模倣犯と殺人犯
私が気になったお店で、ローゼンに買ってもらったのは、細かな銀細工の施されたアクセサリーボックスだった。ローゼンに貰ったアクセサリーを入れる小箱が欲しいと思っていたからちょうど良かった。値段は、庶民の私からしてみれば尋常でなく高いのだけれど、ローゼンから見ると安すぎたらしい。他にも欲しいものは無いかと、あれこれ店員さんに持って来させるので、私はどうしても断り切れず一つだけ追加で買ってもらった。ブローチ、イヤリング、ネックレス、ブレスレット、髪飾り、それらはもうローゼンから貰っていたので、リングを選んだ。見せられた中では最もお値段の安い、アイスブルーの石のついた黄金のリング。店員さんが気を利かせて持って来てくれたローゼンの色が散りばめられたそれを選んだら、ローゼンは顔を真っ赤にして信じられないという顔をしていた。茫然とするローゼンを追い立て、お会計を済まさせると、それ以上ローゼンに何も買わせないようにそのお店を出た。そのまま、人々が集まる広場までやってきて、私たちはベンチに腰を下ろした。
「ローゼン、ありがとう」
「そ、そんな…。俺がしたくてしたことだから。ご、ごめんね。少し、早いけれど、お誕生日おめでとう」
まだぼーっとしているらしいローゼンに私は頭を下げた。また高い贈り物をもらってしまった。私は、何も返してはいない。
「ありがとう。ローゼン、ひとつ提案があるの、聞いてくれる?」
「もちろんだよ。どうしたの?」
ふと、耳によく馴染む優しい従姉妹の声が聞こえた気がした。私はあたりを見渡す。次の瞬間、視界の端にノネットと、彼女の隣に立つ平凡な男の姿を捉えた。咄嗟にベンチから立ち上がり、ヒッと喉の奥で悲鳴が上がった。普段から声を張り上げないよう意識していて良かった。そうでなければ、私は大きな悲鳴を上げて喉を潰していたことだろう。
「あ、あ、ロー、ゼン」
「どうしたの!?シェリルちゃん?大じょ」
「あの、ノネットと一緒のあの男、あの男、連続殺人事件の犯人…」
「なっ!?」
ノネットの腕が平凡な男の腕に絡められている。平凡な男の腕はノネットの腰を抱いていた。笑顔のノネットを見つめる男の目は、あの日以上にドス黒く染まって見えた。
思い出す。ノネットの言葉。街で一番可愛いノネットを射止めた自らの婚約者のことを、ノネットは何と言っていただろうか?
『彼、真面目で優しいんだ。器用な方じゃないんだけど、何回も何回も練習したり努力してできるようになる人なんだ。まぁ、身長は高いし顔は普通なんだけどね』
まさか、あの、男が、ノネットの婚約者?
クラリと世界が回りそうになる。倒れている場合なんかじゃないのに。そんな私をぎゅっと支えてくれた腕があった。ハッと意識を取り戻して、私は視線をさ迷わせる。まだ、ノネットとあの男を視界に捉えることができた。けれど、2人は歩みを止めることなく、どこかへ行ってしまいそうだった。男の手には買い物帰りと思しき食材の入ったバッグがあった。時間的にはもうすぐ正午を回る。
私は衝撃に鈍る思考を無理矢理回転させる。ノネットに声をかけてあの男から引き離す、それは最低限にして最善だ。そして、引き離している間に、あの男を捕まえてもらう。
「シェリルちゃん!シェリルちゃん!」
私は焦った顔をしたローゼンにようやく気付く。体を支えてくれていたのはローゼンの腕だった。視線が合ったことに安堵したのか、私の体を支えていた腕に込められていた力が緩んだ。
「ローゼン、してほしいことがあるの」
「うん」
しっかりと噛み合った視線に私は力を込めた。それにローゼンは一も二もなく頷いてくれた。
「メイ叔父さんに連絡して、あの2人の住んでる家に騎士隊の人達を連れて来て欲しい。あの男は、ノネットの婚約者だと思う。そして、あの男は、あなたが模倣した、連続殺人事件の犯人だわ」




