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呪われ侍女と恋する勇魔  作者: 双羽みつ
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遠い昔の僕と……Ⅰ

お待たせしました。

前回の続きになります。

彼の視点から見てしまうと、胸が切なくなって困ります。

自分で作った人なのに(笑)

 

「ーーねえ。それでさ、ティファニーの様子はどうだったの? ライムに意地悪されて、人間界に帰りたくなったかな? それとも、もっと派手に虐めないと諦めないかな?」


 

 古い魔導書が四方八方にズラリと並べられた書庫の片隅で、机の上に頬杖を付きながら、魔界の第三王子トッピー ジェファーソンが、物騒な言葉を並べていた。


「ロージック様の病状は一晩で城中に広まりましたし、他の従者や侍女たちの中には、既にティファニーに嫌悪感を募らせている者もいます。居場所が無くなれば、時間の問題でしょう。ロージック様も、タイミングの良いお方で本当助かりますよ」


 第二王子に対する皮肉たっぷりの台詞を吐きながら、黒騎士ライムは、目的の魔導書を探していた。

 別塔の窓の目張りを外そうとしたまでは良かったのだが、かなり厳重な魔法が掛けられおり、それを破る為の方法を調べているのだ。 

 仕事中のライムに構う事無く、トッピーは、友達のように語り掛ける。


「でもさ。余りにタイミングが良すぎない? これって、本当にティファニー ポジットの呪いだったりして……。うぅ、こわぁっ……」


 少々大袈裟に身を震わせた主人に、ライムは、本気か冗談か分からない顔で警告した。


「シッ……言葉に気を付けて下さい。【呪われた侍女】の呪いは、こんなものじゃ済みません。彼女に呪われた者は、生きたまま四肢をへし折られ、五臓六腑が飛び出すまで高所から地面に肉体を叩き付けられるそうです。ーー何度も、何度も……」


「ーー……」


 青ざめた顔のトッピーの身体は、恐怖の余り、本当に震えているようだった。


 ーーちょっと恐がらせ過ぎたかな……。


 魔導書を捲りながら、黒騎士は、小さな主人を気遣い話を逸らした。


「しかし、本当によろしいんですか? ティファニーがロージック様と婚姻しなければ、試練は失敗。ロージック様のお命は無くなるんですよ?」


「どっち道同じ事だって気付いたんだ。このままティファニーがここにいても、誰かは呪われて死ぬんだもん。だったら、ロージック兄さんには消えて貰って、僕が王位を継ぐよ」


 まだ十歳そこそこだと言うのに、トッピーは、世の中の条理や不条理を理解し、『何かを得る為には、何かを捨てなければならない』と言った考えさえも、自分の中に構築させているようだった。

 ライムの心中には、子供ながらもそう為らざる得なかったトッピーの思考回路と、彼を取り巻いてきた環境に、多少なりとも同情の想いが存在していた。

 ライム自身も、アクシス グランドールとして生きていた頃、病気を患っていた事で迷惑を掛けていると家族や周囲の人々に気遣い、余り子供らしい振る舞いが出来た記憶が無かった。せめて何時も明るく振る舞おうと努力をしていたし、両親を安心させたくて、人一倍勉学も頑張った。『太陽のような少年』と称される事もしばしばあったが、本心では、取り繕った自分の姿にうんざりしていたのだ。

 そんな昔の自分を彷彿とさせるトッピーと、遠い日の自分を重ね合わせ、彼等を気の毒に感じた。


 ーーああ……。だから俺は、この人が好きなんだな……。


「ご安心をーー。ティファニーは、俺が必ず人間界に追い返してみせますよ」

 

 ここ一、二年間ずっと疑問に思っていた事に答えが出た後、視線を魔導書からトッピーに移し、ニッコリと微笑んだ。

 

「ふふっ。僕が次期魔王になったらさ、絶対にお前を大臣にするから、死ぬまで僕に尽くすって約束してくれる?」


「ーー……」


 思い掛けない主人の提案に、思わず息をするのも忘れ、暫し沈黙してしまった。

 三年前の夜にティファニーと約束をした時の事が、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。

 黒騎士としても、友としても、大抵の願いは叶えてやりたかったのだが……、


「ーーーーすみません。約束は、もう……しない主義なんです」


「『もう』って何?! 以前した約束が守れなかったとか……そうゆうセンチメンタルな心の傷でも抱えてるの??」

 

 ライムは、主人の軽い冗談に微笑してから答えた。


「はははっ……。そうじゃないんです。既に約束をした時には、その約束は守れないだろうと思っていましたから……」


「じゃあ、何の為に約束なんかしたのさ?」


「目の前で好きな女の子が泣いていたら、その子を笑わせる為に嘘くらい付くものでしょう?」


「ーー……。僕にはまだ分からないよ」


「おっと。初恋がまだでしたね。でも、そのうちきっと分かります。ーー俺が辛かったのは、唯でさえ嘘で塗り固めた人生の中で、好きな子と交わした約束さえ嘘になってしまった事です。ーー最初から守れないと分かっていたんですよ。二人とも……」


 そこまで言うと、手にしていた魔導書をハタリと閉じ、まだ半信半疑の表情を浮かばせている小さな主人を優しく諭した。


「さあ、お勉強に戻って下さい。次期魔王様」


「分かったよ」


 



 廊下でトッピーを見送った後、魔導書を手に最初にライムが向かったのは、魔王城の裏庭にある厩舎だった。

 この魔導書に記載されている魔術と斧が有れば、窓の目張りは、簡単に壊せる事が分かった。

 厩舎の扉を開け、中に脚を踏み入れた途端ーー、懐かしい匂いに包まれる。

 決して良い匂いとは言い難い筈だが、ライムは、思わず瞳を閉じて、その香りを胸いっぱいに吸い込んだ。

 

 ーーそう。この匂いだ……。

 ーーあの頃が、一番偽り無い自分だったかもな……。


 ーーーー遠い遠い、昔の記憶が甦る。

 エルゼアル城の厩舎で寝泊まりしていた長い年月。

 隔絶感と孤独さえ味方に付け、それを自由だと信じていた日々。

 恋い焦がれていた【運命の恋人】に告白され、厩舎の中で、何度も愛を確かめ合った夜。

 

 ーーしかし。これらの記憶は、ライムの時の物でも、アクシスの時の物でも無かった。

 彼の魂の元凶である男の記憶。

 名は、シギー ハント。

 片腕を切り落とされる事で勇者になった、哀れな男ーーーー。




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