081 王女
「こらっ、何逃げようとしてるのよ。ちゃんと挨拶しなさい」
「うぅ……、アイナです」
私とキャサリン姉のやり取りを見て、クスクスと王女様が笑い出した。
「仲がよろしいですね。本当の兄妹のようですわよ」
「それを言うなら、姉妹でしょう?」
キャサリン姉が否定するけど、そこへ面倒な人が首を突っ込む。
「お前は雄じゃろうが」
「はぁ!?心は乙女ですけどぉ!?」
師匠がチャチャ入れるから、キャサリン姉がめっちゃキレてるじゃん。
余計な事言わないで。
師匠の雄疑惑だって晴れてないんだからねっ。
鬣ライオンだし。
「それはどうでもいいが、弟子はアイナという名だったのじゃな」
「シルヴァ様、自分の弟子の名前知らないって、ありえないです」
「あ、師匠の名前、シルヴァって言うんだ」
「この師匠にして、この弟子なのですね……」
あれれ?王女様が何か呆れた顔で、溜息ついてるんですけど?
私、何かやっちゃいました?
「それでソフィア王女、アイナちゃんに何のお話が?」
「そうでしたね。実は、アイナ様に王都の魔導学園に通っていただきたいのです」
「えっ、学園!?」
私が露骨に嫌そうな顔をしたのを見て、王女様が苦笑いで眉根を寄せ、困った顔をする。
「実は今年から、教皇国の聖女様と帝国の勇者様が学園に通うことになったのですが、どちらも政治的に問題がある立場の方なので、なるべく王族には護衛となる生徒を側に置きたいという想いがあります。しかし、私は王位継承権第3位と弱い立場なので、側近になってくれる貴族が少ない上に、その子供達も護衛としては少々物足りなく……」
どんどん語ってくれるけど、私の答えは話を聞くまでもなくNOなんですが?
聖女がいる時点でもうアウトだし。
「そこでルールーから、年も近く、驚く程に強い御仁がいると聞き、渡りに船と思いました。しかもその方はシルヴァ様の弟子という事でしたので、これはもうその方しかいないと、藁にも縋る想いでお願いに参った次第です」
「だが断る」
即答したら、王女様の口が若干引き攣ったように見えた。
「……理由をお聞きしても?」
「普通に嫌だからですが?」
「ぶ、ぶふぅっ!さすが主殿……」
「一国の王女相手に引かぬとは、主殿は大物ですな」
「ちょっと主殿を格好いいと思ってしまいました」
九曜と叢雲と吹雪が揃って褒めてくれると、王女様の口はもう目に見えて引き攣っていた。
九曜が笑うから怒っちゃったじゃないの。
「何故ですか?学園への入学は国民にとっても名誉ある事の筈。皆、お金をかき集めてでも子供を入学させようとするのですよ?」
「それはこの国に居たい人の価値観でしょ?私はこの国の貴族に狙われてるから、できればこの国から出て行きたいぐらいだし」
「……それならば、何故王都に?」
「いつまでも逃げてられないから、情報を集めて根絶やしにするために」
私がそう言うと、王女は俯いて肩を震わせる。
泣いてるの?
言い過ぎたかな?って思ったら……
「ぷっ、あははははっ!ホント最高だわっ!!」
笑ってらぁ……。壊れたんじゃないよね?
「悪徳貴族を根絶やしにしたいというのは、私と利害が一致してるわ。私も害虫どもを一匹残らず潰したいと願っているもの」
「おいおい腹黒隠さなくていいのか、王女?」
「シルヴァ様、私を腹黒と呼ぶのは止めてよね」
なんか突然王女の口調が変わった?
王女様って、腹黒なの?
益々関わりたくないんですけどぉ……。
「では仕方がありませんね。奥の手を使わせていただきましょう」
先程までの穏やかな感じが消えて、鋭い目付きになった王女。
私は嫌な予感がして、警戒から身構えてしまう。
「キャサリン様はどう思われますか?」
え?奥の手ってキャサリン姉?
外堀を埋めようって事かな?
残念ながら、それは愚策中の愚策だよ。
キャサリン姉は私の味方だから、普段は厳しい事を言いつつも最後は甘くて、いつも私の意見を尊重してくれるもの。
そのキャサリン姉は、少し考える素振りを見せてから、
「そうねぇ……。アイナちゃん、学園に通いなさい」
「う、裏切ったぁっ!?」
「人聞き悪いわね。裏切ったんじゃないのよ。あなた、ちょっと常識に欠けてるとこあるし、人の輪の中で色々学んだ方がいいと思うの」
何気にディスられてる気がしないでもないが、まぁ言わんとしている事も分かる。
前世からぼっち気質だった私は、集団生活で得られる常識がちょっと欠けてる気はしてた。
でもねぇ……、学園ってフラグ満載な気がするし、貴族の子供が平民を見下したりとか、面倒事が多そうなんだよねぇ。
めっちゃ渋い顔してたら、意外にも王女が助け船を出す。
「何かあったら、私の名を出してもらってもかまいませんよ」
え?印籠くれるの?それはありがたいけど……
結局その印籠を使ったら目立ってトラブルを引き寄せちゃうと思うのよね。
やっぱり、目立たず生きていくしかないって事じゃん。
集団生活が目的なのに、ひっそりと生活しなきゃいけない矛盾。
「まぁ、アイナちゃんの場合、何かあってもどうにかできるだけの強さがあるし、その辺は大丈夫でしょ。寧ろ、何かやらかさないかっていう心配があるわね」
「あぁ、主殿はなぁ」
「確かに主殿はそっちの方が心配じゃの」
「主殿に何かするなど学園の生徒程度では不可能でしょうし、私もそう思います」
何故かみんなからディスられてる感じがするのは、気のせいかしら?
でも、ここで突っぱねてキャサリン姉と喧嘩したくないし、選択肢は無いに等しいのだ。
何で突然こんな事に……。
「分かったよ……、行けばいいんでしょ」
どうなっても知らないんだからねっ!




