033 食べ物
「知らない天井……」
「いや、昨日寝る前に見とるじゃろ」
様式美なんだから言わないとなんだよ。
昨日は洋館に泊まって、久しぶりにベッドで寝たんだった。
ヴァンパイアになったからか、昼夜逆転で朝日が昇ったら眠くなったんだっけ。
「で、何で一緒に寝てんの?」
「血酒で酔っ払ってそのままここで寝たんじゃ」
朝方にまだ遊びたいと駄々をこねるモッサリを無理矢理寝かしつける為に、毒針で疑似血(酒精毒)を生成して飲ませたんだった。
モッサリは私と同じ年ぐらいに見えたけど、なんと140歳との事。おばあちゃんやん。
だからお酒を飲んでも大丈夫。そもそもこの世界ではお酒に年齢制限ないけどね。
私はそのまま寝ちゃったけど、モッサリもそのままここで寝たのか……。
もう辺りは暗くなり始めてる。
お腹も減ったしそろそろ起きますか。
「朝食……じゃなくて夕食食べにいかない?」
「何言っとるんじゃ?ヴァンパイアは食事なんてせんぞ?」
「えっ?……でも血飲んでるじゃない」
「あれはパワーアップの為と嗜好の為に飲んでるだけで、人族みたいに毎日摂取する必要なんてないぞ。まぁダメージ受けた時に回復の為にも飲んだりするが。そもそも腹なんて減らんし」
あれ?私めっちゃお腹空いてるんですけど?
ハイブリッドだから人族とか獣人族の部分がお腹空いちゃうのかな?
「じゃあ、ひょっとしてこの洋館に食料は……?」
「無いな。血のストックはあるから、それ飲むか?」
うーん、生の血ってお腹壊しそうで怖いなぁ。
「じゃあ出て行きます」
「なんでじゃー!!せっかくできた親友に出て行かれたら、また退屈しちゃうだろうがっ!!」
遊び相手欲しい気持ちは分かるけど、食べ物が無い場所に長居出来ないよ。
「えー、じゃあモッサリも一緒に行く?」
「いや、妾はこの地を守る義務があって……じゃなくて、なんでモッサリの方で妾を呼ぶんじゃ?ミミィと呼べ!」
「うん、分かったよモッサリ」
「語尾みたいに言うなぁ!」
モッサリで遊ぶのも楽しいんだけど、とりあえず何か食べたい。
毒針で生成した栄養ドリンクだけじゃ満たされないからね。
「じゃあ、この辺で食べれる魔物とかいたりするモッサリ?」
「もうツッコまんぞ……。この国には生きてる魔物なんておらん。アンデッドの国『闇王国』だからな。虫ぐらいはおるかも知れんが」
「え、マジモッサリ……?」
生きてる魔物いないの!?虫とかマジ無理だし……。
ハイブリッドアンデッドの私には暮らしていけない環境じゃないのよ。
「やっぱり出て行くしかないか……」
「ま、待てい!確かこの前来た勇者が近くにまだおるはずだっ!そいつから食料分けて貰えばええじゃろ?」
勇者から見たらアンデッドって敵だろうから、分けてくれると思えないんだけど?
私の目は碧眼だし、なんとか普通の人間ぶって近づけばいけるかな?
「じゃあその勇者のとこに行きますか」
「もちろん妾も付いていくぞ」
先日闘ったって言ってなかった?
モッサリ——もといミミィがついて来ると交渉しにくくなりそうだけど……。
「大丈夫じゃ。正体がバレないように偽装するから」
そう言うと、今まで白髪だった髪が黒く染まり、赤い瞳は少し濁って茶色くなった。
「何それ!?どうやったの?」
「ヴァンパイアは血を吸う為に外見を偽装して人族に近づくんじゃ。大きく特徴を変えるのは無理じゃが、髪の色や瞳の色ぐらいは変えられるぞ」
「そんな便利な能力があるんだ……。それってどれくらい持つの?」
「魔力が続く限りずっと使える」
私も毒針で似たような事は出来るけど、10分で効果が切れちゃうんだよね。
髪は染めれば効果は永続できるけど、副作用が心配だから今までやってなかった。
でもこの偽装能力があれば、逃亡中も容姿を変えて街に潜伏も出来ちゃうじゃない!
私も真似してやってみると、白銀色だった髪は元の黄金色に染まった。
色々意識してやってみると、黒髪や茶髪も出来たので髪の色はかなり自由自在みたいだ。
でもそれ以外の部分は何故か変化出来てくて、瞳の色なんかも碧眼のままだった。
ハイブリッドだからかな?
でも善く善く考えたら、今の白銀色が既に元の色と違うから偽装してるようなものだったので、結局白銀色に戻した。
「じゃあ、その勇者を探しますか」
私達が揃って部屋を出ると、顔を合わせたくない人物が寄って来た。
ロバールとか言うヴァンパイアだ。
「ミミィ様、何処かへお出かけですか?」
あれ?私の事見えてないのかな?
空気のように扱われてるんですけど……。
ちょっと踊ってみたけどツッコまれないし、変顔もしてみたけど無表情のままだ。
「何しとるんじゃ?」
ミミィの方がツッコんじゃったよ。
そして私の事はガン無視したまま、ロバールは話しを続ける。
「お出かけでしたら、必ず血はお持ちください。勇者がまた襲ってくるかも知れませんから」
「勇者なんぞ返り討ちに出来るから心配いらんぞ」
「ダメです。貴方は我が国にとって大切なお方ですから。今私の手持ちに一つあるのでお渡ししておきます」
ロバールが渡して来たのは赤い液体の入った小瓶だった。
何故かラベルに描かれていたのは真っ赤なトマト。何の暗喩なの?
それともホントにトマトジュースなの?
「別にいらんのじゃがなぁ。まぁ貰っとくか」
ミミィが受け取った事で満足したのか、ロバールは不気味な笑みを浮かべて去っていった。
うーん、怪しい……。
この物語はファンタジーです。
実在する疑似血とは一切関係ありません。




