#52 魔術師の策
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
活動報告にて、本作を要約したあらすじを公開しています。
復習などにご活用ください。
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以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
分散しながらなんとか攻撃を凌ぎ、再び集合し体勢を立て直した一行。
リエネは自らが与えた巨大生物の顔の傷が再生していることに気が付いた。
魔物である可能性が浮上した巨大生物に対し、“危険な魔物なら排除せねば”と、恐怖を乗り越えて戦闘に突入する。
“考えがある”というレピの指示の元、スウォルとリエネは再生速度、シェリルとリリニシア、レピは弱点の分析を開始する。
「火の魔術!」
一度頭部を狙い、外したリリニシアだったが、レピに諭され、今度は動きの少ない胴体に狙いを変え、再び魔術を放つ。
「──!」
首の付け根辺りを焼かれ、巨大生物は叫びをあげた。
「効いたんじゃありませんの!?」
巨大な敵に対し、自らの魔術で貢献した実感を得たリリニシアは嬉々として振り返り、一歩引いて様子を観察するシェリルに尋ねた。
「水よりは嫌そう!」
「ですわよね!」
「それはいいですが目を逸らさない!戦闘中ですよ!」
「は、はい!すみません!」
喜びも束の間、レピに叱られ、慌てて巨大生物に視線を戻す。
一方スウォルとリエネは、レピやリリニシアが魔術で攻撃を始めたことを察し、不意の身じろぎで蹴飛ばされたり、踏み潰されることを避ける為、わずかに距離を取った。
「てぇ…やぁああ!」
「スウォル…!」
自分が与えた前足の傷の再生速度を観察するリエネの元に、巨大生物の腹に剣を突き立てながら、その下をスウォルが走り抜けた。
「どうだリエネさん!?」
「明らかに治りが遅い!ボロガブザリより更に…!」
「同感だ、“魔物だったら”だけどな!レピさんに伝えてきてくれ!」
「──土の魔術!」
二人が集まっていることを確認したレピは、弱点の確認を兼ね、土の魔術で地面を鋭く隆起させて突き刺し、巨大生物の動きを阻害する。
「レピか…!お前は!?」
「姉ちゃんたちが狙われねぇように、足元でチョロチョロやって気ぃ引いとく!」
「…無理はするなよ!」
ほんの一瞬にも満たない逡巡の後、スウォルに囮を任せ、リエネは他三人の元へ駆けた。
「リリニシア様!」
「えぇ!もう分析はお二人に任せますわ!氷の魔術!」
再びの指示を受け、“自分の役割に集中すべき”と判断したリリニシアは、敵の反応を伺うことを放棄し、魔術を放つ。
「レピ!ヤツはボロガブザリ以上に再生が遅い!」
「やはり…!ありがとうございます、リエネさん」
「後にしろ!それで!?」
「…風の魔術!」
リエネに問われながら、レピは再度、今度は攻撃の為に風の魔術を使用した。
「──!!」
「シェリルさん!どうですか!?」
「今のが一番効いてそうです!」
「風か…!分かりました!リエネさん、ヤツはおそらくボロガブザリの近縁種です!」
「きんえ…は?アレがか!?似ても似つかんぞ!?四足歩行なことぐらいしか…」
困惑するリエネに、レピは構わず続ける。
「見た目は似てませんが、こう…なんか先祖が一緒だったりするんです多分!」
「急に雑だな!?再生が遅いだけでソレは強引すぎないか…?急に不安になってきたぞ、お前の策に乗るの…」
「“だけ”じゃありません、他にも共通する特異性が──」
「ぐあっ…!!」
「スウォル!?」
レピが他の根拠を語ろうとした時、巨大生物の足に蹴飛ばされ、スウォルが呻き声を上げた。
飛ばされた先は──。
「崖!マズい!──土の魔術!」
レピが咄嗟に地に手を付けると、崖スレスレで地面が隆起し、壁を作り出す。
「がっ…は…!」
レピの作り出した壁に背中を激しく打ち付けたスウォルは跳ね返り、そのまま重力に従い地に伏した。
「スウォル!」
シェリルが駆け出そうとするのに先んじて、リエネが動いた。
「私が気を引く!スウォルを!」
「ワタクシが行きます!お二人は策を!」
リエネが巨大生物に、リリニシアはスウォルに向けて走り出す。
「リエネさん、リリニシア…!」
「急ぎましょう、シェリルさん!剣を前に!」
「はい!」
「──纏わせる風の魔術」
従ったシェリルが差し出した剣に手をかざし、レピは巨大生物の弱点と思しき風の魔術を付与し──そのまま、剣に手を近付けた。
剣を取り巻く風の刃が、レピの手をスパスパと裂いてゆく。
「なにを!?」
「ぐっ…簡単に説明します。おそらくヤツはボロガブザリと同様、再生に限りがあります。魔力核を潰さなくても死に至るはずです。充分な攻撃さえ出来れば。なので──増幅させます」
「!」
従来ならシェリル以外を弾き、触らせない勇者の剣だが、魔術を纏っている時に限り、シェリル以外の者が近付いても弾く効果が発動しなくなる代わりに、纏わせている魔術がだんだんと強まってゆく“魔術増幅”。
レピは手早く増幅させる為、自らの手を使うことを選んだ。
「でもレピさん、手が!」
「本当ならヤツを叩いて増幅させて欲しいところですが…ある程度までは、これでムリヤリ増幅させます…!痛ぅ…!」
「アイツ何を…いや、自分のことに集中せねば…一撃でも貰えば終わりだ…!」
果敢に巨大生物の懐に潜り込んだリエネは回避を優先して慎重に、あくまで囮として気を引くことを目的に、小さく斧を振るい続ける。
「はっ…はっ…!スウォル!大丈夫ですの!?…はぁ…!」
「ぐっ…リリ、ニシア…」
「今治して差し上げますわ…!癒しの魔術!」
リリニシアは息を荒げ、震える手をかざし、魔術を──。
「…発動、しない…?なんで…!?癒しの魔術!…そんな…!」
「ぐ…つぅ…!」
「スウォル!どうして…!?なんで出ないんですの…!?」
歪む視界の内にリリニシアを捉えながら、スウォルは初めて魔物と戦った後の、リリニシアの言葉を思い返していた。
“実はワタクシ、チュリヨは苦手でして…!かなり集中しないと、発動出来ないんですの…”
その時は魔物を撃退し、安全な環境にも関わらず息を乱しながら、やっとの思いで発動させていた。
ハリソノイア北東部で魔物によって抉られたリエネの脚を治した時は、側はシェリルがいた。
だが今は──。
シェリルとレピは離れた位置にいて、どちらも策の為に手が離せない。
リエネは囮として、常に死の危険と隣り合わせで奮闘していて、当然こちらにまで手は回らない。
そしてスウォルは──。
「が…ぐぅ…!」
これまでの旅で、常に守ってくれる誰が近くにいた。
今はそれがいない。
その事実が、リリニシアの精神を圧迫していた。
「癒しの魔術…。癒しの魔術ォ!…出なさいってば…。出てよぉ…!!」
それにさえ気が付けない程に動揺している。
このままではスウォルが死ぬかもしれないという絶望感。
加えてここまでの旅で腕を上げたとはいえ、元より不得手な癒しの魔術。
瞳から涙を溢しながら、懇願するように何度唱え続けようと──。
「癒しの魔術ォオ!!!」
──発動しようはずもなかった。
「──!!」
「フン…鬱陶しいだろう?だが無視も出来まい」
自分より遥かに小さな生物が足元を彷徨き、チクチクと細かく攻撃を重ねてくる。
踏もうにも蹴ろうにも小回りで劣り、当たらない。
リエネの奮戦により、巨大生物は着実に苛立ちを重ね、叫び、暴れる。
リリニシアの叫びを搔き消しながら。
「ぐぅ…!」
「レピさん!」
「…僕ではここまでですかね…。これ以上は…増幅させる範囲に届く前に、僕の指が切断されてしまいそうです…」
レピは自らの手にも、中級に高めた風の魔術を纏わせ相殺させながら、シェリルの剣が纏う魔術を増幅させ続けたが、それも限界が来ていた。
「ありがとうございます!足りなければ戦いながら…!増幅させるには斬るんじゃなく、剣の横で叩く…!」
「えぇ、そうです。頼みましたよ、シェリルさん…!」
「はい!」
シェリルは力強く頷くと、巨大生物の元へ駆ける。
「つ…ぅっ!痛いですねぇ、コレ…!集中しなくては…癒しの魔術」
レピは巨大生物を睨み付けながら大きく息を吐き、痛みにより散りそうになる集中力をムリヤリ抑えつけ、自らに治療を施した。
「スウォルくんたちは…くっ!」
こう暴れられては、土煙で見えない…!
だが異常な耐久力を持つスウォルくんが未だ復帰していないということは、何か問題が…。
行かなければ…!
手の治療を終え、走り出そうとしたレピの体を、彼の脚は支えず、その場に崩れ落ちた。
「ぐぁっ!?…短時間で複数種の魔術、それも中級まで使った上に手の痛み、そして…本能的な恐怖…!僕の精神力が追い付いてないか…!けど …!」
レピは立ち上がるべく、震える腕を精一杯地面に突き立て、押し返す。
「りゃああ!!…リエネさん!」
「──!!!」
シェリルは増幅させた魔術を乗せ、巨大生物に斬りかかると、巨大生物は一際大きな悲鳴をあげた。
「シェリル!策は!?」
「レピさんが増幅させてくれました!」
「増幅?そうか、魔術増幅…!だが核を潰さ──」
「なくていいそうです!レピさんが言うには!」
「本当に信用できるのかソレ!?」
「分かりません!でも見た感じ…効いてはいます!」
痛みを紛らわせる為か、巨大生物は大きく体をよじっている。
「…ダメだったら化けて出るからな、レピ…!よし、やるぞシェリル!」
「はい!」
リエネが気を引き、シェリルが斬りつけて威力を確認し、不足と見ては側面で叩き、増幅を重ねる。
やがて──。
「上を攻めてみます!私を打ち上げてください!」
「!…来い!」
一度巨大生物から距離を取ったリエネが斧の側面を構えると、シェリルは飛び乗った。
「行っけぇええ!!」
雄叫びと共に、巨大生物の背中を目掛け、シェリルを放り投げる。
「完璧です…!てやぁああ!!」
「──!!!!」
シェリルが直地と同時に剣を突き立てると、巨大生物はこれまででもっとも大きな声で吠えた。
手応えを確信したシェリルは一度剣を引き抜き、再び突き刺すべく高く掲げた時──視界の端に、未だ倒れ伏すスウォルと、側でへたりこむリリニシアの姿が映った。
「リリニシア!?なにして──」
「──!!」
巨大生物は苦し紛れに体を大きく震わせ、一本の足で力強く地を踏みしめる。
狙っていた訳ではないのだろう。
偶然にもその一踏みが地面を揺るがし──。
「…なんの音だ?」
地が“ピシピシ”と音を立てていることに最初に気付いたのは、伏したままのレピだった。
瞬く間に音は大きく、地鳴りとなり、地響きとなり──そして地が割れる。
崖が崩れた。
スウォルとリリニシアを飲み込んで──。
お読みいただき、ありがとうございました。
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また温かいご感想は励みとして、ご批判・ご指摘・アドバイスなどは厳しい物であっても勉強として、それぞれありがたく受け取らせていただきますので、忌憚なくお寄せいただければ幸いです。
来月、3月14日を持ちまして、本作の#1を一周年を迎えます。
これを一人で祝し勝手に記念して、14日~20日の一週間、毎日20時に投稿を行います。
よろしければお付き合いいただければ幸いです。
次回は2月16日20時にXでの先行公開を、17日20時に本公開を行う予定です。
よろしければフォローいただけますと大変嬉しいです。
~次回予告~
崩れた崖に巻き込まれ、落下して行くスウォルとリリニシア。
二人を救うべく、レピは伏したまま水の魔術を使用するも、滝の力に負けてしまい、決意する。
“これじゃ中級でも…!いくらマキューロと言えど厳しいが…やるしかない!”
次回「残った三人」




