#50 異変の正体
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
活動報告にて、本作を要約したあらすじを公開しています。
復習などにご活用ください。
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以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
最初の目的地に定めた川の向こうの集落に向け進む一行の前に、木々が薙ぎ倒された光景が現れた。
魔物や獣の縄張りであることを警戒し、少し引き下がって朝を待つことにした一行。
リエネが眠りにつき、スウォルとシェリルは交代で見張り、リリニシアとレピは負担がかからない座学と、それぞれの時間を過ごす。
「…不思議だなぁ」
先にスウォルが木々が倒されていた空間を睨み、警戒する中、傍らで身体を休めていたシェリルは、ふと呟いた。
「なにが?」
「ほら、スウォルって寝起き悪いじゃない?」
「…悪かったな」
「そうじゃなくて、あの時はすぐに目を覚ましたから。それが不思議だなって」
「あの時?…どの時?」
「ほら、ハリソノイア北東の防衛線で宿に泊まって…夜中に魔物が吠えた時。ユミーナ様に頼まれてさ」
「…あー」
大王・ユミーナの案で、国民を納得させる為に力を示すべく、ハリソノイアを脅かす巨大な魔物を討った時の出来事。
「あん時は…なんだろ。確かにすっと起きられたな」
「私は遠吠えが聞こえる前に、剣が魔物に反応して目が覚めたんだけど…スウォルもそうだったの?」
顎に手を当て首を捻りながら、スウォルは数ヶ月前の記憶を必死に掘り返した。
「えーっと確かあん時は…どうだったっけ。盾が反応してたのは間違いないはずだけど、言われてみれば起きてから吠えてんのが聞こえた…ような?覚えてねぇよ、もう」
「ふふ…そっか。そろそろ代わるよ。疲れてきたでしょ?」
「…そうだな、頼む」
シェリルと交代し、スウォルが身体を休めることに集中し始めた一方──。
「火の魔術を扱う時には熱を、氷なら冷気を感じるでしょう。風も同じです」
「頭では分かりますけれども…」
リリニシアは、レピによる座学に頭を悩ませていた。
「確かに、火や氷と違い、“象徴”がないというか…常に吹いているのが当たり前で、故に特別に感じづらいでしょう。そういう意味で、リリニシア様にとっては一段、難易度が高く感じるかも知れません」
「ワタクシにとって…。他の方にとっては違いますの?」
「こればかりは資質ですね。風がもっとも簡単だと思う者もいれば、リリニシア様のようになかなか掴めない者もいます」
「風の魔術はワタクシに不向き、ということですわね…。──上等じゃありませんの」
俯きながらレピの言葉を噛み砕き、再び顔を上げた時、リリニシアは不敵な笑みを浮かべていた。
「なんか燃えて来ましたわ。ワタクシに不向き…そう言われると、是が非でもモノにしたくなりました」
「ふふ…お付き合いします」
リリニシアが気合いを入れ直し、スウォルが目を瞑り、しかし眠らず心身を休ませ始めてからしばらく──。
「…なんだ?」
何かに気付き、スウォルはゆっくりと目を開けた。
「うん。何か聞こえる。滝とは別に、ズン、ズンって…。レピさん、これは…」
見張りを続けていたシェリルが、スウォルの言葉に頷きながら、警戒したまま目線は動かさず、レピに言葉だけ投げ掛けた。
「…足音、ですかね。リリニシア様、リエネさんを」
「分かりましたわ」
「もう起きてる」
「ひっ!?」
レピの指示を受け振り向こうとする、その後ろから起こすべきリエネに声を掛けられ、リリニシアは小さな悲鳴と共に飛び上がった。
「びっ…くりしましたわぁ…」
「失礼いたしました、リリニシア様。地面に振動が伝わってきたもので、目を覚ましてしまいました」
「頼もしいことですのね…」
「リエネさん、すぐに動き出せるよう準備を」
「分かってる。…何者だ?」
「まだなんとも。一つ言えるのは…こっちの方から近づいてきている、ということくらいです」
荷物を纏めながら問うリエネに対し、レピはシェリルの横に移動し、木の影に身を隠すよう縮こまりながら答える。
「分かりきったことをありがとうよ。…む?音が変わった…」
支度を済ませ、皮肉と共にリエネも移動し、同じく木陰に身を隠すと、既に剣を抜いているシェリルが額の汗を腕で拭いながら答えた。
「水の音…。レピさんが言ってた、大きな川を渡ってるのかな」
「おそらく。だとすれば、まもなく姿が見えるはずです」
「リリニシア、俺の後ろに」
「わ、分かりました…」
真剣な表情で音のする方を睨み、盾を強く握りしめるスウォルに、リリニシアは口答えもせず、大人しく従う。
「…!」
やがて姿を現した音の主に、全員が言葉を失う中、最初に言葉を発したのはリエネだった。
「で…でかい…!間違いない、あれだ…!」
大人三人分の高さだった、ハリソノイア北東の魔物。
太く長い首を伸ばし、体高でそれをさらに上回る倍近く上回る。
巨大な四本の足で地面を揺らしながら踏み締め、こちらも太く長い尾を引き摺りながら、悠然と近付いてくる。
おそらく体重で言えば、ハリソノイアで戦った魔物の倍では到底、済まないだろう。
だが──。
「…反応してない?」
シェリルとスウォルは、困惑しながらそれぞれの武具に視線を落とす。
これまで魔物に対し光り、震え、音を鳴らして反応してきた剣と盾が、何も反応を示さない。
「魔物じゃねぇのか!?…レピさん!」
「そんな…あんな獣、聞いたことが…!」
「落ち着け、声を落とせ!聞かれるぞ!」
勝手知ったるマキューロに現れた、魔物ですらない未知の脅威に狼狽えるえるレピを、リエネが一喝した。
「そ、そうですね、すみません」
「ヤツがこのまま去ってくれればよし。そうでなければ…」
リエネも斧を手に取り、強く握り締める。
「た、戦うんですか…?あれと…」
同じく武器を握り締めながら、シェリルは震える声で尋ねた。
「…戦って勝つのは現実的じゃない。どうにか隙を作って、通り抜けることに集中すべきだろうな」
「そ、そうですわ。ワタクシたちの目的はアレを倒すことじゃありませんもの。まして魔物でもない、普通の獣なら尚更ですわ!」
リエネでさえまともに戦うつもりがないことに、リリニシアは胸を撫で下ろす。
「俺の目には、とても普通の獣には見えねぇけどな…」
「と、とにかくこのまま静かにやり過ごそう…!」
愚痴るスウォルを他所にシェリルが方針を纏めると、全員が頷いて口を閉ざし、気付かずに通り過ぎることを祈りながら木に隠れ、巨大生物の動向に目を光らせる。
「…?」
巨大生物は首を高く持ち上げ、キョロキョロと周囲を見回し始めた。
まるで、小さな違和感の正体を探すように。
一歩ずつ、しかし着実に、地を揺すりながら歩みを寄ってくるそれに、“気付かれているのでは”と疑念に駆られながら、一行は固唾を飲み、息を潜める。
しかし残念ながら──。
「──!!!」
「気付かれてるぞ!!」
一行の前に首をもたげ、“地響きのような、不気味な声”で吠えた。
「でぁああ!!」
「リエネさん!」
「──!」
瞬時にリエネが斧を振るい、目の前に突き出された鼻っ柱を切り裂くと、巨大生物は鮮血を撒き散らしながら仰け反った。
「この図体でも、流石に顔を裂かれるのは痛いと見える…!走れ!!」
怯んだ隙を突いてリエネの合図と共に散開し、巨大生物の左側をシェリルとレピが、右側をスウォルとリリニシア、そしてリエネが、荷物を放って走り出す。
巨大生物が痛みに身じろぎ、その場で足を踏み直すだけで地が揺れ、走りを阻害される。
まもなく巨大生物は持ち直し、身体を回転させながら、シェリルとレピには正面から尾を、スウォルたちには背後から首を、それぞれ薙ぎ払うように打ち付ける。
「シェリルさん!」
「きゃっ!?」
「風の魔術!」
レピは咄嗟にシェリルを抱き抱え、足元に向けて風の魔術を放つことで跳躍の為の推進力を確保し、自らの身長を越える太さの尾を辛うじて飛び越えた。
「れ、レピさん…!ありがとうございます!」
「どうせ風の魔術を使うならリリニシア様にお手本を示したかったですが、そんな場合ではありませんね…!行きましょうシェリルさん!」
「はい!」
一方、背後から首が迫るスウォルたちは──。
「二人とも屈め!」
スウォルが脚を止め、盾を構えた。
「スウォル何を!?」
「くっ…!信じるぞスウォル!リリニシア様も!」
「は、はい!」
このまま走っても首の範囲から逃れられないことを悟り、リエネは迷わずスウォルの言葉に従う。
この盾が反応しねぇってことは、魔物じゃねぇってこと。
魔物じゃねぇなら──この盾には触れねぇ!!
違ったらごめん二人とも!!
全身に力を込め、迫る衝撃に備えながら、スウォルは同じく盾に触れることが出来なかった、ボロガブザリとの戦いを思い返した。
その突進を受けた時、スウォルが想像していたより、衝撃は遥かに小さかった。
つまり──触れることが出来ない相手に対しては、受けるはずだった衝撃を大きく緩和する能力が、この盾にはあるのではないか。
その可能性に賭けた。
「来やがれ!!」
ほんの一瞬だった。
凄まじい速度で振るわれる長い首は、盾に触れる直前、弾き返さんとする盾とせめぎ合い──。
「ぐぅ…ぁぁあああ!!!」
全身の骨や筋肉がミシミシと音を立てる中、スウォルは盾を傾け、斜めに角度をつける。
巨大生物の首は、盾の上を滑り──リリニシアやリエネの頭上を掠め、通り抜けた。
スウォルを川岸まで、強く弾き飛ばしながら。
「スウォル!」
「ぐっ…がはっ…!」
「大丈夫か!よくやったぞスウォル!立てるか!?」
巨大生物は自身の首の重みに振り回され、体勢を崩している。
リリニシアとリエネは、急ぎスウォルに駆け寄った。
「動かないで!──癒しの魔術!」
「くっ…あぁ、ありがとな…」
リリニシアが手をかざし、スウォルの傷を癒す。
「だが魔術じゃ、傷は癒えても体力は戻らん。あれだけの質量を凌いだんだからな…。肩を貸してや──」
「大丈夫だ、動ける…!」
助け起こそうとしたとしたリエネを遮り、スウォルは自らの力で立ち上がった。
「お、おう…。動けるのか?お前…」
「そういえば気味悪いぐらい回復早いんでしたわね…!今は助かりましたわ!気味は悪いですけれど!」
「う、うるせぇな…」
「なんでもいい!動けるなら走れ!」
一方──。
「あちらで何が…?あれは…スウォルくん!?行きましょうシェリルさん!」
レピが弾き飛ばされたスウォルに気付いた時、シェリルは──。
「…どういうこと?」
握った剣を見つめ、小さく呟いた。
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~次回予告~
剣に異変を感じ、呆けるシェリルだったが、レピの呼び掛けで我に帰り、共にスウォルたちの元へ駆け寄り、言葉を交わす。
まもなく体勢を立て直した巨大生物の顔を見て、リエネは呟いた。
“治…ってないか?顔の傷…”
次回「巨大生物の“特異性”」




