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呪われ侍女と恋する勇魔  作者: 双羽みつ
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性悪騎士との攻防

いよいよ彼と再会します。


 

ーーーー独り。


ーーーー唯独り……。


大勢の人が楽しそうに行き交う喧噪の中、


私は、たった一人で立ち尽くしている。


寂しくて今にも涙が溢れそうなのに、誰一人私に気付かない。見ようともしない。


いや。寧ろ恐れているのだ。


生まれながらに【呪われた侍女】とゆう、宿命を背負ったーーーーーー

この私をーーーーー


 

  ☆彡


 

深夜遅く。寝台の上で、ティファニー ポジットは、現実世界へ逃げ帰るように覚醒した。

恐い夢から覚めた事を認識するまで、そう時間は掛からなかったが、彼女の心臓は、直ぐには正常な鼓動を取り戻しそうに無かった。

何とか落着きを取り戻そうと、大きく深呼吸をし、暗い部屋の天井を仰向けの姿勢のまま見つめる。

 

「ーー……」


遠い場所。

知らない世界。

見知らぬ暗い部屋に、独りきり……。

ふと、こんな疑問が湧き上がる。

沢山の人の中独りぼっちで居るのと、暗い部屋で独りぼっちで居るのとでは、どっちが孤独で、どっちが寂しいのかーーと……。


住処が変わるなんて、今まで幾度なく繰り返してきた事だが、まさかこんなにも遠くまでやって来る事になるとは流石に今迄一度も考えもしなかった。

家族や友は勿論、知り合いも無く、想い出のこもった物さえ持ち合わせていない。

何処にも居場所の無かった人間界から離れたのに、少しも恋しくないと言えば嘘になるが、そんな事は到底贅沢な悩みだ。

ロージック王子は、命を懸けて、この自分を雇ってくれた。今迄のご主人様たちも同様だ。

彼等に恥ずべき行動は出来ない。

どんな仕事でも、精一杯の力を出し切ろう。

そして。一日でも早く、この魔界に馴染めるよう頑張ろう。

彼等が、この自分を【呪われた侍女】でないと言ってくれるなら、自分でも自分を信じてみよう。

一度くらい、命を懸ける思いで自分を奮い立たせる事だって出来る筈だ。

もう、運命になんか負けたくはない。

 

ーー私は……、私に関わってくれた人たちを、幸せにしたいから…………。


そう心で誓いながら、ティファニーは、寝台の上でそっと瞳を閉じた。




   ☆彡



 

突如として、顔面から水中に放り込まれたような冷たさと息苦しさに、ティファニー ポジットは、跳ね起きた。

実際に水分を吸い込んでしまったらしく、噎せ返ってしまい、激しく咳込んでしまう。

髪も身体も、掴んでいるリネンも、ビショビショに濡れている。

どうゆう事なのか。自分は寝ていた筈なのに。



「起きろ」


 

頭上から聴こえて来た男の声に、反射的に顔を上げた。


「?!!!」



男の顔を見た瞬間、絶句する。

恐怖心さえ覚え、思わず口がパクついた。

 

「ーーあ、あ……」


立って居たのは、バケツを手にした、不気味で異様な風貌の騎士。

闇から抜け出して来たような漆黒の髪の下に除く瞳は、同じく漆黒の化粧で薄気味悪く縁取られており、更に左頬には、碧い星型のタトゥーが刻まれていた。


「何時までも寝てるんだ。仕事の時間だ」


タトゥーの下の口元が動く。

いくら化粧で塗り潰しても、本来美形な顔立ちと分かるが、発せられる眼差しと言葉は、冷徹で乱暴だ。

 

「ーーあ、あの……。き、騎士様……。仕事って……、まだ……」

 

確かに部屋には朝日が差し込んではいるものの、時計の針は、まだ朝礼の時間よりも大分早い時刻を指していた。

昨日のうちに別の黒騎士から、朝礼に間に合うように出勤すれば良い。と、言い渡されていたのだ。


「アンタの主人が高熱で寝込んでるんだ。それでもおちおち寝てられるってのか?」


「えっ……??」


素っ頓狂なティファニーの返答に、苛立ちを露わにする騎士。


「ロージック様が、びょうきなんだよ! びょ・う・き!!」


「ろっ、ロージック様が、熱を出されたんですかっ?!」


黒騎士は、少し間を空けると、ジト眼でティファニーを見返し、彼女の心を簡単に射抜くような言葉を吐き捨てた。


「ーーああ。生まれた時から健康優良児だったロージック様が、アンタを雇った途端に、高熱で死の淵を彷徨ってるんだ。これが噂の【呪われた侍女】の所業か? 本当に効果覿面だなっ!」


「あのっ……、大丈夫なんですか?! どんな具合なんでしょうか??」


 ーーしかし。それ位の痛みで動じ無かった反応が、返って彼の怒りを増悪させてしまったのか、顔面に刻まれたタトゥーがピクリと引き攣る。

 黒く縁取られた青葉色の瞳の奥からは、殺意さえ垣間見えた。


「アンタが知ってどうする? 心配してるのか? まさか惚れちまったんじゃないよなぁ?!」


「わっ……、……私はただ、ロージック様の容態が知りたいんです」


「だったら自分の眼で確かめてみろよ。勿論、仕事が終わってからの話だけどな」


そう言いながら、黒騎士は、おそらく侍女の制服であろうーー白と黒を基調とした洋服をティファニーの脚元に放った。そしてーー、


「とっとと着替えて、エントランスへ降りて来い。主人を呪ってる暇なんか無い位、働かせてやる」


捨て台詞を吐くと、冷たい空気だけを残して部屋から出て行った。


 

 扉の音。



「……」


 

再び独りきりになった部屋で、ティファニーは、人知れずその身を震わせた。

寒さから来る震えでは無いーーーー。

恐怖していたのだ。

また、主人を失うかも知れないとゆう不安にーーーーーー。



  ☆彡

 


着替えを済ませたティファニーが、朝礼の行われるエントランスに到着した時は、既に数人の侍女達が集まり始めている所だった。

白黒の前掛け付きワンピースに身を包んだ侍女達が、こちらをチラチラと見ながら耳打ちし合っているのを見て、急に居た堪れない気持ちになり下を向く。彼女たちの良く無い噂の対象が自分だと分かり切っているからだ。

さっきのあの不気味な黒騎士が言っていた事が本当なら、ロージック王子が熱で倒れたのは、【呪われた侍女】のせいに違いない。ーーと、誰しもが考える所だろう。きっと彼女たちも、そんな事を囁き合っているんだーーと、手に取るように分かった。

 

「はぁ……」


 大理石が敷き詰められた床を見つめながら、思わず溜息を洩らした時ーー、


「ーー?!」


カツカツと音を立てながら、黒い革靴が視界に入り込んで来た。

嫌な予感に襲われそっと顔を上げると、例の黒騎士が、恐い顔(彼にとっては、平常通りの顔なのかも知れないが……)で、こちらを見下ろしていた。

 

「アンタの仕事場はこっちだ。遅れずに付いて来ないと容赦無く置いて行くぞ」


形の良い唇から冷たい声が発せられたと思ったら、ティファニーの反応も待たずに身をひるがえし、速足にエントランスから離れて行ってしまう。

 

「……?! ちょ、朝礼に出なくて良いんですかっ?」


慌てて後を追いながら、質問を投げ掛けるが、返答は無い。

それどころか、振り返る事も無くどんどん先に行ってしまう。

 

「あっ、あのっ……」


先輩侍女達や従者達が、顔を(しか)めながらこちらを見ている。ライムにもう一度話し掛けようと思ったが、これ以上状況を悪くしたい訳ではないのでやめておくことにした。それが賢明な判断だと自分自信を信じた。

 

当然と言えば当然だが、魔王城の中は、ティファニーが今迄務めて来たどの御邸よりも豪華で迷宮的な複雑な造りをしていた。

階段を登ったと思ったら、ちょっと進んで、今度は別の階段を下りて行く。

騎士を見失ったら、本当に迷ってしまいそうなので、何時の間にか彼の後姿を必死に追い掛けていた。

スラリと伸びた長い手脚。揺れる黒髪。腰の長剣がリズム良く上下する。

颯爽と歩く黒騎士の背中は凛々しく、見惚れてしまうくらい格好良いものだった。

それに、以前にも何処かで見た事があるような後ろ姿をしていた。

ーーだが。幾ら考えても、それが何処の誰かも想い出せなかったし、まずそんな事は有り得ないーーと、ティファニーは、自分に言い聞かせるように首を横に振った。

魔界の住人と、人間界で逢った記憶なんて一度も無いのだからーー。

 


暫く進むと城の外に出たが、湖を望む回廊になっていただけで、また直ぐに別塔に入って行った。

ーーしかし。

差ほど大きくも無い石造の別塔の中に脚を踏み入れた途端、ティファニーは、唖然とする事になった。

目の前には、豪華絢爛の主塔とは全く正反対の光景が広がっていたのだ。

本来開け放たれるべき筈の無数の窓は、幾重にも重ねられた鉄板で堅く封じられており、暗い空間に、古い廃材やごみがあちこちに山積みにされている。

光が差し込まないせいであろう。室内には、黴臭い湿った空気が充満し、極めて不衛生な状況を作り上げていた。

思わず声を失ったティファニーに、黒騎士は、嫌見たらしく一言告げた。


「さあ、着いたぞ。ティファニー ポジット」


「ーー……えっ……?」


「暫くここがアンタの仕事場だ。この中を片付けろ」


「ここを……ですか?」


 ティファニーの問いに身体ごと振り返った黒騎士は、意地が悪そうに眼を細める。


「不満でもあるのか?」


「ーーい、いえ。何でもありません」


どんな仕事でも精一杯頑張ると、昨晩、自分自身に誓ったばかりなのを思い出した。

たった一晩にして失った信頼は取り戻せないかもしれないが、これから作り上げる事は出来るかも知れない。

いや。そもそも、【呪われた侍女】とゆう通り名がある事自体、信頼なんて初めから無いのだ。


「あの、騎士様」


「何だ?」


「ここは、お掃除するには暗過ぎますし、どうしても窓を開けたいんですが、私の力だけでは、あの鉄板は外せそうにも無いんです。どなたかにお手伝いを頼んで頂けると助かるんですが……」


なるべく彼の機嫌を損ねないように頼んだつもりだったのだが、当の黒騎士は、舌打ちをすると何やらブツブツ独り言を言った。


「チッ。ーーーーだからって何で俺なんだよ……」


「?? どうかなさったんですか?」


「ーーいや。何でも無い。窓の目張り外しは、俺がやる。アンタは掃除な」


「でも……それでは、騎士様のお手を煩わせてしまいます。他の手の空いている従者の方で構いませんので」


ティファニーなりの気遣いのつもりだったのだが、逆に、黒騎士は、困惑の表情を浮かばせた。


「こっちが構うんだ」


「ーー??」


「ロージック様のご命令なんだよ。アンタの教育係件補佐に付けとーー。俺にな」


「?!」


「驚いたか?」


「ーーえっ……あっ、はい。少し」


初めて聴かされた事実に、少々驚いたのは本当の事だった。

唯でさえ嫌われているのに、何故、この恐い黒騎士がばかりが、接して来るのかと疑問に感じていたのだ。

優しそうな騎士なら、他にも沢山居るのにーー。


「じゃあ、ついでにもっと驚く事も教えてやろう」


「ーー?」


「アンタにここの掃除をさせる事を決めたのは、ロージック様だ」


「?!」


まるで確認するかのようにティファニーが驚いた様子を見てから、黒騎士は、ケラケラと笑った。

 

「何か期待でもしてたのか? ロージック様は、【呪われた侍女】のアンタを興味本位で雇っただけだ。それ以上でも、それ以下でも無い。飽きたら捨てられるぞ。その前に、とっとと自分から魔界ここを出て行くんだな」

 

「……」


僅かに入って来る外光が、男のタトゥーを不気味に浮かび上がらせていた。




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