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剣技を放て!  作者: 源平氏
剣の街ソルドン編
15/57

第15話 二回戦(仮):剣士ルドルフ


 夜、剣士連盟に併設された訓練場でザンとルドルフが手合わせをしていた。ルール違反の責任をとると言ったルドルフにザンが出した要求である。月明りの下で二人は攻防を重ね、ルドルフの弟子たちはそれを離れた所で見学していた。


「ほらそこ、また力技に頼ろうとする。お前の悪い癖だ」


 僅かに追い詰められたザンの放った反撃をルドルフは最小の力で逸らした。それによりつんのめったザンにルドルフがカウンターを放ち寸止めする。これで七度目。ザンは連敗を重ねていた。


「くっそー! 俺の方が早いのにどうして剣が追い付かないんだ!?」

「俺の方が先に動き始めてるからな。機先を制するとそれだけ有利になるという事だ」

「もう一回だ!」

「いいぞ」


 ザンは連敗の回数を八に更新した。


「なんで俺の考えが読めるんだ!? 俺が何かしようとしてもその前に対処してるよな?」

「……お詫びついでに教えてやるか。それは俺がそういう剣技を使ってるからだ」

「剣技を?」

「そうだ。剣技、(シン)パシー。相手に深く共感することで考えを読むことが出来る」


 ルドルフがノームら弟子たち伝授した剣技である。ノームたちは仲間同士で使う事で高度な連携を構築していたが、ルドルフはそれを敵に対しても使うことが出来るのである。


「ザンは対剣技の経験が不足しているな。せっかくだからもっと見せてやる。もうひと勝負だ」

「いいぜ!」


 ザンが剣を構えた。連敗を喫しているザンはかつてないほどに警戒している。自然剣を握る手にも力がかかった。そんなザンに対してルドルフは一切の緊張もなくゆったりと剣を構えた。


 次の瞬間、ザンの手から剣が滑り落ちた。強く握っていたはずの手が開かれていることに気づきザンが驚愕する。慌てて拾おうとしたザンは自分の体の異常に気付いた。


「体に……力が入らねえ!」

「次は膝だ」


 ルドルフがそう予言する。途端にザンの膝が抜け、ザンは地面にへたり込んだ。当のザンは意味が分からず平静さを失っていた。


「まぶた」


 ザンのまぶたが閉じた。どんなに開こうとしても開かない。もはやザンはパニックになっていた。


「とまあ、こんな感じだ。もう自由に動けるぞ。目を開けろ、ザン」


 ルドルフが手を叩く。ザンはカッと目を見開いた。そして力が入らなかった手足を動かして確認する。体はザンの思い通りに動くようになっていた。


「今のが深パシーの奥義だ。こちらが相手に共感することで心の繋がりを作り、相手にもこちらに共感させる。人間は意識的にも無意識的にも他人に影響を受ける生き物でな。こちらが緊張すれば相手もつられて緊張するし、リラックスすれば相手もリラックスする。それを応用すれば相手をコントロールできるという訳だ」

「よく分かんねえけど、俺を操ったって事か」

「そうだ。他人の精神に干渉する剣技というのも存在する。それを知らないとさっきのように対面した時点で負けが確定することもある。気を付けろ」


 ザンはもし今の手合わせが実戦だったらと思うとぞっとした。おそらく何もできずに斬り殺されていたに違いない。


「どうやったら防げるんだそれ?」

「干渉されていることに気づけるかどうかだな。後は気を強く持って跳ねのけるしかない」

「なるほど。教えてくれてありがとな。助かるよ!」

「詫びだからな。普段は弟子以外に技術を流出させたりはしない」


 ルドルフはそっぽを向いた。精一杯の照れ隠しである。


「そうだ。もう一つ聞きたい事があるんだけど」

「何だ?」

「次の試合相手が斬っても斬れない位に体を頑丈に出来るらしいんだ。どうやって倒せばいいのかまだ分かんなくてな」

「肉体を変質させる類の剣技か……。剣技の中じゃ習得が難しい部類だが、そうだな、俺なら……」


 そうしてしばらくしてからザンとルドルフは話を終え解散となった。ザンが礼を言って訓練場から去っていき、離れて見ていたノームたちがルドルフの元に集まる。ザンとの手合わせを見ていてノームたちの心に火が付いたのだろう。彼らはすぐに自分たちの稽古を始めたのだった。




 その日、ノームはルドルフにあることを聞いた。


「ザンを弟子にしないのか?」

「はい。俺たちは師匠に真剣さを買われて弟子にして頂きました。ザンも、真剣さなら誰にも負けてません。弟子に誘わないのかと気になりまして」

「……ザンが師匠を探している事は知っている。俺の所にも来たからな。だが弟子にはしない」

「それはまた、どうしてでしょう?」

「第一に、あいつに俺の剣技は合ってない。あいつは他人にたいして鈍感そうだからな。他人に共感なんて難しいだろう」

「第一にと言う事は、他にもあるのですか?」

「ああ。あいつの剣は、なんて言えばいいのか……やる気があるのは認めるが、虚しい」

「虚しい、ですか……?」


 首をかしげたノームをルドルフが見る。ノームとザンの違いをルドルフははっきりと感じていた。


「そうだ。奴の剣はな、空っぽだ」


 やはり分からないという顔のノーム。ルドルフはいつかノームに分かる日が来ることを願いこう言った。


「お前たちはひたむきに頑張れば問題ない。ほら、今日はもう帰って寝た寝た! 明日からまた修行の日々だぞ!」


 ザンに目指すものがあるように、ルドルフにも夢があった。一人前になった弟子と酒を飲むことである。ルドルフはそんな未来を心待ちにしながら帰路についたのだった。



次回、第16話 三回戦:剣士マイン

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