模倣犯の盲信
ローゼンは目を見開いて、そして、すぐさま頷いた。欠片も疑われないことが、今は酷く有難い。一切の説明すら求めず、ただ、私を信じてくれた。
誰にも言ったことはない。他の人にはない私の能力。人を殺したことのある人間の目に異様な黒点が見える。そして、その黒点は、人を殺した数に比例して大きくなる。
あの男のそれは、今まで見たこともないくらい黒く大きかった。
この場所からだと、私の足じゃメイ叔父さんの家に辿り着くことさえ困難だ。一刻を争うかもしれないこの状況で、私は私の体力を信用することなどできなかった。
そして、今この状況で頼れるのは、ローゼン以外いない。
「わかった。じゃあ、シェリルちゃんも」
「私が行ったら足手まといだわ」
「いや、抱えて走れる」
「無駄が過ぎるわ」
「じゃあ、ここで待っ」
私は再びローゼンの言葉を遮った。震えそうになる足を抑え込んで、私はローゼンの腕の中から立ち上がる。怯えている暇なんてない。何よりも大切な、ノネットは、私の、大切な家族だ。
「私はノネットとあの男を追いかける」
「どうしてっ!?」
「あの2人に声をかけてノネットをあの男から引き離す。そして、1人になったあの男を騎士隊の人に捕まえてもらう」
けれど、もし引き離すことが出来なかったとしたら?私はこのまま2人が家に帰るつもりだと思ってるけど、もしそうじゃなかったとしたら?ノネットを引き離せたとしてもあの男が家に帰らず私たちを追って来たら?他の被害者と同じようにどこか別の場所に連れて行って犯行に及ぼうとしているとしたら?そうじゃなくても、ノネットに何かあったときに、騎士団の人が、メイ叔父さんが、もし間に合わなかったら?
不安なんて数え上げなくても山ほど沸いてくる。もしもは、出来る限り消さなければならない。が近くにいることで、ノネットを助けられる可能性があるかもしれない。たとえ助けられなくても、時間を稼ぐことくらい出来るはずだ。
あの男がノネットに何かするつもりがあるかどうか、なんてわからない。けれど、あの男が既に8人もの人間を殺しているのは確実なのだから…。
「じゃあ、俺も」
「あなたがいたら、ノネットは話を聞いてくれないかもしれない」
両親と叔父夫婦はローゼンに対する警戒を緩めつつあるが、ノネットだけはそうではない。姿を見ることはもちろん、他の誰かからローゼンの話を聞くことすらノネットは嫌がっている。
「あなたには、メイ叔父さんと騎士団にこの事を出来るだけ早く伝えて貰いたい。お願い…」
「っ!わかった。でも、声をかけるだけにして。もし、危ないと感じたら何もしないで待ってて。すぐに戻ってくるから」
「大丈夫よ。ただ声をかけるだけだもの。こんな街中で何かされることなんてありえないわ」
「これ、一応、渡しておく。お守りみたいなものだから」
ローゼンは小さな短剣を私に渡した。ナイフ程度の大きさのそれを私はワンピースのポケットに滑り込ませる。ローゼンは私にコクリと頷いて見せると、信じられない速度で走り出した。私は遠く人垣の向こうに見えるノネットとあの男を追いかけて出来る限りの速さで駆け出した。




