082 入学試験
学園の入学には試験があるらしいけど、不合格というのは無くて、AからFまでのクラス分けをする為に行うらしい。
なんと王女はAクラスという一番上のクラスらしい。
「あぁ、忖度ね……」
「違います。ちゃんと実力です」
ホントかなぁ?魔力の流路もめっちゃ弱いし、よっぽどいいスキルでも持ってるの?
「そもそも、護衛対象と同じクラスにならないと護衛できないと思うんだけど?」
「主殿の強さでAクラスにならなかったら、学園は化物の巣窟だろうよ」
私より強い人なんていっぱいいるよ。
例えば今この談話室にだって、師匠とキャサリン姉っていう化物がいる訳だし。
その発言はフラグとしか思えないんですけど。
ひとまず話し合いは終わり、お開きかなと思ったところで、師匠が仮面を取った。
「アイナ、その獣人の子供はどうするつもりだ?」
元獣王として、やっぱり獣人の子供は気になるよね。
「一旦伯爵邸から保護しただけだから、これからの事はまだ考えてないよ」
「……今、獣人国は帝国に攻められているからな。たぶんこの子も、戦禍に巻き込まれて奴隷にされたんじゃろ。今の獣人国に戻ればまた危険に晒されると思うで、できればそのままここで保護してもらいたい」
確かに、ここなら九曜達もいるし、何よりキャサリン姉やリスイ姉もいるから、かなり安全だもんね。
あ、そういえばまだユユちゃんの奴隷紋を破壊して無かった。
遠隔で何か操作できたら拙いから、早めに破壊しとこうか。
吹雪が抱いてるユユちゃんの首元の奴隷紋を毒針で破壊すると、パキンという音と共に奴隷紋が砕け散った。
「ちょっ、止める間もなく変な行動取らないでっ!!」
ん?キャサリン姉が何か慌ててるけど、どったの?
ここにいる人達はみんな私が奴隷紋破壊出来る事知って……あっ。
「い、今のは……奴隷紋を破壊したのですか?」
王女は奴隷紋破壊できる事知らなかったか。
「我も知らなかったが、まぁ気を解放できるぐらいだし出来ても不思議じゃないか」
あ、何気に師匠も知らなかったんだっけ?
っていうか、さらっと気を解放できるって事もバラしてるし……。
「えっと……」
微妙な空気が流れる中、腹黒王女がにっこりと満面の笑顔を見せる。
「後々役に立ちそうな秘密をありがとうございます」
一番知られちゃいけない人に知られてしまったようだ……。
お開きになった後で、またキャサリン姉に説教された。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
一週間後、私は入学試験を受けるために学園にやって来た。
広く門戸を開くために、年一ではなく、もっと短い期間で定期的に試験は行われているらしい。
しかも、入学時の年齢も定められておらず、概ね12歳前後の子供が試験を受けているが、中には明らかに大人と思われる人もいるとのこと。
この学園は試験で落とされる事は無いが、金銭面で入学出来ないという場合がある為、先に社会に出て働いてお金を稼いでから入学するという人も結構いるらしい。
そうまでしても入学したいと思えるのは、卒業後の進路として国の重要な役職に就けるという利点があるからだ。
私は別にそんなのどうでもいいんだけどね。
私は貴族から目を付けられないように、黒髪に戻して、なるべく目立たない服装にしている。
入学前にトラブルを起こしたら、さすがに学校側も庇ってはくれないだろうから、入学が確定するまでは大人しくしようと思ったからだ。
一応護衛として九曜が付いて来てくれてるから、絡んでくる奴もいないとは思うけど。
ちなみに吹雪は獣人だから逆に絡まれそうだし、叢雲は達人っぽさはあるけどお爺ちゃんなので、護衛として見かけで威圧できる九曜が採用された。
当然だが、キャサリン姉が同行したら騒ぎになるので、最初からその選択肢は無い。
校門から入ってすぐ入学試験の受付があり、そこには10人程の人が並んでいた。
割と私と同じ年ぐらいの子が多いと思う。
どうやら順番に、冒険者ギルドにあったランクが表示される石版に触れているみたいだ。
私も列に並んで順番を待った。
私の順番になると、気難しそうなメガネをかけたおじさんが対応してくれた。
言われるままに石版に手を置くと、淡い青色に輝き、石版に『F 』の文字が浮かび上がった。
あれ?ここのはレベルが表示されないのか。
レベルは試験に関係無いのかな?
Fの文字を見たメガネのおじさんは何か渋い顔をしていたが、紙に何か書き込むと次へ行くように促した。
その後は身長体重を量っただけで、筆記試験等は特に無かった。
最後に実技で試験を行うというので、受験生みんなで闘技場のような場所へ移動する。
「あの的に向かって自分の得意な技を放ってください」
人を模した木で作られた的に向かって、受験生達は次々に技を放っていく。
魔法を使う子が多かったけど、中には剣で格好いい技を決めている子もいた。
いざ、私の番!と思って、意気揚々と的の正面に歩いて行こうとしたら、
「あぁ、君はやらなくていいよ」
「え?いいの?」
「では本日の試験は以上となります。お疲れ様でした」
なんか不完全燃焼で終わってしまった。
せっかくリスイ姉に教わった魔法を色々披露できると思ったのに……。
「主……お嬢の試験はあの王女様が手を回してたんじゃないのか?」
人前で主殿と言われると色々拙いので、九曜には外ではお嬢と呼ばせている。
そっか、王女様が忖度してくれたから、私の試験は免除されてたのか。
ひとまず貴族に絡まれるようなイベントも起きず、無事入学試験を終える事が出来て良かったよ。
試験の結果は後日発表されるとのこと。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
学園内のとある一室にて……
「どうでしたか、今回の入学志望者は?」
「まぁまぁ粒揃いでしたよ。いつもよりは、少し期待できそうですね」
「ほぅ、それは重畳」
「あぁ、でも一人だけFランクがいましたね」
「毎年いますが、Fランクのスキルで学園に来られても困りますな」
「実技を見るまでも無いので、やらなくていいと言ったらポカンとしてましたよ」
「おやおや。身の程を知ってくれないと困りますね。Fランクを教えるなんて時間の無駄以外の何物でもない」
「まったくです。早々に自主退学してくれる事を願いますよ」
王女の言う通り、入学試験に差別は有っても、忖度など無かったのである。




