30 確かな情報源
時間的にも教授することが難しいことがわかって残念な気持ちもあったが、ディノスとの勉強が早く終われば出来るのではないかと密かに期待している。
ふと、ピューカ州に残してきた母や王妃選びで仲良くなりアルシノエが信頼できる情報通であるニーナとタレイアのことが頭に浮かんできた。
一度頭に浮かんだ3人の顔が消えてくれない。
そのためか夢にまで現われてしまった。
午前の勉強をしていても気になって気もそぞろ。
昼食後、思い切って手紙を出したいと申し出ることにした。
「手紙を出したいの。」
長老会の中堅にリューシュンがアルシノエのご用聞きをしてくれた。
「長老会の検閲を受けてもよろしいか。」
「かまいませんわ。」
「もう一つ。無事に届くかどうか保証が出来ませんぞ。」
「いいわ。」
「では、できあがり次第お受け取りに参ります。」
「レターセットを。」
「レターセットをお持ちしました。」
母、ヘルミオネにはディノスの話は伏せて無事に王宮までつきましたとの報告だけにした。
ニーナとタレイアには長老会から悟られぬよう細心の注意を払う。
長老会の中堅リューシュンに3通の手紙を渡すとアルキュオネがドアを施錠する。
「あの。またでした。なんだか監視されているようで・・・」
昨日同様、フェノロサがうろついていたという。
ここまで来れば変というより異様である。
「心配なのはわかるけれど、私たちでも安否さえわからないのよ。」
「私たちこそ、アニタ様のことが心配ですのに。」
「アルキュオネ、きっとそうじゃないかしら?」
「お姉様・・・そうでしょうね。」
「そうね、マイア。彼からの手紙の頻度がかなり多かったものね。」
恋しい人が今どこで何をしているのか無事なのかさえわからない。
それはアルシノエも経験があった。
ただ、彼ほど逼迫した状況ではなかった。
それだけにフェノロサが不憫で仕方がない。
もどかしい、日々が続く。
それから1週間ほどの後のこと。
アルシノエは返事などを期待してはいなかったが、ニーナとタレイアから返事が届いた。
母、ヘルミオネはとかく無事で良かったとの一文だけであったが。
ディノスとの勉強の合間、リチェンツァがお茶会を開いてくれた。
そこで、タレイアとニーナからの手紙の返事が来たことをかいつまんで話すことにした。
「タレイア様のお返事ですけれど貴族の大半、庶民に至っては誰一人王様が王宮にいらっしゃらないという話は知らないそうですわ。タレイア様もご存じなかったそうです。おそらくは長老会の方々がこの異常事態の中での反乱などを恐れて公表していないではとの推察です。」
「ニーナ様からはここのところ、謎の集団が神出鬼没に荒らし回っていると。リュコス家の領内でも被害が出ているとか。」
話題は国王がどこでどんな現状なのかで持ちきりだった。
意外と快適な暮らしなのか、拷問を受けているのか、話は尽きなかった。
あてがわれた部屋に戻ると一通の封筒に違和感を感じ他に何か無いかと封筒をひっくり返していたところぺらりと封筒から一枚便せんがこぼれ落ちた。
そこにはアルシノエに対しての一言が添えられていた。
アルキュオネが拾って読み上げる。
「えっと。ニーナ様は近日中にご用事で王宮にいらっしゃるそうですので一度お会いしませんか。と。」
「話を詰めましょう。お願いね。」
「はい。」
一応ディノスにも相談をする。
「まあ、いいでしょう。根を詰めても良い結果は生みませんし。」
ディノスも休息が必要だとの認識があるようで、計画には空きがあるのでかまいませんよと許可はすぐ下りた。




