第308話:降臨
「フレイムヘイズ卿……何故……余を……!?」
「せっかく私が築いた“騎士”の国、その“矜持”を捨て去るとは愚かな……! その愚行、身を以って償うが良い、ヴィンセントよ!!」
「貴様……グッ、アァアアアアアア!?」
大勢の騎士たちが見つめる中、ヴィンセント=エトワール=グランティアーゼへの“粛清”は執行された。
教皇ヴェーダに“火”と呼ばれたフレイムヘイズ卿は灼熱の剣で陛下を背後から突き刺し、断末魔と共にグランティアーゼ王国の王は灰となって消滅した。
信を置いていた腹心であるフレイムヘイズ卿の唐突な裏切り行為。それに反応できなかったヴィンセント陛下は遺言を残す間も無く殺されてしまった。
「お父……様……? そんな……嘘よ……あぁ……いや……いやぁ……いやぁあああああ!?」
「フ、フレイムヘイズ卿……どうして……!?」
「全員、フレイムヘイズを警戒しろ! あいつは教皇ヴェーダの手先だ!! 私がラムダとノアの盾になる! ネザーランド、今すぐに脱出経路を絞り込め! このままだと私たちは全滅だ!!」
「分かっています、アンジュさん!」
目の前で父親を惨殺されたレティシアの悲痛な叫びが響き渡る中、アンジュの掛け声と共に全員がフレイムヘイズ卿に向けて刃を構えた。
理由は簡単だ――――彼女はヴィンセント陛下への忠誠よりも、教皇ヴェーダの命令を優先したからだ。それも、教皇を“お母様”と呼びながら。明らかに彼女は普通の存在では無い。もっと大きな組織に属している。
「なぁに、あの出来損ないの機械天使は? 自機たち【大天使】への当て付けなワケ? 本気でウザ〜い♡」
そして、それを裏付けるように王城に響いたのは高飛車な少女の、それでいて何処か無機質な声。
その声が響いたのと同時に機械天使達の遥か頭上に複数の光の輪っかが出現し始め、輪っかの中央からまるで水が溢れるように光が輝き始めるのだった。
徐々に輝きを増していく光の輪。それを見て顔色を変えたのはジブリールとルシファー、そしてノアだった。つまり、あの光は古代文明に由来する物である事は明白だった。
「さっさと死んじゃえ、量産型ザ〜コ♡ 次元転送光輪【天使の輪】起動……衛星軌道兵器【断罪剣】に次元連結……照準、量産型“機械天使”に固定――――発射ぁ♡」
そして、小生意気そうな口調と共に引き金が引かれたのか、頭上の光輪より眩い閃光が一気に降り注ぎ、二十機いた筈の機械天使たちはあっという間に消滅してしまった。
その場にいた誰もが驚愕したのは言うまでも無い。
量産型とは言え相手は機械天使、俺でも一体倒すのに手こずった相手だ。それが瞬きの間に二十機全滅した。特に【快楽園】で実際に機械天使を目撃したオリビアたちはあまりの衝撃に放心状態になっていた。
無論、俺自身もだ。
「キャッハハハハ♪ ハイ、雑魚消滅ぅ〜♪ 中途半端に改造喰らった粗悪品が『機械天使』を名乗るから駄目なのよ、だ~め♡」
そんな俺たちを尻目に、空間を割くような光の輪を通じて現れたのは三機の機械天使たち。
「さぁ~て……起動、起動、起動ぅ♪ 対国制圧用人型戦闘兵器【機械天使】、タイプ“α”【神に似た者】――――起動開始ぃ♪」
白金に輝く頭髪、幼き少女を思わせるような小柄な駆体、純真無垢を表す白いタイツのような戦闘服、四肢に装着された白金の装甲、ハートを型どったような金色の翼、そして朱い“一つ目”が妖しく光るバイザーを装着し、無数の“天使の輪”のような兵器を操る人型兵器。
名をミカエル――――古代文明に於いて『ガブリエル』と並び称された天使の名を有する機械天使。
「起動……起動……起動……♡ 対厄災粛清用人型戦闘兵器【機械天使】、タイプ“γ”【癒やしの天使】……此処に起動開始致しましたぁ♡」
次に現れたのはお淑やかな雰囲気を放つ天使。
翡翠色に輝く長髪、あらゆる者を抱擁する果実のように豊潤な駆体、純潔を証明するような純白のボディースーツ、露わにされた瑞々しい四肢、蝶の翅を模したような翡翠色の翼、朱き“一つ目”を憂いげに発光させたバイザーを装着し、両脇に巨大な黄金の竪琴のような兵器を従えた人型兵器。
名をラファエル――――先のミカエルと同じく『四大天使』を起源とする機械天使だ。
「起動ッ、起動ッ、起動ォォ!! 対界殲滅用人型戦闘兵器【機械天使】、タイプ“Δ”【破壊天使】、起動開始ィ!! さぁ、主機にぶっ壊されてぇ奴は何処だァァ!!」
最後に現れたのは苛烈極まる天使。
常に発光し続けて灼熱に燃える紅い長髪、戦闘に特化した靭やかな駆体、破壊衝動を詰め込んだような黒いボディースーツ、四肢や胸部に装着された武装まみれの装甲、炎のように荒ぶる紅い翼、動く度に軌跡を朱い残光として残す“一つ目”のバイザーを装着し、自身の背丈よりも大きい大剣を振り回す人型兵器。
名をウリエル――――『四大天使』の最後の一機。
「「「我ら『守護天使』、及び量産型機械天使一万機、女神アーカーシャ様の命にて馳せ参じました! さぁ、我々に“粛清”のご命令を……!!」」」
三機全てがジブリールやルシファーに匹敵する【大天使】だ。そんな彼女たちは俺たちを挟んだ向こう側、湖に浮かぶ教皇ヴェーダに向けて空中で跪いていた。
そして、王都の遥かに上空、朱く染まった空に輝く無数の朱い発光体が続々と姿を現し始める。
「な、何よアレ……!? まさか……全部、機械天使だって言うの!?」
「そ、その通りなのだ、リリィお姉ちゃん……! あの小さな光……全部が機械天使の“一つ目”の光なのだ……」
「嘘でしょ……!? あのチビ天使、一万の軍勢って言ってたわ! あり得ない……御主人様が倒すのに手こずった機械天使が一万なんて……私らだけじゃ多勢に無勢すぎるわ!」
王都の空を覆い尽くしたのは機械天使の大軍、その総数はミカエルたちの言葉が正しいのなら一万、想像を絶するような数値だ。
ヴィンセント陛下が繰り出した数よりも、【死の商人】が旗艦アマテラスから運び出した数よりも明らかに多い、多すぎる。そのあまりの数の多さにほとんどの騎士たちが戦意を喪失し、俺たちを追い詰めていたダモクレス騎士団の騎士たちの完全に動きを止めてただ呆然と空を眺めるしかなかった。
「ミカエル、ラファエル、ウリエル……! まだ稼働していたの……!? それに……貴女達、まさか女神アーカーシャに組したの?」
「あら〜、お久しぶりねぇ、ガブリエルちゃん♡ まさかまた逢えるなんて、本機、柄にもなく感激したわぁ〜♡」
「久しぶりだなァ、ガブリエル、それにルシファー! 旗艦アマテラスの墜落と共に大破したと思っていたぜ、アッハハハハハ!!」
「ガブリエル、自機たち『四大天使』から引き抜かれた裏切り者! まさか貴女が死に損ないの弱々ラストアーク博士とつるんでいたなんて衝撃だわ〜! まぁ、自機たちの超☆スペシャルな連係に付いて来れなかった落ちこぼれの雑魚にはお似合いの地位よね〜♪」
「相変わらず減らず口ばかり……これだから『四大天使』は嫌いなのよ……! 当機が勘定に入ってなくて良かったわ……!!」
その三機の名を聴いた時に感付いたが、やはり彼女たちはガブリエル、もといジブリールと同性能の機械天使らしい。そして、ジブリールたちとミカエルたちの会話を聞くにお互いあまり関係は良好ではなさそうだ。
ミカエルはジブリールは『引き抜かれた裏切り者』と小馬鹿にしながらも厳しく罵っている。恐らくジブリールがノアに引き抜かれた事が不愉快なのだろう。その証拠として、彼女たち三機はその“一つ目”でノアを一度だけ冷ややかな視線で目視していた。
「何を呑気にしている、三天使ども! 女神アーカーシャ様の御前だぞ、頭を垂れろ!」
「あ~、はいはい、分かっていますよーだ! まったく……“火”ったら女神の子どもだからって偉そうにしちゃって……! は~い、ラファエル、ウリエル……偉大なる創造神、アーカーシャ様にご敬服〜♪」
跪きながらもジブリールたちにやっかみをしていた三天使たちはフレイムヘイズ卿に一喝され、怪訝そうな声色で悪態を吐きながら教皇ヴェーダに対して頭を垂れ始めた。
「フレイムヘイズ卿が……女神アーカーシャの子ども? それに……機械天使たちが教皇ヴェーダに平伏している……まさか!?」
「そのまさかですよ、ラムダ=エンシェントさん? 神殺しを目論む反逆者よ……」
フレイムヘイズ卿は三天使に『女神アーカーシャの御前』だと喝をいれ、三天使たちは教皇ヴェーダに平服の意を示した。
その天使たちの行動は、ある一つの事実を浮かび上がらせるには十分だったのは言うまでもない。
「意識レベル……降臨……!」
不敵な笑いと共に左右に割れていく教皇ヴェーダの仮面。そして、素顔を晒した者は『人ならざる者』。彼女の顔を見た瞬間、ノアの表情が一気に険しくなった以上、其処に居るのが末恐ろしい“何か”なのは俺にも容易に想像が付いた。
顕になったのは絶世の美女の素顔――――誰もが『美しい』と謳うであろう美の化身たる造形をした、人形のような顔立ち。そして、ノアと同じ朱き瞳を輝かせた至高の存在。
「我が名はアーカーシャ、この世界を想像せし唯一無二の絶対神。さぁ、平服しなさい……これよりは女神の裁定の刻……!!」
その名をアーカーシャ――――この世界の創造者にして唯一無二の“神”であり、“神無き世界”であった古代文明で人為的に造られた『機械仕掛けの神』。
「お久しぶりですね。ノア=ラストアーク……お母様♪」
「アーカーシャ……!!」
――――ノアが生み出した最大最悪の【大罪】。




