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剣技を放て!  作者: 源平氏
剣の都イージン編
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第51話 合格、そして卒業



「剣技! 人生フルスイング!」


 山賊男が剣を横に振った。空気を斬り裂きながら進む剣はテオの脇腹に命中し、そのままテオを斬り飛ばした。


 壁に激突し倒れるテオ。


「いてて……」


 だが斬られた箇所を擦りながらテオは立ち上がった。鋼化により剣を防いだのである。


「テオ! 踏み込みが浅いわよ! 懐まで潜りこまないと剣の間合いに入るだけよ!」


 マインとの戦闘訓練をしながらレジーナの指導が飛ぶ。レジーナの意識がテオに向かっている隙にマインは手刀で斬り付けたが、その攻撃は全て防御されてしまった。そして手を取られて組み伏せられるマイン。


「マインは無闇に攻撃しない! 中途半端な攻撃はカウンターの餌食になるわよ!」


 肩の関節を極められるマイン。とりあえず関節を守るために鋼化を展開したが、逆にその状態で固定され動けなくなる原因にもなっていた。レジーナは拘束を解くと解散を告げる。


「次のグループの訓練が始まるから、あなた達は部屋で勉強でもしてなさい」

「わかりました」

「はーい」




 レジーナの後継者候補となり半年。マインとテオは鋼化と衝撃斬化を修得していた。


 訓練は順調だった。戦闘訓練以外にも、気配を消す訓練や演技、話術、毒などの知識に至るまで網羅的に教え込まれている。その他一般的な知識は本を与えられ部屋で各自身につけるように言われていた。


 三ヶ月目からはある程度の自由行動も許されていた。たたら場は打ち捨てられた森の中の小さな廃城。その中の一部の区域であれば、他の子どもたちと接触しない条件で出歩くことが出来る。マインとしては好きな時間に水を使えるのが一番うれしかった。


 レジーナは二人を本気で後継者にするつもりらしい。未だに疑ってはいるが、それでも二人にはそうとしか思えなかった。



「あー、しんどっ」


 部屋に戻り次第ベッドに飛び込むテオ。彼女はどうやらゴロゴロするのが好きらしい。事あるごとにそうしていた。将来は商人として旅をしたいらしいが、果たして旅に耐えれるのかはマインには少し疑問だった。その様子では野宿は辛いのではないだろうか。


「ねえマイン。また他所の街の話を聞かせてよ」


 うつぶせのままテオが顔だけをマインに向けて言った。マインは宿屋にいた頃によく商人から旅の話を聞いていた。その話をそのままテオに話した所、テオはひどく喜んだ。そしてそれ以来よくマインにねだって来るようになったのだった。


 事あるごとに聞いて来るためいい加減うっとおしい。少し後悔しているマインであった。それでも聞かせてあげるあたり、マインはテオに情が湧いていた。半年一緒に居ればそうもなる。


「そうね……じゃあ王都で開かれる剣の祭典っていうお祭りの話でもしようか?」

「うん! それでいい!」

「そもそも剣の祭典って言うのは四年に一度やるっていう大きな大会で――」




「さ、話はもういいでしょ。そろそろ勉強しないとレジーナに怒られるわ」


 そうしてしばらく話した後、マインは机に座って本を開いた。今読み進めているのは人体解剖図巻。人間の体の内側を知る事はそのまま人体の急所の把握にもつながるため、マインは熱心に読み込んでいた。


「えー、もうちょっといいじゃん」

「駄目。レジーナがいつも私たちの気配を監視してるのはもう分かってる事でしょ? はいこれ。剣技辞典」

「これ全部に目を通すの面倒だなー。本分厚いし」

「つべこべ言わない。私たちはもう一個剣技を使えるようにならないといけないんだから。どんな剣技があるのかは知っておいて損はないよ」

「はーい」




 そうして二人の訓練は進んでいく。剣技を身に着けた事で二人の実力はめきめきと上達していった。


 そしてさらに半年後。



「剣技! 人生逆転ホームラン!」


 腰をひねりながら剣を横に振る山賊男。相手を遠くに斬り飛ばすという剣技である。マインはそれを腕で受け止めた。マインの腕がぐにゃりと変形する。


「なっ!?」

「剣技、こんにゃく体」


 鋼化で受け止められると思っていたのだろう。剣を引き込まれ山賊男がつんのめる。そのとたんマインの腕はその弾力で剣を弾き飛ばした。山賊男は自らの剣技の威力によって吹っ飛ばされ壁に激突した。



「剣技! ショートカット!」


 テオが全身に電撃を纏った。そして雷と同じ速度で突進する。一瞬でレジーナの懐に入ったテオは抜き手を叩き込んだ。


 バチィッ! という音と共に閃光が放たれる。レジーナの全身を雷が駆け抜けていた。


「良い踏み込みね。刺突も電撃も申し分ない威力だわ」

「えー……、レジーナ無傷じゃん。なんでぇ?」

「鋼化で体の表面だけに電気が流れるようにしたのよ」


 実際には剣気のコントロールにより電撃を弾いたのであるが、レジーナはさらっと嘘をついた。そして手を叩く。


「二人とも合格よ。よくオリジナルの剣技を身に着けたわね。これなら安心して仕事を任せられるわ」


 珍しく褒められた二人はポカンとし、そして顔を見合わせた。そしてまたレジーナを見る。


「レジーナ、それって……」

「ええ。二人とも今日でたたら場を卒業よ。頑張ったわね」

「……やったー!」


 テオが諸手を挙げ興奮する。マインも動きには出さなかったが嬉しさで口角が上がっていた。それを見て微笑むレジーナ。山賊男はまだ壁に埋まって気絶していた。


「早速だけど、明日には移動してもらうわ。今日中に部屋を片付けておきなさい。訓練はもう終わりよ」


 喜ぶ二人に、レジーナはそう言い渡したのであった。



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