#64 人間って生き物
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
活動報告にて、本作を要約したあらすじを公開しています。
復習などにご活用ください。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1368468/blogkey/3440477/
以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
シェリルから任務を聞き困惑が収まらぬまま、次いでリエネに、仮の話として"魔王討伐後の、親の仇ハリソノイア"との向き合い方を問われたラツンジパ。
老婆はリリニシアから、彼女がハリソノイア人と聞いていたことを語りながら、"ティサンでもハリソノイアでも同じ"と、戦いを避ける考えを明かした。
"戦争の痛みを知っている"。
そう語る老婆に、レピはそれ以上、何も言えなかった。
「そう、ですか。ありがとうございます…」
「構わんさ。…あんたもだよ」
「…僕も?」
「悩んで、苦しみな。まだまだ魔術師としちゃ未完成なんだからね」
「分かるのですか」
「あぁ分かるね。大方、マキューロ内でも上級の二、三回も使えばヘタっちまうくらいだろう?」
「…仰る通りです」
図星を突かれ、レピは恥じ入るように視線を伏せる。
「24って言ったろ。若さの割には大したモンさ。けどまだまだ…これからさね」
「精進します」
レピの回答に満足気な笑みを浮かべ、老婆は矛先を変えた。
「それで?あんたはどうするんだい、ラツンジパ。もし仮に、そんな世界になったら」
「俺は…でも…」
ラツンジパは俯き、丸めた肩を震わせ拳を強く握り締めながら葛藤する。
「分かんねぇよ、そんなの…!祖母ちゃんは悔しくねぇのかよ!?母ちゃんが…自分の娘が殺されたようなモンじゃねぇか!」
「…悔しいさ。悔しいし許せないよ。"個人の思想"としてはね」
敢えて先ほど自らが口にした言葉を、老婆は再び用いた。
「またそれかよ…!」
「ならラツンジパ、あんたは"許せないからハリソノイアと戦争する"ってのかい?」
「それは…!」
鋭く問われ、ラツンジパは押し黙る。
「ふん…だからって"戦う"とも言えないじゃないか。だから青いってんだよ、あんたは」
「くっ…」
「結局はどちらかを選ぶしかないんだ。提示された選択肢に駄々を捏ねてても、何も始まりゃしないよ。新たな選択肢を作り出せるだけの力があるなら別だがね」
その様子に耐えかねたリエネは、申し訳なさそうな様子で口を挟んだ。
「差し出がましいようですが、ご老体。何も今すぐに決めなくてはならない話ではありません。そこまで追い詰める必要は…」
「おや、そうかい?よかったねラツンジパ。ハリソノイア人が庇ってくれたよ」
「っ!」
「…済まない」
"ハリソノイア人"を強調する老婆と、やりきれない感情を叩きつけるかの様に睨みつけるラツンジパに、リエネは"口を出すべきではなかったか"と、自らの行動を悔いた。
「…あ、あの!」
耐えかねたシェリルは、耳目を自身へとさらうべく、ことさらに大きく声を挙げる。
「私たちはこれから元老院の方々に会いに行って、その後で…順番は分かりませんが、ワユギシヘサイや…ティサンにも行かなきゃなりません。それだけでも結構な時間が掛かります。もちろん、出来るだけ急ぎたいですけど…リエネさんが言うように、今、急いで結論を出す必要はありませんから…落ち着いて、ゆっくり考えてみてください」
シェリルの言葉に、老婆は目を丸めて驚いた。
「…あんたの立場じゃ、"ティサンもハリソノイアも受け入れてください"って言うべきなんじゃないのかい」
「そうして欲しいですけど…"受け入れる"って、誰かに強要されるものじゃダメだと思うので」
「へぇ…?」
興味深く見つめる老婆に、シェリルは照れ笑いを見せながら、首を横に振る。
「──なんてカッコいいこと言いましたけど、正直、ラツンジパさんを納得させられる自信がなくて…」
「それでも重要なのは、"納得して受け入れること"な訳だ」
「それは…はい。強要されて、我慢して、無理矢理飲み込むんじゃダメだと思います」
おずおずと頷くシェリルに、老婆はこれまでの笑顔とは質が違う、優しい笑みを見せた。
「リリニシアとはまた違うね。あんた、嫌いじゃないよ」
「え…リリニシア?あ、ありがとうございます」
戸惑いながらも恐縮し、ペコリと頭を下げたシェリルを、今度は鋭い目で見据え、続ける。
「だからこそ、今言っておいてやろう。仮にラツンジパが時間を掛けて考えて、納得したとして…すべてのマキューロ人に納得を求めることは不可能だよ」
「え…」
「いや、マキューロに限った話じゃない。どこも同じさ。人間ってのはね、二人いれば対立できる生き物なのさ」
「そんな…!」
出発前、準備すべきは薬か、肉か、趣向品かでスウォル、リリニシアと言い争ったこと。
ヤクノサニユ人を理由に襲いかかってきたハリソノイア兵。
そんなハリソノイアを作り変えるべく国民と対立する大王、ユミーナ。
魔物の命を奪ったことを"手柄"と称したリエネに激昂したこと。
予言を信じ和睦を図るべく、臣下と対立して反ハリソノイア教育を捨てた、ヤクノサニユ王ゼオラジム。
カロニア──ティサン人への対応を巡り、レピに対し詰問に近い追及を行ったこと。
何より、双子の弟であるスウォルに剣の腕で追い付かれかけていると知り抱いた、否定しようのない対抗心。
反論しようとしたシェリルの脳裏を巡ったのは、見た、聞いた、あるいは自身が引き起こした、理由も規模も様々な"対立"の数々だった。
"それは"に続く言葉が紡げず口ごもるシェリルに対し、老婆は敢えて、重ねて厳しい言葉を投げかける。
「誰からの反対もなく、すぐにでも対立を無くす方法を教えてやろうか」
「え…そんな方法があるんですか!?」
「あぁ、あるとも」
期待に瞳を輝かせたシェリルに、老婆は事もなげに言い放った。
「全員殺しちまうのさ」
「なっ…!?」
「そうじゃなけりゃ、大なり小なり対立は起こる。起こらないなら、それは誰かが我慢して、妥協してるからさ」
「そんな…!」
「当然だろうよ。産まれや育ち、趣味趣向、受けた教育に考えに…あらゆる要素やその組み合わせが一致してなきゃ、どこかで必ず歪みは出る。その歪みを受け止めるのが妥協。…誰かの我慢さ。いいかいお嬢さん、覚えときな」
無情な老婆の言葉を拒絶するように顔を背けるシェリルに、尚も続ける。
「"強要されず、我慢せず、自らの意思で"ってあんたの理想は綺麗だよ。けどね…人間ってのは、そんな綺麗な生き物じゃない」
「…!!」
老婆は淡々と、しかしどこか哀しさを感じさせる声色で言った。
「そんな…じゃあ、私は…どうすれば…」
"そんなことない"って叫びたい。
"きっと分かり合えるはず"って否定したい。
けど…私は確かに考えた。
ハリソノイアで見た、魔物の首を前に喜び、はしゃぐ人たち。
そんな光景を見て、"こんな人たちと本当に分かり合えるんだろうか"って、あの時…確かに思ってしまった…!
自身の理想を、既に自身で否定していたことを突き付けられ、シェリルの額に嫌な汗が滲む。
レピもリエネも、何も言わない。──いや、安易なことは言えない。
老婆の言葉を否定できるだけの材料を持ち合わせてはいない。
重苦しい空気の中、次に口を開いたのはラツンジパだった。
「あんたにとっても、か」
「…え?」
「"焦って結論を出す必要はない"のは俺だけじゃなく…シェリル、あんたも同じってことだ」
「あ…」
「これからまた、時間を掛けて旅ぃ続けんだろ?そん中で色んなヤツを見ながら、じっくり考えたらいいんじゃねぇのか」
「ラツンジパさん…」
シェリルと老婆の会話を聞く中で頭が冷え、冷静さを取り戻したラツンジパは、彼女の中に自らと通ずる苦悩を見出していた。
「ほぉ…」
「な、なんだよ…」
感嘆のため息を漏らす老婆に気が付いたラツンジパは、気恥ずかしそうに頬を掻く。
「あんたも一丁前な口を叩くようになったじゃないか」
「うるさいな…」
「なに照れてんだい」
「照れてねぇ!そ、それよりリリー…ニ、シア…姫?…から、あんたたちに伝言預かってるぞ!」
ラツンジパは誤魔化すように、うっかり"リリー"と呼びかけながらも、たどたどしく発音しながら話を逸らした。
「リリニシアから!?どんな…?」
「"二人で先に、シャファルノールへ向かう。追いかけて来てくれ"…ってさ」
「やっぱり…!レピさんの読み通りですね!」
シェリルは歓喜し、レピに向けて振り返る。
「えぇ。ですが不確定な"可能性"から、確実な"断定"に変化したのは大きいですよ。やっぱり不安もありましたから」
「そうだな…」
「じゃあすぐに追いかけましょう!」
「いえ…もう少しだけ、僕に時間をいただけますか」
早速立ち上がろうとしたシェリルを、レピはやんわりと制した。
「え?けど急がないと…」
「いつもの質問か?」
「申し訳ありませんが、それも含めて、です。いくつかお尋ねしたいことがあります」
急ぎ合流したいシェリル、呆れ気味なリエネに対し済まなそうに詫びてから、レピは老婆に尋ねる。
「まずはいつもの…。"禁じられた魔法"のことをご存知ではありませんか?」
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次回は3月30日20時にXでの先行公開を、31日20時に本公開を行う予定です。
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~次回予告~
レピの"いつもの"質問を受け、探す目的を尋ねる老婆。
同じくいつも通り、"見つけること自体が目的"だと語るレピに、老婆は一つ、大きな情報を授けた。
次回「老婆の古き友」




