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剣技を放て!  作者: 源平氏
剣の都イージン編
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第49話 テオ


 互いに殴り合うというたたら場の異常な訓練。共謀して攻撃の手を緩めるというマインと少女の目論見は、レジーナによりあっさりと看破された。


 レジーナの命令で二人をリンチする子供たち。マインは大人しくなすがままになっていた。


 殴られれば踏ん張らずに殴り飛ばされる。そうして衝撃を逃がしたほうが痛みが少ない。少女と手を組んだ時、マインは思いっきり殴られたと見せかけ自ら後ろに跳んだ事でそれに気づいた。


 レジーナはその後自身もリンチに加わり暴力を振るった後、二人を牢にぶち込んだのだった。



「あはは……、まさかあんなにすぐに見抜かれるとはね」


 教唆犯である少女は暗闇の中で力なく笑った。その両手に繋がれた鎖に吊るされ、強制的にバンザイをさせられていた。


「誰のせいよ」


 同じく吊るされた状態でマインがぶっきらぼうにに返す。背にした壁に繋がる鎖は、つま先がギリギリ届く長さに調節されていた。肩にかかる体重が地味に痛い。



 牢屋は山賊男が時折見回りに来る時以外は二人だけだった。


「行けると思ったんだけどなー」


 鎖をチャラチャラと鳴らしながら少女が言う。反省の色はなさそうだった。こんな目にあっておきながら、一体彼女の何が逆らう気を起こさせているのだろうか。


「ねえ、あなた名前は?」


 少女がマインに尋ねる。


 マインは現状を引き起こした元凶にこれ以上関わりたくなかった。だが一方で、他の子どもと話す機会はもうないかもしれないとも思っていた。ジーファンを除けば数カ月ぶりの話し相手なのである。


「……マインよ。あなたは?」

「私はテオ。よろしくー」


 なにがどうよろしくなのかは分からないが、その声はたたら場の子供とは思えないほど明るかった。他の子どもたちとはそもそも口を利いたことがないが、目が死んでいるあたり、とてもこんな明るさは持ち合わせてはいないだろう。


「テオはいつもこんなことしてるの?」

「いや、今日が初めてだよ? 何人か洗脳が緩そうな子を誘ってみたけど、応えてくれたのはマインが初めてだから」


 あっけらかんにそういうテオ。たたら場に来た子供がまず受けるレジーナの洗脳がテオは解けているようだった。意外と精神はマインと同じ位に成熟しているのかもしれない。


 単に図太いだけかもしれないが。


「なんでこんなことをしようと思ったの?」

「そんなの決まってるじゃん。協力者がいればそれだけ楽になるからだよ。楽になれば訓練で死ぬ危険も少なくなるし」

「死……」

「たまにいるよ? 打ち所が悪かったりして居なくなる子」

「そうなんだ……。そうだよね、いるよね。こんな場所だったら」


「私は訓練を無事乗り越えて暗殺者になるの。そしてここを出たら即逃げる!」

「……逃げれるの?」

「だって誰かを殺してこいって言われるんでしょ? なら一人にもなれるじゃん。逃げるチャンスは絶対あるはずだよ」


 確かにテオの言うとおりである。その日の訓練をどう乗り切るかと消極的な事ばかり考えていたマインだったが、この時ようやく未来に目を向けることが出来た。



 しばらくして。


「私たち、これからどうなると思う?」


 マインにとって最も気になるのはそこだった。最悪処分されるかもしれない。考えれば考えるほどに、今回の件は失敗だったと思える。他の子ども同様に従順に訓練した方が安全だったのではないか。


「うーん、殺されるのは困るなー。かといってレジーナには勝ち目ないし、これじゃあ逃げようがないもんね」

「無策じゃん。……っていうか、詰んでない?」

「レジーナ次第だね」


 あれこれ考えても、結局は同じ結論にたどり着いた。レジーナの判断次第である。二人の命はそれほど不安定な状態だった。風前の灯のように心もとない。




 その時。


「お前ら、レジーナさんがお呼びだ」


 山賊男がやってきてそう言ったのだった。





「あなた達の処遇が決まったわ」


 男に連れられ訓練場に戻ると、既にほかの子供たちの訓練は終わったらしく、レジーナ一人が残っていた。


 今からここで殺されるのだろうか。そんな絶望的な未来を予知してしまい青ざめるマイン。テオも緊張しているのか、ゴクリ、とマインにも聞こえるほどの音で唾を飲み込んだ。


「より正確に言えば、あなた達に与える選択肢が決まったわ」


 顔を見合わせる二人。レジーナは目を細めてそれを見ていた。


「あなた達に与える選択肢は二つ。このまま殺されるか、私の後継者を目指すか」

「後継者って?」


 レジーナに質問するという度胸を見せるテオ。


「そのままの意味よ。私の仕事を引き継ぐ存在って事」

「仕事って、子供たちの訓練?」

「暗殺の方をしてもらうわ。私はここの訓練を見ないといけないからずっと手が付けられていないのよ」


「なんで私たちが? 他の子供じゃダメなの?」

「洗脳された人形じゃ使い捨ての道具にしかならないわ。現場で自分で考えて、そして帰還する能力が無いと暗殺者としては三流以下よ。重要な任務は任せられないの」


「私たちをもう一回洗脳しないの?」

「一回失敗したことに再挑戦するほど私は暇じゃないわ。それぐらいなら他の手を考える。あなた達の場合は上から押さえつけるよりも自分の意志で訓練させた方が良いと思ったまでよ」


 マインは合点が行った。そこで先ほどの選択肢が出て来るのである。殺されるか、自分の意志でレジーナに従うか選べという訳だ。


「後継者になったらどんないい事があるの?」

「ある程度の自由は保障するわ。それにここの生活からも抜け出せる。ここ以下の生活なんて他にはないと思わよ?」


 再び顔を見合わせるマインとテオ。


 殺されると思っていた所に降って沸いた生き延びる道。相談するまでもなかった。無言で頷き合う。答えなど初めから決まっていた。



「「私たちを、後継者にして下さい」」


そんなうまい話あるわけないです

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