38 人質交換の条件
翌日。
アンゲラは午後、王妃候補者達との茶会に出席した。
アルシノエは先約があると事前に断りを入れていた。
そこで、アンゲラは忌まわしき記憶が新しいこの王宮へ来たことを盛大に盛りに盛って話す。
素直な王妃候補者はアンゲラに同情し、彼女の性格をよく知るものは話半分に聞いている。
「お疲れではありませんか?」
と当たり障りのないことを言う令嬢や王女がほとんどだった。
「それは、怖い思いを。」
と心配するのはタオエ皇国のデシレア皇女くらいだ。
「いいえ。見知らぬ男達に囲まれただけですし。"お前達の王の身柄を預かった。解放したくば手紙を王宮の長老会会長に渡せ”と。噂では王様のみに危険が及んでいるとの話でしたし。彼らの話に嘘はないだろうと。」
何故か茶会に呼ばれていたリュコス家のニーナの姿を見つけ、怪訝な顔をする。
「あら、公爵令嬢様も?」
「なにかしら?途中棄権した伯爵令嬢殿。よく、この場に顔が出せましたわね。」
すかさず毒を吐くもののニーナは動じない。
侍女はお茶のおかわりを持ってきた。
「大事なのは交渉条件かと。」
「無事に帰還されるのですか?」
「さぁ?」
アンゲラはどうかしらといった表情を見せた。
ようやく、手紙の封印を解いて中が見られるようになった手紙の便せんを取り出す。
「これ・・・は??」
「どうなさいましたか?ディオミディス様。」
セニア卿が紙をのぞき込む。内容を見た途端ディオミディスが放った言葉の意味がわかった。
「なぜだ?あのお二人は・・・」
その後、長老会緊急会議が開かれることとなった。
「ナウサ王国のグリフィナ王女並びにクニグンデ王女を引き渡すこと。以上だ。」
がたがたにふるえる若者。
「ふざけるなよ!」
大公の声がに響いた。
そして、長老会の部屋は騒然とした。
ナウサ王国のグリフィナ王女とクニグンデ王女は2週間も前に王宮を立ってしまっている。既に国境を越えているはずだ。
「行程には多少の誤差はつきもの。まだナウサ王国への帰路の途中だ。ミューイ王国を越えていないか確認を至急。」
「ただし内密にな。」
若い会員が声を挙げる。
「会長!普通に届けても数ヶ月かかります。10日以内に完遂することは不可能です。」
「うーむ・・・」
とはいえ、このままでは人質二人の命が危ない。
「時間をかけなければよいのですね。」
次期、長老会会長の呼び名が高く今はアーノルドの秘書的立場の初老の男が言った。
「彼らを頼るほか有りません。呼んでき給え。」
「今どの当たりにいるのか確認を。」
「さよう、せい。」
アーノルドはゆるゆると腰を下ろした。
「やれやれ。」
大公は情報が出るまでは顔を出さないと言い、部屋を去っていった。
宮廷魔法使いの集う部屋では一仕事終えてのお茶をかつての上司とその弟子とで静かに囲んでいる。
「ディノス殿。」
声をかけられ振り向くとそこには護衛と一人の若者が居た。
すっと渡された手紙には至急アーノルドのもとへとの記載だけがあった。
「これは?」
「またしても仕事だそうだ。」
「やれやれ・・・」
ディノスは使いの者と共にアーノルドのもとへと急いだ。




