第328話:向かう先
「ちょっと、どういう事なのエンゲージ!? レイチェル様から聴いたわよ、セブンスコード卿たちをこの艦に拾ったって!?」
「その通りだ、ヘキサグラム卿。偶然、この艦を見かけて乗せて貰っただけだが……」
「セブンスコード卿……! あんた等、どの面下げてあたし達の前に現れたんだ、アァ!!」
――――“木馬”の艦橋での思いがけない再会。
王都を襲った“落涙”と共に行方が分からなくなっていたセブンスコード卿、メインクーン卿、サンクチュアリ卿の三名が俺たちの前に姿を見せていた。
但し、その再会は決して祝福されるものでは無い。
彼等の生存を知って艦橋に駆け付けたのはルチアとデスサイズ卿の二名、どちらも表情は険しい。当然だろう、俺たちとセブンスコード卿たちは“粛清”の時に袂を分かっている。
「ホープ=エンゲージ、なぜ彼等を“木馬”に乗せたのですか? 彼等は私たちとは対立の道を選んでいます。もしかしたら女神アーカーシャの密偵かも知れないのですよ?」
「あんた等とそっちの連中が仲違いしていたなんてオレは知らねぇよ。喧嘩はてめぇ等の問題だ。違うか、テレシアさんよぉ? この三人は投降の証として武装解除している。煮るなり焼くなり好きにしてくれとさ」
「それは、彼等の処遇は私達に一任すると言う事でよろしいのですか? ふむ……如何致しましょうか、ヘキサグラム卿、ラムダ卿?」
「投降したってんなら牢にでもぶち込めばいい! こいつ等が邪魔しなけりゃ、あたし等はもっと大勢の人を救えたのに……!」
ホープ曰く、セブンスコード卿たちは『投降』と言う形で“木馬”に接触を図ったらしい。そして、自らの潔白を示すために彼等は武装を解除して、各々の武器をホープが居るデスクに置いている。仮に抵抗したとしてもすぐに制圧できるだろう。
だが、ルチアとデスサイズ卿は三人に対して排他的な態度を示している。
ルチア、デスサイズ卿、そしてツヴァイ姉さんは教皇ヴェーダから俺を庇って離反し、セブンスコード卿、サンクチュアリ卿はルチア達を止める為に対立した。そのせいで両者の間には“溝”ができている。
それがルチア達の態度の理由だ。
「待ってください、デスサイズ卿、ルチア! セブンスコード卿たちは女神アーカーシャの密偵じゃ無い!」
「なんでそう断言できるのよ、ラムダ卿?」
「セブンスコード卿たちが王都で立ち塞がったのは、あくまでも俺たちの方が『グランティアーゼ王国の敵』になったからだ! 彼等はヴィンセント陛下への忠誠から俺たちはと敵対したんだ!」
「あっ……! じ、じゃあ……」
だが、間違ってはいけない。
セブンスコード卿たちが俺たちと対立した理由は、俺たちが『グランティアーゼ王国の脅威』になったからだ。決して、俺たちが女神アーカーシャに反旗を翻したからではない。
彼等はヴィンセント陛下への忠義から戦ったのだ。そして、そのヴィンセント陛下は裏切ったフレイムヘイズ卿によって殺害された。なら、セブンスコード卿たちが取る行動は一つ。
「ラムダ卿、恥を忍んでお願いする。我々にも協力させて欲しい……!!」
「セブンスコード卿……やっぱり……」
「僕たちはただグランティアーゼ王国を守りたかった……! なのに、結果はこのざまだ! 我々は守るべき市民も、王すら守れなかった……!! この雪辱、果たさなければ気がすまない!」
セブンスコード卿たちもアーカーシャ教団に良いように使われて、悲劇を助長させる結果を招いてしまった。それを三人とも後悔しているのだろう。
すでに忠誠を誓った王は殺され、守るべき場所だった王都もグランティアーゼ王国そのものも失う結果になってしまった。
「儂らが守らねばならんのは王族とグランティアーゼに生きる人々じゃ……! それを踏み躙った、斯様なアーティファクトを保有していたアーカーシャ教団はもう信用ならん!」
「故に、我々にもお手伝いさせてください! 必ずや、皆さんの戦いのお役に立ってみせます!」
「勿論、対等に扱えなんて我儘は言わない。首輪でもなんでもしてくれ! だから……僕たちに……亡くなられた王都の人々、アインス卿の敵討ちをさせてください! お願いします……!!」
彼等の願いは王都を消し飛ばしたアーカーシャ教団への報復。
無闇に人命を奪った女神への怒りに、救えなかった自分への憤りに、亡くなった人たちへの贖罪の為に、彼等は立ち上がったのだろう。
「困りました……ラムダ卿、あなたがセブンスコード卿たちの処遇を決めてください……」
「いいんですか、デスサイズ卿?」
「私とヘキサグラム卿も元々、ラムダ卿たちの反逆に乗っかっただけです……。これ以上、口を挟む権利は無いでしょう……」
「ルチアは?」
「まぁ、よく考えたら先に喧嘩を吹っ掛けたのはあたし達か……。ラムダ卿、あたしはあんたの決定に従うわ。王都ふっ飛ばされて、何もかもめちゃめちゃにされて、悔しい想いをしたのはお互い様ってね……」
そう、彼等もまた、守るべき人たちを守れずに悔しさに唇を噛んだのだから。それを理解したのか、ルチアもデスサイズ卿も険しい表情は鳴りを潜めて、セブンスコード卿たちの処遇を俺に預けてきた。
そして、俺の答えはもう決まっている。
「セブンスコード卿、メインクーン卿、サンクチュアリ卿……俺たちは女神アーカーシャを討ち、この世界を解放します! もう二度と、王都のような悲劇を起こさせない為にも! 協力して頂けますか?」
「臨むとこだ! 君に反逆者の汚名を着せたアーカーシャ教団の鼻を明かしてやろう!」
「決まりですね。ホープ、話は纏まった! 三人にも協力してもらう。異存は無いな?」
「ねぇよ、戦力が増える分には大歓迎さ。ようこそ、ラストアーク騎士団へ、これから馬車馬のようにこき使ってやるから覚悟しな!」
「承知した! 王立ダモクレス騎士団第七師団団長・ウィンター=セブンスコード、第九師団団長・ノナ=メインクーン、第五師団団長・レーゼ=サンクチュアリ、これよりラストアーク騎士団の旗下へと入る!」
王都では道を違えたが、今は同じ目的を持つ者どうしだ。セブンスコード卿を拒絶する理由は無い。
そして、俺の意思、セブンスコード卿たちの意思を確認したホープの承認を以って、俺たちは再び彼等と行動を共にする事になった。
すでに王立ダモクレス騎士団は存在せず、剣を捧げた祖国は崩壊した。俺たちは【王の剣】としての資格を失い、ただ途方もなく彷徨う復讐者となった。今までの戦いは『護る』ための戦い、これからの戦いは『復讐』のための戦いだ。
「よぉーし、じゃあそろそろ“木馬”を走らせようか!」
「グランティアーゼ王国を出るのか、ホープ?」
「まぁな……! だけど、その前に先ずは“拠点”を取りに行かねぇとな……!!」
その新しい戦いを導くのはホープ=エンゲージ。ラストアーク騎士団を結成した少女だ。
“木馬”を動かすのであろう制御盤に手を触れて、ホープはそれまで止まっていた戦艦を走らせ始めた。行き先は北西――――グランティアーゼ王国でも有数の氷雪地帯がある方角だ。
彼女の最終目的はグランティアーゼ王国領からの脱出。だが、その前に“拠点”に行く必要があるらしい。
「拠点……? それに取りに行く……?? この先に何が在るんだ、ホープ?」
「この方角は氷雪地帯【アルカ・ナディア氷界域】か? ラムダ卿、逆光時間神殿から出現した怪物の事は覚えているかい?」
「逆光時間神殿の……【光の化身】の事ですか? それがどうしたんですか、セブンスコード卿? あいつなら俺たちが倒しましたよ?」
「あぁ、あの雲すら突き抜けた怪物の事だ。で、そいつがぶっ放した攻撃の被害を受けたのが“氷界域”なんだ……」
「それって……」
“木馬”を駆るホープが向かっている先は【アルカ・ナディア氷界域】と呼ばれるグランティアーゼ王国でも随一の極寒の地だ。元々は夏場以外は常に吹雪に閉ざされた地で、険しい山脈が聳え立つ未開領域として恐れられている。
そして、以前俺たちが訪れた【逆光時間神殿】から解き放たれた【光の化身】が放った一撃で吹き飛ばされた場所がその“氷界域”らしい。
「その極寒の地でオレは悠久の時を冷凍睡眠で過ごしていた。其処に眠るある戦艦の中でな……!」
「その戦艦って……まさか……!?」
「あぁ、てめぇの想像の通りだぜ、ノア! 其処に眠るのは世界最大の戦艦、てめぇの開発したとっておきの『方舟』さ……!!」
その“氷界域”でホープは冷凍睡眠に就いていたらしい。ノアが眠っていた“方舟”と同じような戦艦を揺り籠にして。
そして、その戦艦の存在を知った瞬間、ノアの表情が驚きに変わっていった。
「其処に眠る戦艦の名は【ラストアーク】! 女神アーカーシャに対抗する我々の“最後の希望”だ……!!」
「ラストアーク……! ノアの名前を冠した……舟……!」
「今からてめぇ等をラストアークに案内してやる! さぁ、始まるぜ、オレたちの戦いが! 世界中を巻き込んだ大戦争がなァ!!」
グランティアーゼ王国の閉ざされた“氷界域”に眠る戦艦【ラストアーク】――――ノア=ラストアークの名を冠した世界最大の戦艦。禁忌級遺物の一つとして数えられた兵器。
それが、俺たちの“再起の翼”だった。




