062 模倣
森の中を延々と進んでいくと、いつの間にか木々が疎らになってきていた。
キャサリンさんとリスイさんが前を歩いて先導してくれるので、私は道に迷う事無く進めて快適だ。
「山に入って傾斜がキツくなるから、疲れたら言ってね」
おや?山に入ったの?
獣王の腕輪の力で強化された脚力だと、山の傾斜もなんのその。
だから山に入っても気付かなくて、目標物を見失って迷子になるのか……。
私の迷子癖の原因の一端が垣間見えたね。
それにしても、リスイさんは気の流路はそれほどでもないのに、全然歩き疲れた様子がない。
アンデッドじゃなくても、魔力で肉体強化できるものなのかな?
オークの巨体も引き摺ってこれる膂力があるし、魔力が膨大なのに格闘系の人なんだろうか?
暫く歩くと、クリティカルポイントの反応がいくつか視えてきた。
この動き方は魔物?
キャサリンさん達もたぶん気付いてるっぽくて、流路に緊張感が増した。
すぐに一体の魔物が姿を現す。
牛の頭を持つ2足歩行の人型魔物、ミノタウロス——みたいだけど、体の模様はホルスタインだ。
人間で言うところの腹部に乳首が複数付いているから、牛乳が搾れるかもしれない。
実際のホルスタインの様に大人しければだけど……牙生えてるし、これ絶対肉食だよねぇ。
肉食種の乳って味とかどうなのかな?
ひとまず手(前足?)に武器を持ってるから、無力化しないと搾れないけど。
とか余計な事考えてたら、リスイさんが右手をミノタウロスに向かって翳した。
その手の先に赤い光が集まって魔方陣のようなものを形成すると、それが徐々に輝きを増して行き、弾けるように炎の塊となってミノタウロスへ向かい飛んで行った。
一瞬で業火に包まれてウェルダンステーキになったミノタウロス。
香ばしい匂いが辺りに漂う。
ホルスタインの肉って食べれるんだっけ?
「これは食べても美味しくないから」
味を知ってるって事は、リスイさん以前に食べた事あるのか。
それにしても、さっきのって魔法よね?
ファンタジーな世界だから有るとは思ってたけど、本格的な攻撃魔法は初めて見たかも。
私が会った人達って肉弾戦主体の人が多かったし、唯一それっぽい事してたのが、ルールーの拳に纏う炎ぐらいだもん。
「リスイさんって魔法使いだったのね」
魔力が多いからそうかなとは思ってたけど、肉体派の一面もあったからね。
ミミィとか魔力多くても魔法使って無かったし、必ずしも魔法を使って戦うとは限らない。
しかし、リスイさんは少し困惑した顔で告げる。
「私は魔法使いじゃない」
「え……?でも今魔法使ってなかった?」
「あれは魔法だけど、私は魔法使いじゃなくて魔操士」
「魔操士?」
リスイさんが右手のひらを上に向けると、そこにまた赤い光の粒子が集まってくる。
それらが集まって、意味のある文字列の形を作り出す。
「こうやって周囲の魔素を集めて操れるのが私のスキル。それだけしか出来ないけど、魔素で魔方陣を描いて魔力を込めれば、魔法使い系のスキルじゃなくても魔法が使える」
へぇ……魔素で魔方陣を描いて魔力を込めればいいのか。
私は魔素(毒)を生成すると、それを操作して先程リスイさんが使った魔方陣を再現してみる。
その魔方陣に自分の魔力を注ぐようにイメージすると、炎の塊へと変化して飛んで行った。
「おおっ、出来た!」
「……なんで出来るのっ!?」
リスイさんが驚いている。
私がスキルで炎を出して調理してるとこ見てるのに、何で今更炎を飛ばしたぐらいで驚くんだろう?
「なんで魔素を操作できるの?もしかして私と同じようなスキル?」
あぁ、そっちか。
「ええっと、今のは周囲にあった魔素を操作したんじゃなくて、自分で出した魔素を動かしただけ。私のスキルは出したものを自在に動かせるので」
スキルで水を出してウネウネと動かしてみせる。
「魔素を出せるスキル……それってかなりヤバいスキルじゃ……」
魔方陣を出して魔法を使えば、私のスキルをカムフラージュできるね。
これはかなり使えるかも?
私が無作為に放ってしまった魔法のせいで、周囲の魔物がこちらに近づいて来てしまった。
新たなミノタウロスが現れる。
今度のは黒毛なので美味しそうだ。
「これは美味しいミノタウロスだから、私が倒しちゃうわねぇ」
キャサリンさんが、ミノタウロスに向かって瞬時に移動し、右拳をミノタウロスの眉間に打ち込んだ。
ミノタウロスは何の抵抗も出来ずに、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。
「アタシのスキルは急所を見抜いてそこを打ち抜くスキルよ。ホントは拳じゃなくて弓とか使った方が便利なんだけど、アタシ見かけによらず不器用だから拳で殴るしかできないのよねぇ」
うん、見た目通りだよね。言ったら怒られそうだけど。
でも解体は綺麗に出来てたから、言うほど不器用でもないんじゃないかな。
きっと性格的に殴る方が好きなんだろうと思う。
もう一体ミノタウロスが出て来て、今度のは角がめっちゃ太くて頭が重そうな種だ。
私はキャサリンさんがやったのと同じように、ミノタウロスの眉間のクリティカルポイントに毒針を打ち込んだ。
同じようにミノタウロスは白目を剥いたが、キャサリンさんが倒したのとは違い、白い泡を吹いて倒れた。
結果を模倣するために打ち込んだのが即効性の高い毒だから、毒性が強すぎて泡吹いたのかもね。
他人のスキルを真似るって難しいなぁ。
「……なんで出来るのよ?」
キャサリンさんが、さっきのリスイさんと同じような驚き方してる。
普通に教えてくれたから一般的なスキルかと思ったけど、ひょっとして特殊なスキルだったのかな?
私の毒針はイメージと魔力量次第で大抵の事は出来ちゃうから、見かけだけ模倣するのは容易いのだ。
それに急所ってクリティカルポイントの事だろうから、私にも視えるもんね。
この物語はファンタジーです。
実在する魔素とは一切関係ありません。




