第26話 剣技犯罪
お待たせしました。更新再開します。
書けたら投稿していくので数日おきの更新になる予定。
「へぇ、その年で剣聖なのかい。剣士ってだけでも驚いたのに、すごいんだな坊主」
イージンへと向かう馬車を操りながら、行商人の男がそう言った。褒められたザンは頬をかく。ザンは行商人の護衛として馬車に同行していた。
「近頃は剣士じゃないくせに剣技を使う奴も多いが、こんな子供でも使えるんだなあ。」
行商人は馬車の横を歩くザンを見た。その姿は剣を持った子供、というのが一番適しているだろう。初見で剣聖と思う者はおそらくいまい。
「おっちゃんでも頑張れば使えるようになると思うぜ?」
「はっはっは。べつに羨ましいって言ってるんじゃない。武力が欲しければ金で雇えばいいんだからな。今みたいによ」
「おかげで助かってるぜ。まさか金が尽きるとは思ってなかったからな。ちょうどイージンまでの護衛依頼があったのは運が良かったよ」
「最近は物騒だからなあ。山賊とかも増えてるし、護衛なしの旅は恐ろしくてとてもじゃないが無理だ」
「この辺でも盗賊って出るのか? イージンなら剣士が多いからすぐに討伐されるだろ?」
ザンが周囲を見回す。今馬車が通っている道はひらけている為、襲ってくる者が居ても遠くから見つけることが出来るだろう。馬車が邪魔で死角になっている方向を除けばだが。
周囲は原っぱが広がり静かな物だった。ぜいぜい蜂らしき羽音が聞こえるくらいである。
ブ~ン……
「前はそうだったんだがなあ、今はイージンの周りで盗賊の被害が拡大してるんだ」
「なんでだ?」
「剣技さ。山賊どもが剣技を使うようになって、簡単には討伐できなくなったらしい。いわゆる剣技犯罪ってやつだな」
「それは厄介だな」
「もし襲われたらちゃんと守ってくれよ?」
「おう、それが仕事だからな! 任せとけ!」
ザンが胸を張った。元々金が無くて護衛を引き受けたのだ。完遂しなければ行き倒れてしまう。やる気は十分であった。
ブ~~ン
「しかしあれだな。虫が多く出る季節だからか、羽音がうるさいな。蜂か? この音」
ザンと行商人がキョロキョロと音の出所を探す。
「なんかどんどん音がでかくなってるな」
ある程度音が大きくなるにつれ、音の方向がはっきりしてきた。その音が上から聞こえてくることに気づき空を見上げた二人の目に、空を飛ぶ一人の男が映った。
「剣で、羽ばたいてる!」
ザンが驚きの声をあげた。空を飛ぶ男は二刀流。羽ばたきが早すぎて剣がブレて見えた。ザン達に向かって真っすぐ飛んでくる。
「あれは! 賞金首の皆殺しハッチじゃねーか!」
「知ってんのか? おっさん」
「この辺りに出る山賊の中でも特にヤバい奴の一人だ!」
馬車の前に出て剣を抜くザン。ハッチというその盗賊はザンに向かって一直線に飛んできた。
「ヒャッハー! まずは護衛のガキからだ!」
「おりゃあ!」
突っ込んできたハッチにむかってザンが剣を振る。しかしハッチが避けたためその攻撃は当たらなかった。その動きはまるで蜂。ハッチはすり抜けながらザンを斬り付けると上昇。反撃の届かない高度からザンを見下ろした。
ハッチが斬ったと思ったザンはしかし、剣でギリギリ防御に成功していた。
「なにぃ!? 俺の攻撃を防いだだと!?」
ハッチが顔をしかめた。ハッチが剣を振る速度は虫の羽ばたきと同速。並の剣士では見切る事は不可能なのである。
「おい! 降りてこい! 卑怯だぞ!」
ザンが上空に向かって剣を振る。その姿は子供のそれである。そんな子供に攻撃を防がれたことに、ハッチの自尊心は大きく傷ついた。
「逃げ虫! 怖がり! 虫けら野郎!」
「蜂を馬鹿にするんじゃねえ!」
ザンの挑発を受けハッチが再度突進する。ほぼ真上からの急降下。ザンは横に跳び突進を躱した。地面に激突する前に直角に曲がり地表すれすれをハッチは飛ぶ。そしてすぐに急カーブをしザンを追いかけた。
「剣技! 蜂々乱舞!」
ハッチの羽ばたきはすれ違いざまに当てるだけで強力な斬撃となる。相手の周囲を自在に飛び回り浴びせれば、それはもはや斬撃の檻。四方八方から襲い掛かる斬撃はザンを細切れにするかと思われた。
「全力気合スイング!」
ザンが剣技を発動し一回転した。衝撃波でハッチの攻撃を弾く。ハッチは衝撃と同じ方向に飛ぶことでダメージを無効化した。そして再び上空に戻りホバリングする。
「あぶねえ。斬り刻まれるところだった」
ザンが左腕を舐めた。その部分には浅い切り傷。他にも体のあちこちからわずかに血が出ていた。後ほんのわずかにでも剣技が遅れていればこの程度では済まなかっただろう。
「けど、これ以外に手がねえ!」
ザンは剣を振りかぶった。先ほど以上に剣気を纏わせる。ハッチが近づけば何度でも衝撃波で追い払うというアピールである。
「てめえ……」
ハッチは憎々しげにザンを見下ろしていた。もう一度突撃しても先ほどの二の舞だろう。そう判断しハッチは気持ちを切り替えた。
「あばよ!」
「あ、逃げた!」
ハッチは退散する事にした。自分が負けるとは思っていないが、危ない橋をわざわざ渡る必要はない。もっと狙いやすい標的を探すだけである。ハッチが今まで捕まらずにいられたのはこの切り替えの潔さも関係しているのである。
「こらー! 逃げるんじゃねー!」
「ふはははは! 悔しかったらお前も飛んでみろ!」
ザンが走って追いかける。しかし馬車を置き去りにするわけにもいかずやがて立ち止まった。ザンの仕事は守る事。盗賊を倒す事ではないのである。みるみる距離が遠ざかっていく。
「これならどうだ! 剣技! ちょっとだけ全力気合砲!」
最後の足掻きとばかりにザンが剣から剣気を放出した。余力を残しての全力気合砲である。元々の全力気合砲は一発放つだけで気力が底をつくという欠点があったが、それを繰り返し使えるよう改良したのである。
そうして放たれた剣気の塊はしかし、遠すぎてハッチに軽々と避けられてしまった。そのままハッチは逃げ続け、その姿はやがて見えなくなったのだった。
「くっそー! 次は絶対倒してやる!」
護衛自体は成し遂げたものの、ザンは納得できていなかった。次こそはと決意を固め、ザンは馬車へと戻ったのだった。
その後行商人に聞いたところ、賞金が付けられているのは古参の盗賊らしい。つまり盗賊が増える前からこの辺りで名が知られていた盗賊であり、イージンの剣士たちが今まで討伐できなかったという事だ。それだけの強さや逃げ足の速さを持つという証明でもある。
ザンはイージンに付いたら賞金首の情報を調べようと決意し、またどうすればハッチを倒せるか考えるのであった。
そして馬車の護衛を続けて数時間後、ザンは剣の都イージンへと到着したのだった。




