37 王の花園
約束の日。
アルシノエはもっさりとしない程度のドレスを着て王の花園まできた。
アルシノエがお茶会の主催としてここの花々をいただいて以来足を踏み入れていない。
この辺りを歩くことはあっても王専用の花園であり勝手に橋を踏み入れてはいけないのだ。
激務続きであったディオミディスはアルシノエのそばでごろんと横になっている。
アルシノエは、最近覚えた魔法で近くの草花に似せたものを見せた。
「どちらが本物かわかります?」
眠そうなディオミディスはすかさず偽物を掴む。
「これは偽物だな。」
「え?」
「風があるのに他のものと違い動かない。まだまだだな。」
ただそれだけで会話が終わってしまった。
いろいろと二人だけで話がしたい。しかし、多くの女官や衛士達がおり二人きりで話が出来そうにもないので当たり障りのない話ばかりで寂しいとアルシノエは感じていた。
ただ、アルシノエが質問するとめんどくさがらず答えてくれる。
それだけはアルシノエにとって少しの慰めであった。
「ディノス殿が以前どのようなことをされていらしたのかご存じ有りません?」
少し考えつつ、ディノスを見た。
ディオミディスに目もくれず、異変がないか森の方を向いていた。
「めぼしい子供らに魔法の使い方、制御の仕方などを教えていた。らしい。」
「らしい?ですか。」
「彼の心情は学びによってこそ師たるものも伸びる。だそうだ。それを自ら実践されていたそうだ。」
それはディノスの師匠が提言した教育方針でそれを実証するため安定した宮廷魔法使いの職を辞めたのだそうだ。
「ディノスは我が師でもある。」
その言葉にアルシノエが食いつく。
「ではお手本を・・・」
「今は疲れ果てて無理だ。集中力が必要だ。」
そしてディオミディスは目をつむる。
くすくすと女官達が笑う。
タオエ皇国に嫁がれた先の国王陛下の妹君、セリエーヌ様が一番出来のいい弟子だったそうで。
今は、間違いなくアルシノエ様ですわ。となぜかほめられた。
「ほぼ前任者により基礎ができあがっていたそうだが、な。」
ディオミディスが話し出すと女官達は口を噤む。
「このようなところで・・・植物がつぶれてしまいませんの?」
「ここは草地だ。珍しい花々はしっかりと魔法によって保護されている。なんなら・・・」
と言い、大振りの花を摘み取ろうとするが茎が折れることも引き抜くことも出来なかった。
ようやく、アルシノエが笑った。
「もう少し周りの環境に合わせて作りましょう。」
とディノスからアドバイスを貰い午後もう一度挑戦することになった。
一人、恨めしい顔をしているご令嬢が木々の影から見ている。
「悔しい・・・」
アンゲラは本来ならば国王があの場にいなくてはならないと思っている。
しかし彼はとらわれのみである。
ふと、人の気配を感じた。
「貴方は。」
大公派筆頭貴族のセニア卿であった。
「こちらで?」
「返事が来なくて足止めですの。」
ふてくされたようにそっぽを向く。
「以前あなた方はあの場所で国王と。思い出の場所を踏み込まれたと言うことですかな?」
痛いところを突いてしまったかなとアンゲラを見たがいつもと変わらない。
「さぁ?」
「国王陛下についてお聞きしたい。アンゲラ様は国王として愛していらっしゃるのか一人の人として愛していらっしゃるのか。それとも家の安泰のため近づきたいのか。」
美しいアンゲラの眉が動いた。
「聞いてどうなりますの?結果は同じ事ではありませんか。」
にやりと笑う。
「なぜ、大おばさまが引き下がるようにと言われた理由です。」
「え・・・」
「おわかりではない。もっとコーミラ家のご令嬢は物わかりの良い方々ばかりだと思っていたのは間違いだったようですね。」
ずけずけと物言うセニア卿にいらついた顔を少し見せた。
ご存じないのであればお教えしましょうとアンゲラの意見を聞くことなく話す。
「国王の妻、正妃や側室は皆で国王の子らを守り育てる事こそが大事な役目。孤軍奮闘し寵愛を求めることではないのです。」
「そこさえ良ければ、もう一度正妃候補者になることが出来ます。私はそう思います。」
アンゲラは不敵な笑みを浮かべるセニア卿を凝視した。
普通ならば二度と王のそばにいられないはずである。
「最終まで残った貴女にはその権利がある。特別な計らいです。また、身を挺して極秘の手紙を運び返事を渡す。それだけ重要なことをこれからなさるのです。」
「それだけ?馬鹿にしないでくださる?」
「よくよくお考えください。」
アンゲラは王の花園から立ち去った。
深々と頭を下げ、アンゲラを見送った。
「はて、我が娘もあのような時機があったのやら。うぅむ・・・年頃の娘の扱いは難しい。」
彼の娘の一人は前王の側室の一人で現王の母である。
つまり現王の外祖父に当たり大公派の進入を許した形となっている。
ちなみに前王妃の父はアーノルドであり先王の側室、正室とも既に病により亡くなって居る。
王の兄弟はおらず、先王の側室達が与えられた離宮で余生を送っている。
セニア卿は所定の位置に戻り大公達を遠目で見ている。
二人は木陰に移動し小鳥のさえずりを聞いていた。
「「大公様!!」」
ぐうぐうと寝息を立てている。
アルシノエが自分の上着をディオミディスに掛けていた。
「少し寝かせて差し上げたいの。」
と自身の膝枕で熟睡している愛しき人を優しく見つめていた。




