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剣技を放て!  作者: 源平氏
剣の都イージン編
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第54話 盗賊団、壊滅


 一時はあれほど乱戦騒がしかったキャンプ地は、今ではほぼほぼ静まり返っていた。盗賊の大半は討ち取られ、わずかな残党を残すのみである。


 盗賊側で最も強かったレジーナは全身を鋼に変えて死んでいた。だが彼女のもたらした被害を考えると、到底快勝とは言えないものだった。


 総勢十一名。レジーナにより殺された剣士の数である。突入班の実に半数以上がレジーナとの決戦で命を落としていた。


「みゃーのせいにゃ……相手が剣帝だと分かった時点で撤退命令を出すべきだったにゃ。それが指揮権を持つみゃーの責任にゃ」


 仲間達の死体を前に、マオは力なくうなだれていた。


「マオ! まだ作戦は終わってないぜ! そんなんでどうするんだよ!」

「ザンの言う通りだ。まだ敵にも生き残りが居る。それに負傷した仲間を治療班の元へ送り届けなければならん」


 ザンとシリュウがマオを叱咤する。そんな二人もレジーナとの戦闘で負った傷は深かった。特に血を流しすぎたシリュウはすぐにでも手当てをしなければ命に関わるだろう。他にもレジーナとの戦闘で運よく生き残ったものの怪我を負った剣士が数名いた。


「俺はまだ動けるから、マオはシリュウと怪我人を頼む!」

「……分かったにゃ。ザンも気を付けるにゃ」

「すまん。某も限界だ。後は頼む」


 動ける者達で動けない仲間を支え、治療班の元へと向かう。ザンは残党を狩りに行く事にした。向かう場所は決めている。剣気の知覚ができるようになったザンには、何者かと戦っているマインの位置がはっきりと把握できていた。


 ゆえに


「マイン……!?」


 マインの生命力が急激に失われていくのを感じたザンは急ぎ地面を蹴ったのだった。






「そうでしたそうでした。あの時もそれのせいで収穫し損なったんでしたね。うっかり忘れてましたよ」


 暴走した鋼化をこんにゃく体で中和するマインを見て、ジーファンから渇いた笑みが出た。地面に膝をつくマインを前に、よろよろと後ずさる。


「まさかこんな物を使ってくるとは。油断しましたねえ」


 ジーファンが手の平に刺さったナイフを抜く。マインに首を狙われたのをとっさに庇ったのだ。マインの剣技に注意していたジーファンにとっては想定外の事であった。


 だが、それでマインの策は潰えた。剣技を使えるだけの体力は残っておらず、後は気を失うのみ。既に立ち上がる体力すら残っていない。


「オーバーブースト」


 ジーファンが手の傷にオーバーブーストをかけた。細胞分裂が活性化し瞬く間に傷を塞ぐ。治った手を開いたり閉じたりして調子を確認したジーファンは満足げにうなずいた。




「マイン!」


 ザンがそこに駆け付けた。気を失い倒れるマインをザンは目撃する。そしてそのそばに立つジーファンへと剣を向けた。


「おい! マインから離れろ! お前がマインと戦ってたのは知ってるぞ!」

「……これはこれは、外野が随分と大きな顔をしますねえ。レジーナさんは一体何をしているのやら。いつの間にか気配なんて隠して」


 余裕の態度とは裏腹に、ジーファンはザンの力量を感じ取り内心焦っていた。明らかに剣王を越えている。故にレジーナの助けを待ち時間を稼ぐ事にした。


「レジーナなら鉄の塊になって死んだぜ!」

「――!!?」


 さすがにジーファンも顔をゆがめた。レジーナは剣帝クラス。たとえ剣王が束になっても負ける人物ではない。鉄になったという事は鋼化を限界まで酷使したという事だろうが、そこまでしても負けたという事である。


 すなわち、目の前の少年は最低でも剣帝クラスでないとおかしいという事になる。ジーファンに敵う相手ではない。


 ジーファンはすぐさま逃走に戦略を切り替えた。



「止まって下さい。さもないとマインさんがどうなっても知りませんよ」


 マインの首筋に剣を触れさせるジーファン。ザンが僅かに動揺を顔に表した。それを見て満足げに笑みを見せるジーファン。


「さてと、それでは……ハッチ!」

「あいよっ!」


 ジーファンの呼び声に応え、ハッチが近くのテントから飛び出した。ウォンに討たれかけた事で、今の今まで討伐隊から隠れていたのである。


 ジーファンがマインを担いで跳んだ。そしてハッチの背に飛び乗る。


「逃げる気か!?」

「もうこの盗賊団は終わりですからね。付き合ってられませよ」


 ジーファンを乗せてハッチが飛び去る。


「待て!」 


 ザンが条件反射で追いかける。人質の意味はあまり理解できていなかった。ザンが追いかける事でマインが殺されるとは考えていなかった。


 ジーファンに殺意があれば思い至っただろうが。


 マインはジーファンにとっては大事な人質であり、そして魔剣の貴重な素材でもあった。



「追ってきますね……」


 嫌そうな顔でジーファンが振り返りザンを見下ろした。驚異的な脚力でハッチの機動力に追い縋っている。試しに爆発の魔剣を投擲したが、全く足止めにならなかった。


「……イージンまで持てば良いですか。オーバーブースト」

「へ……!?」


 ジーファンがハッチにオーバーブーストをかけた。ハッチの筋肉が異常に盛り上がり全身に血管が浮き出る。過剰な肉体強化をかけられたハッチは白目を剥き泡を吹きながら、倍以上の速度で飛び始めた。ザンが引き離される。


「あ……ああ゛……」

「すいませんねハッチさん。彼が追って来るもので。あと少しの命でしょうが頑張って下さい」


 こうしてジーファンはキャンプ地から逃げ去ったのであった。


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