026 猪肉
師匠がミミズを食うとかぬかしたので、速攻で猪を狩って来て調理中。
血抜きして炎であぶって、タレ(毒)をかけて完成!
「ワームの肉も美味いんだぞ。白銀鉱なのは外側だけだから」
「じゃあこの猪肉は要らないんですね?」
「ワームニクッテナンジャッタカノ?ワー、ウマソウジャー」
白々しい……。
体長3m程もある猪の肉は、私達3人ではとても食べ切れそうもない程の量だった。
「うっま!これ、うっま!」
「美味しいですっ!これ、侯爵家で食べた料理より遙かに美味しいですよ!」
師匠もルールーもかなり満足している。
前世の知識をフル動員したタレ(毒)は濃厚な出汁をイメージして生成してあるからね。
そりゃ美味いだろう。
って、もう残り少ない!?
この2人、異常な程食うなぁ……。
「お前便利じゃのう。料理まで出来るスキル持ちとか、一家に一台欲しいぞ」
便利って言い方はすごく引っかかるけど、まぁ褒められて悪い気はしない。
「ところでこれから何処へ向かうんじゃ?南に進んでるって事は帝国に行くのは止めたんだろう?」
……北の帝国に向かってたんですけど、何故南に向かってるの私?
そうか、師匠が急に友好的になったのは、帝国に行かなくなったと思ってるからか。
また襲いかかられると面倒だから、帝国行くのは諦めた事にしよう。
「特に行き先は決めてないです。そういえば、何故師匠は帝国に行く事をあんなに怒ってたんですか?」
「なんじゃ、知らなかったのか?今帝国は獣人国に攻め込んで来とるからな。敵国に人材が増えるのは看過しがたいんでの」
「え?帝国に攻められてるんなら、師匠がこんなとこにいるのは拙いんじゃ?」
「いや、我が獣王で無くなった事を帝国に知られる方が拙い。獣王の名はそれなりに抑止になってるんでの。それに今は我を倒す程の達人である白銀が守りについてくれているから、暫くは安心だ」
ほえー、獣王ってそんなに凄い存在なんだ。
私がこの腕輪付けてるのってやっぱ拙いよねぇ。
でも外せないし、どうにもならない。
「どうやったらこの腕輪返せるんですか?」
「装着者が変わると一年間は他人に渡せないんじゃ。無理矢理奪い取ったとしても何の効力も発揮しなくなる。一番手っ取り早いのはお前が獣王として君臨してくれる事だが……まぁ今の実力じゃ無理だな」
そりゃそうよ。
やっと気が使えるようになった程度でそんな大それた事出来ないよ。
まぁあの白銀の人がいるなら魔王でも攻めてこない限り大丈夫でしょ。
「ふぅー満腹満腹」
「もう食べれません」
2人とも食い過ぎだよ。
私の分が残り僅かだ……悲しい。
でもたとえ足りなくとも、ミミズだけは絶対食べないけどねっ!
最後の一切れに手を付けようとした時、私の索敵範囲に人と思われるクリティカルポイントの塊が引っかかった。
それは次第に私達の方へ近づいて来ている。
師匠とルールーも気付いたようで身構えている。
「ちょ、ちょっと待ってくれっ!危害を加えるつもりは無いっ!!」
現れた男は両手を上げて、抵抗する気はないと意思表示していた。
この人って確か伯爵家の私兵の一人で、さっき私をめっちゃ睨んでた人だ。
危害を加えるつもりは無いって、全然信用出来ないんですけどー?
「侯爵家の奴隷を解放されたら伯爵家は終わりだ。だからもう俺は伯爵家に戻るつもりはないし、出来ればあなたたちに同行させてほしい」
その場で土下座するようにひれ伏した。
うーん、信用出来る要素がまだ全然無いんですけど?
あぁ、ひょっとして酒池肉林か!
ルールーは短髪でいかにも格闘士って感じだけど、顔立ちは整ってるし出るとこ出てるナイスバディ。
師匠も髪はワイルドに伸び放題だけど、ボンッキュッボンッのムチムチだし、顔は女で言えば相当な美人だもんね。
本当に女なら……。
まだ前側のしっぽ疑惑は晴れてないよ。どうみてもライオンの時は雄だったし。
そして私自身だって金髪碧眼の美少女だから守備範囲が広い人ならひょっとしたら?(個人の見解です)
なるほどこれらの情報を整理すればおのずと見えてくる。
この男がハーレムを狙っているとっ!
まぁハーレムになるかどうかはさておき、この男が同行するとなると、このお肉も分けてあげないとかな?
……仲間にする前にお肉食べちゃおう。もぐもぐ。
「お前……、普通男に土下座させたままの状況で肉食うか?」
だって取られたくないし。
そもそも、あの私を睨んでた目が信用出来ないのよね。
「と、とりあえず誠意としてこの魔導具をお受け取りください!」
そう言って良く分からない魔導具を私に渡してきた。
紅い宝石のようなものを銀色の装飾が施された枠で囲んだもの。
何に使う道具だろう?
「これ、何に使う魔導具?」
魔導具には結構興味がある。
通信できる魔導具とかめっちゃ欲しいし。
空飛ぶ魔導具もいいな。
あ、私立体機動で空飛べるんだった。
「それはですね……」
男の目が怪しく光った気がした。
「お前を転移させる魔導具だっ!!『排除』!!」
突如豹変した男が叫ぶと、魔導具から魔方陣のようなものが浮かび上がり私を包んだ。
次の瞬間、目の前の光景が切り替わった。
「……また転移させられちゃったのか。とりあえず『石のなか』じゃなくて良かったかな?」
闇夜に浮かぶ古城を見上げながら、私は一人呟いた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「しまった!?」
ルールーが焦燥感を顕わにするも既に手遅れ。
男の方を見たが、男も同時に転移の魔導具を使ったのか、姿はかき消えていた。
「油断したのぅ……。まぁ、あの小娘は既に気も使える。魔王の側近でも現れない限り一人でも大丈夫じゃろうて」
「それ、王国ではフラグって言うんですよ……?」
益々不安が増していくルールーだが、今はどうしようもない。
主の行き先の手がかりとなる魔導具は、転移発動と共に砕け散って痕跡を残さなかった。
「いずれにしても、私は主様を探しに行きます。師匠様はどうしますか?」
「我も行くぞ。どうせ暫くは獣人国には戻れんしな。それで、何か当てはあるのか?」
「それは……っ、何者っ!?」
ルールーの目の前に、音も無く白銀の鎧を纏った者が現れた。
背丈は子供程しかないが、気を使えるようになったルールーにはその強さが計り知れないと感じられた。
「あの娘なら無事だ。暫くは帰って来れないと思うが、1ヶ月もしたら王都に現れる」
「白銀よ……、何故そんな事が分かる?」
「それは答えられない。が、恐らく間違い無いはずだ」
それだけ言うと白銀は踵を返し、獣人国の方へ戻っていった。
「何者なんですか、あれ……?」
「さぁのう。我にも分からんが、何故か信用は出来る。そもそも我より強いから逆らおうにもどうにもできんしな」
「そうですか。無闇に探すよりは王都で待っていた方がいいという事でしょうかね」
「あぁ。じゃが、お主は元奴隷じゃし、王都に戻るのは拙いのではないか?」
「いえ、一応伝手があるので、そこを頼ってみようと思います」
「ほぅ。よし、じゃあ王都へ向けて出発じゃな!」
この物語はファンタジーです。
実在するタレとは一切関係ありません。




