第318話:Awakening The Chaos
「あぁ、しっかりと見届けたぜ、『ⅩⅠ』。アインス=エンシェント、見事な生き様だったよ……」
――――グランティアーゼ王国、雪の降る小さな丘にて。
朝から降りしきる雪を羽織ったフードで防ぎながら、ホープ=エンゲージは憂いた表情で王都の在る方角を眺めていた。
「ノア=ラストアークたちは内通者が仕掛けた『転移陣』で無事に脱出、ラムダ=エンシェントもアルテリオンの機動力で機械天使の追撃を撒いた。全部、あんたの予測通りになったぜ、『ⅩⅠ』?」
耳元に装着した通信機で『ⅩⅠ』と呼ばれた人物と会話するホープ。その言葉には助かった者の無事ヘの安堵、犠牲になった人々への追悼、全てを見通していた『ⅩⅠ』への複雑な感情が渦巻いている。
ラムダ=エンシェントたち“反逆者”の脱出、“暴食の魔王”グラトニスの復活、女神アーカーシャによる“粛清”、グランティアーゼ王国の崩壊。その全ての事象を聞かされていながらホープは何もせず、ただ起こった出来事の観測に努めた。
それが『ⅩⅠ』と呼ばれた人物の指示だったからだ。
「オレたちが『グランティアーゼの落涙』に介入すれば大勢の人命が救えた筈、グランティアーゼ王国の崩壊は防げた筈だ。それを制してオレたちは“落涙”をただ見守った。ラムダ=エンシェントが親兄弟を失って、今まで築いた尊厳を全て打ち砕かれるのをただ黙って観ていた……それで良かったんだな?」
『――――』
「あぁ、分かった、それがあんたの意志だな? なら、もうゴタゴタ文句は言わねぇよ!」
グランティアーゼ王国はアーカーシャ教団による“粛清”で実質的な崩壊を辿る事になった。
国王ヴィンセントや元老院貴族たちは“落涙”による王都消滅によって殆どが死に絶え、運良く生き延びた王族たちも全員が教団に狙われ、為政者の失った王国は完全に機能不全に陥ってしまった。
残されたのは政治に疎い民草や、地方を治める一介の領主だけ。彼等に広大な王国を指揮する手腕は無い。となれば、アーカーシャ教団が王国領を実質的に占拠するだろう。
そこまでの予想を立てながら、ホープは事態をただ見守る事しか出来なかった。それが彼女には歯痒くて仕方なかった。
「だが、これで漸く“スタートライン”には立てたな! “神殺しの騎士”はグランティアーゼ王国と言う『鳥籠』から解き放たれた。こっからが本当の喧嘩の始まりだ!」
だが、ホープ=エンゲージと言う名の“人形”の瞳から闘志が消える事は無い。何故なら、『グランティアーゼの落涙』によって女神アーカーシャは自身の最大の敵を覚醒させてしまったのだから。
“憤怒”“怠惰”“暴食”“色欲”、四つの魔王を傘下に従え、“強欲”“嫉妬”を喰らった“傲慢”の体現者。そして、“アーティファクトの少女”ノア=ラストアークとかたい絆で結ばれた少年。
名をラムダ=エンシェント――――“神殺しの魔剣”を携えた『神の敵』。彼は遂にグランティアーゼ王国と言う“柵”から解き放たれ、女神アーカーシャへの明確な敵意を抱いてしまった。それが、世界の“分岐点”になるとも知らずに。
「永きに渡り続いた偽りの平和、支配された『反理想郷』は間もなく終焉を迎える! 世界は遂に“混沌”を覚醒させた! 女神アーカーシャよ、手前が創った世界の“歪”の化身こそがラムダ=エンシェントだ! さぁ、オレたちの時代を滅ぼした罰が遂に降り注ぐぞ!!」
ホープは待ち望んだこの時に歓喜し、寒空に大声を張り上げる。
女神アーカーシャによって滅ぼされた古代文明の復讐の時を、十万年の歳月を我が物のように弄んだ報復の時を、悪戯に殺さた人々の無念を晴らす時を、宣戦布告のように歌って。
「聴こえているか、反逆者ども!」
『――――通信良好。よく聴こえていますよ、エンゲージさん。いよいよ始めるのですね?』
「その声はトリニティか! あぁ、待たせたな、いよいよ出陣だ! 錨を上げろ、帆を張れ、翼を広げろ、反撃の牙を剥け! 歴史の表舞台に殴り込みを掛けるぞ!!」
そして、ホープに掛け声と共にいよいよ彼女たちは動き出す。
グランティアーゼ王国と魔界【マルム・カイルム】との間で起こった『アーティファクト戦争』の裏方で暗躍し続けたホープ=エンゲージたちの組織。“最後の希望”を旗印に集った反逆者たちの決起の時。
「先ずは『転移陣』で廃教会に逃げ延びたラムダ=エンシェントたちを迎えに行くぞ! ”木馬“の準備は出来ているな、レイチェル?」
『はい、いつでも発進できます、エンゲージさん!』
「よぉし、上出来だ! 逃げ延びた連中はじきに追手に包囲される。オレたちの役目はその包囲網を突破することだ! 行くぜ、ラストアーク騎士団――――出陣ッッ!!」
その名は『ラストアーク騎士団』――――女神アーカーシャへと反旗を翻す反逆者たちの名前。機械仕掛けの神に支配された世界に残された最後の希望の名。
彼女たちが世界に齎すのは“混沌”か“希望”か。
――第二部:王立騎士団編『アーティファクト戦争』〜了。
第三部:方舟大戦編『最後の希望』へと続く――
これにて第二部:王立騎士団編が終了しました〜♪
続いて第三部:方舟大戦編が始まりますので、引き続きよろしくお願い致します\(^o^)/
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