使たちは『撃墜』と『時間稼ぎ』の両方を視野に入れて行動している。
そして、此方はまんまと敵の思惑に嵌ってしまっている。機械天使の迎撃に対応せざるを得ない以上、“木馬”も無闇に最大速度での航行を行う事は出来ない。とてもじゃないが、戦艦では機械天使の速度には敵わないからだ。
《この“木馬”は敵拠点を強襲して離脱、背後に引き付けた敵機を迎撃しながら退く『一撃離脱』を想定した戦艦だ。背後に敵を引き付ける事を想定した設計上、艦橋が船首側に在り、後方への火力を過剰に積んでいるのが特徴だが、流石に機動力に勝る機械天使相手じゃ分が悪いか……!》
それでも、急襲要塞【トロイメライ】の『一撃離脱型』と言う設計が功を奏し、俺たちは機械天使の攻撃をなんとか耐え凌いでいた。
背中を見せての逃走戦は得意中の得意と豪語したホープと、俺の治療をしつつも作戦指揮をこなしたノアによる防衛によってラストアーク騎士団側の損害も数人の負傷だけで済んでいた。
《強襲要塞【トロイメライ】、後部射出機開放! ラムダ=エンシェント、射出準備に移行してください》
そして、いよいよ俺の出番がやって来た。
ノアの施術で左腕のアーティファクト【光量子展開射出式超電磁左腕部】は再び俺の身体へと接合され、ホープから贈られた新しい義眼【永久式観測眼】によって俺は再び五体満足な身体を取り戻す事が出来た。
いま居る場所は後部甲板の真下に造られた射出機の上。其処で俺は身体の調子を確認しながら来たる作戦開始の瞬間を待っていた。
《それでは作戦概要を説明します……》
真上から聴こえる戦闘音を掻き消すように射出機に響き渡るノアの声。
そして、右眼に映し出されるのは“木馬”と機械天使の位置を映した周辺地図の立体映像。
《ラムダさんは射出機より音速で発艦後、即座にラファエルを抑えて“木馬”から彼女を引き剥がしてください。指揮官であるラファエルが交戦に陥れば量産型の動きは鈍ります》
俺の役割は【大天使】ラファエルを“木馬”から遠ざけること。
現在のラファエルはウィル=サジタリウスの狙撃に侵攻を阻まれて仕方なくではあるが、戦場全域を俯瞰できる位置に居る。このままではラファエルの的確な指示で量産型は“木馬”を効率的に攻めれる状態になってしまう。
だが、俺がラファエルを“木馬”の観測範囲から連れ出せば、量産型は指揮官を失って効率的な戦闘を行えなくなる。無論、無力化できる訳では無い。あくまでもラファエルからの指令が無くなり、各々の搭載する“AI”に頼らなければならなくなると言う話だ。
《量産型の迎撃はホープ指揮の下、アケディアス=ルージュさんを筆頭に行います。ラファエルの撃破はラムダさん、お願いします……!》
「任せてくれ! 今度は遅れは取らない、ラファエルは俺が始末する!」
《射線が通る位置まであの天使ちゃんを打ち上げてくれたら、おじさんもすかさず援護に入るよ。頑張ってね、ラムダ君……!》
「残念、貴方の出番はここまでですよ、ウィルさん。あの獲物は俺が倒します……!」
《頼もしい返事だ、王都で会話した時とは別人のようだ……! これがラムダ=エンシェント……“アーティファクトの英雄”か……!》
ラファエルと言う“司令塔”を失った量産型の相手はホープたちに任せるしかない。俺は俺の使命を果たすだけだ。
《ラファエルの武装にデータを右眼に送っておいた。有効に使え、ラムダ!》
「ありがとう、ホープ」
《新しい右眼の機能もバッチリか? そいつはノアの造った“七式”にオレの技術を混ぜ込んだ“永久式”、なんと眼から光線も撃てる優れもんだ!》
「…………遂に俺も眼から光線が出るようになってしまったのか……」
《嫌なら口から怪光線に改造すっぞ? 良いのか? てめぇの口から光線が出るぞ?》
「――――ありがとう、ホープ! この右眼すごく良いよ、最高だ! 俺、子どもの頃から眼から光線出したかったんだよねぇ〜〜!」
新しい右眼も再び装着された左腕も身体によく馴染んでいる。
理由はよく分からない。
今までは、右眼も左腕もどこか“異物感”があった。失われた身体を補った部品、肉体の一部が金属になった不快感、まるで自分の身体に得体のしれない物が絡み付いたような感覚だ。
それを今は感じない。
生まれた時からずっと自分の一部だったような一体感を感じている。それは俺の意識が変わったからだろうか。そうだと思うが、いまいち確信は持てない。
けど、それでいい。
もう迷わないと決めたから。
此処まで付き合ってくれた【ベルヴェルク】のみんなを、俺たちを救い上げたラストアーク騎士団のみんなを護り抜くために、俺は俺の“責任”を全うする。
《射出機展開! ラムダさん、貴方にはラファエルの元まで一気に向かってもらいます!》
「――――応!」
《さぁ、再び出番ですよ! シリカちゃんがこっそりホープの元に運んでいた射出機――――“超弩弓”【受難ノ日】!!》
「――――ふざけんなァ!!」
《甲板上の友軍に通告、間もなくラムダ=エンシェントが発艦します。総員、耐衝撃姿勢に移行! 繰り返す、総員、耐衝撃姿勢に移行!!》
甲板の中央は開かれて、俺を乗せた射出機がゆっくりとせり上がってくる。
そして、俺の背中を包んで前方に放り投げようとする投石機型の射出機――――“超弩弓”【受難ノ日】。
ふざけるな、誰が用意したんだ?
射出機の両脇に設置された二本の支柱は先端へと運ばれていき、俺の背中に引っ付いた光の帯がギリギリと引き伸ばされて力を溜め込んでいく。
すでに甲板にいた味方は足元に各々の方法で身体を固定して、音速で飛び出す俺の出す衝撃波に備えている。
《射出準備――――完了! 作戦名『ナイトメア』―――開始!! ラムダ=エンシェント――――発艦ッ!!》
「ちょっと待て! まだ心の準備が――――って、ぎゃああああああ!?」
《お願い、ラムダさん、みんなを護って……!!》
そして、号令と共にノアはなんの躊躇も無く俺を射出し、俺は吹雪の渓谷を音を置き去りにして飛び出した。
その時、甲板にいた全員がドン引きしているような表情をしているのが一瞬だけ視えた。やはりノアは人使いが荒いようだ。一昨日、親兄弟を失った人間にする仕打ちじゃ無い。
「あら? 何かが高速で本機に向かって来ますわ? またあの狙撃手の小賢しい嫌がらせ……って、あれはラムダ=エンシェント!?」
「うぉぉおおお、ラファエル、覚悟ォォーーーーッ!!」
「電撃急襲!? しまった、反応が遅れ……きゃあ!?」
そのまま射出から一秒と掛からずに俺はラファエルと接敵。左腕を胸元に突き立てて彼女を“木馬”から引き離すように突き飛ばした。
再び取り戻した身体を使って、今度こそ諦めずに戦い抜く。今日が、ラムダ=エンシェントの新たな戦いの始まりの時だ。




