表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/32

第29話 次の日の学校

 月曜日がやってきた。

 今日からまた、長い一週間が始まる。


 いつも通りの通学路を歩き、いつも通り学校へと向かう。

 最初は慣れなかったこの通学路も、気付けば自分の中での当たり前へと変わっている。


 季節は春を過ぎ、差し込む朝の陽ざしは夏の訪れを感じさせる。

 ついこの間二年生に上がったばかりな気がするが、新緑眩しい景色の変化は時の変化を気付かせる。


 当たり前に変わっていくものと、当たり前が変わっていくこと。

 それは季節や景色だけではなく、自分自身にも起きている。


 俺はずっと、自分自身にルールを課してきた。

 それは自分自身のためなのはもちろん、関係するみんなのためだとも思ってきたし、別にそれが間違っているとは今でも思っていない。


 ……でも別に、取り得る選択肢は一つではないのだ。

 さらに言えば、ルールそのものが不要な場合だってある。

 けれど今までの俺は、他の可能性が存在するという発想がなかった。

 だから自分の選択が全てで、それが最善だと結論付けていた。


 というか、そもそも考えようともしていなかったのだ。

 いつも事なかれ主義で、他人に期待もしない。

 そのうえで自分さえ気を付けていれば、物事は全て上手くいく。

 そんな、全てを自分の中で閉ざした考え方が、気付かぬうちにしっかりと根付いてしまっていたのである。


 別にそれが間違っているとは思わないが、我ながらつまらない考え方をしていたなと思う。

 そう思えるのは、他でもない音洲さんのおかげ。

 彼女のいつも明るく前向きな性格に、多分俺も引っ張られているのだと思う。


 明るい性格だけで言うなら、街頭するのは光雄や他の友達の中にも沢山いる。

 それでも、音洲さんだけがここまで俺に影響を与えているのは、他でもない俺と音洲さんが似た者同士だからだろう。


 同じ境遇のはずなのに、自分とは真逆とも言える前向きな振る舞い。

 それはある意味、皆の言うとおり矛と盾の関係なのかもしれない。


 だからこそ俺は、そんな音洲さんに憧れに近い感情を抱いているのだと思う。

 異性に対して、こんな風に感じたことなんて一度もなかった俺にとって、その全てが新鮮に映っているのだ。


 今日もまた、音洲さんに会える――。


 その楽しみだけで、また今日から始まる一週間も楽しみに思えてくるのであった。


 ◇


 教室へ入ると、今日もいつも通りクラスメイトの女子達に囲まれる。

 以前なら苦痛に感じられていたけれど、今では他愛のない会話を楽しむ程度の余裕が生まれている。

 

 ちなみに音洲さんはというと、まだ席に姿はない。

 今日も朝練だろうかと、俺は会話をしながらも隣の席のことが気になってしまう。


「あ、おはよー姫花」

「うん、おはよー」


 そして暫くすると、教室の端の方から音洲さんの声が聞こえてくる。

 男女問わず、クラスのみんなと元気に朝の挨拶を交わす、いつもと変わらない音洲さんの明るい声。


「南光くん? どうかした?」

「ああ、ごめん。そろそろ始業の時間だしいいかな?」

「あー本当だ。じゃ、またねー」


 俺の一言で、みんな席から離れていく。

 本当はまだ時間に余裕はあるが、みんなも空気を読んでくれたのだろう。

 きっとみんなは俺の元へ、好かれるために集まっている。

 だから基本的に、俺の要望は素直に聞き入れてくれるのである。


 というわけで、これで俺も自由の身。

 ちょうど隣の席へ着席した音洲さんと、バッチリと目が合ってしまう。


「おはよう、音洲さん」

「お、おはよう南光くん」


 とりあえず挨拶をしてみると、目を泳がせながら少しぎこちなく挨拶を返してくれる音洲さん。

 何故そんな反応なのかは分からないが、ぎこちない姿がちょっと可笑しくて思わずクスリと笑ってしまう。


「あっ! 今、笑った!」

「笑ってないって」

「嘘だ、絶対に笑ったよ!」


 何だか、音洲さんとはいつもこんなやり取りをしている気がするな。

 でもおかげで、音洲さんも自然体になれているみたいだし、結果オーライということにしておこう。


「それで、えっと……昨日はありがとうね」

「え? ああ、こちらこそ」

「……また分からないところがあったら、聞いても良い?」


 周囲に聞かれないように、囁くように聞いてくる音洲さん。 

 この広い教室内で、そんな二人だけのやり取りが少しこそばゆく感じられる。

 俺が頷くと、音洲さんはぱぁっと花開くような笑みを浮かべる。

 そんな反応も新鮮で、何だか恥ずかしくなってくる。


「ふふ、隣の席が南光くんで良かった」

「それは、どういう意味で?」

「えへへ、秘密だよ」


 理由を教えてくれない音洲さんに、俺は完全にペースを乱されてしまう。

 こんな風に意識してしまう異性なんて初めてだから、こういう場合どういう反応をすれば良いのか分からない。


 絶対に落とす音洲さん――。


 それが、この学校で呼ばれる彼女の二つ名。

 忘れかけていたが、他の誰とも違う特別な何かがあることを、俺は改めて分からされるのであった。

 


  

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ