028 洋館
石造りの壁面には、蔦のような物が所狭しと絡み合っている。
それでもこれがどのような建物なのかはおおよその外観で理解できる。
洋館——それは羊羹ではない食べられないもの。
食べられないので、こんな怪しい館はスルーするに限る。
変なクリティカルポイントの塊がウロウロしている洋館になんて入る訳がない。
気が使えるようになってから視えるようになった筈の流路が見えない。
私の今のスキルレベルでは無機物のクリティカルポイントは見えないので、明らかに生物である筈なのに流路が見えないって事はあれだ。
生きている死体、リビングデッドってことよね。
私が踵を返そうとしたところで、錆びた鉄の音と共に門扉がひとりでに開いた。
まるで入ってこいと言わんばかりに。
もちろん私はダッシュでその場から逃げた。
「くおらぁぁぁぁーっ!!門がひとりでに開いたら、怖い物見たさで入ってくるのが様式美だろうがーっ!」
何かが後ろから叫んだので一応走りながら振り返ると、白髪で目が赤い私と同い年ぐらいの女の子が怒りながら追いかけてきた。こわっ!
何よ、その理不尽な様式美?
そんな危なそうな場所にわざわざ入って行くわけないでしょうが。
この女の子も流路が見えない。
クリティカルポイントはちゃんと有って動いているのに、気の流路が無いって、何か怖い。
アンデッドにも効く毒ならたぶん生成できるけど、噛みつかれたりしたら私までアンデッドになってしまう。
アンチアンデッド的な毒も生成できるのかな?
だからいきなり自分の体で実験したくないんだってば……アホになったらやだし。
手頃な盗賊でもいないかなぁ?
「まてー!!」
私は気を使ってかなり加速しているはずなのに、女の子を引き離す事が出来なかった。
それどころか徐々に追いつかれる。
獣王の腕輪で筋力マシマシの私に追いつけるって何者?
かなり上位のアンデッドだろうか?
このままじゃ逃げ切れないし、一応会話は出来そうだから、まずは話し合いしてみようか。
一旦足を止めると、後ろから追いかけてきていた女の子も同様に止まる。
「ようやく洋館に入る決心がついたのか?」
「いや、洋館には入らないけど」
「なんでじゃー!!」
この子、喋る時に見えた口の中に、かなり大きめの犬歯があった。
服装は変なゴスロリだけど、白髪に真っ赤な目に大きな犬歯って事は間違いなく……
「ヴァンパイア……」
「ふふふ、良くぞ見破った……」
いや外見であっさり看破できちゃいますけど?
特に犬歯が隠す気無いぐらい出ちゃってるし。
「妾は深淵より深き漆黒の眷属、暗き闇の王ミミィ・ヴァンプ・モッサリであるっ!!」
王なのに眷属なの?
何故か、グーチョキパーを同時に出せる手の形でポーズを取ってるけど、決めポーズがちょっぴりダサいのは言わないでおいてあげよう。
名前の最後のモッサリも気になったりと、ツッコミどころ多すぎてもうお腹いっぱいです。
「くっ!右目の封印が……」
なんか右目抑え始めたよ。
これ以上キャラ盛らないで欲しいんですが?
まずはその痛々しいキャラを封印しようね。
……って言うか、これ間違いなくあれだわ。
どうやら、あの建物は洋館じゃなくて、中二病棟だったようだ。
患者さん逃げ出してますよ?
まぁ自然治癒する病だからほっといてもいいんだろうけど。
ちなみに完治しても、病中に書き留めたものを見ると悶え苦しむ後遺症が残るから、黒歴史は早めに処分した方がいいよ。
「む?何故か先日来た勇者を名乗る小僧も同じ目で妾を見ていたが、それはどういった感情なのだ?普通は妾のような漆黒を纏う者を前にすると怯えるはずなのだが?」
それは間違いなく哀れみの感情だと思います。
ん?今、勇者って言った?
やっぱこの世界ってファンタジーだから勇者いるんだ……。
この物語はファンタジーです。
実在する中二病棟とは一切関係ありません。




