22 決断
2つめの課題が終わってから4日後。
結果が公表された。
アルシノエとリチェンツァなど9人が合格した。
ニーナやタレイアなど多くの友人とはここで別れることとなった。
王宮を去っていく友人達をアルシノエは見送った。
「あ・・・」
「おめでとうございます。」
タレイアは清々しくアルシノエに称賛の言葉を言う。
「タレイア様。」
「次で最後です。期待していますわ。」
その後、ニーナも荷物をまとめて侍女達と玄関ホールへとやってきた。
「ニーナ様。」
「これからは、他の候補者達と仲良くしなくてはなりません。でも、アルシノエ様ならできると信じております。」
「はい。」
「また、手紙を出したいと思います。」
ニーナは優しい笑みをアルシノエに見せ迎えの馬車に乗って王宮を後にした。
昼過ぎ、合格者はまた大広間に集められた。
最初集められたときは足の踏み場もないほどの密集状態だった今やそれぞれがダンスの練習が出来そうなくらい広々としているのであった。
「貴女。ニーナ様の守役と親密だとお聞きしましたわ。そのような方が最終課題まで残るなんて。王様の仮にも妻となるのにそのようなふしだらな。即刻自主辞退をされることをおすすめしますわ。」
またしても、アンゲラから言いがかりを付けられた。
むっとしたが、ここはすまして事実を告げる。
「アンゲラ様。彼はただ、私の友人でニーナ様からの言伝をよく侍女の代わりにしていただけですわ。」
「嘘おっしゃい。貴女の兄上が手を尽くすとおっしゃって・・・」
「私、ニーナ様からお聞きしましたのよ。直接。間違いなく、侍女の手が空いていない事も多く彼は仕事の合間に良くアルシノエ様の元へ行っていた。そうですわ。時には私の元へもいらっしゃいましたわ。」
リチェンツァもアルシノエに同調する。
「彼だけが他の候補者のもとへ行くのはおかしいではありませんか。」
「私の守役も同じように友人の元へ行っていたのですけれど?」
「だからといって抱きかかえられて部屋へと向かったのは事実ですわ。」
今度はナウサ国のクニグンデ王女が答えた。
「それも、足を痛めて動けなかったアルシノエ様をお助けしただけ。そのような言いがかりはおやめに。」
「噂によればギザーロという守役ミハリス殿がどんなに手を尽くしても難しい相手という話ですわ。」
「ですから、守役の出自についてはご自身で聞くしかありませんし。」
「うるさいわ!!」
アンゲラが声を荒げたのでアルシノエ達は離れていった。
「さすが、コーミラ家の娘。気性の荒さと自己都合の良いように事実をねじ曲げる天才ですわ。」
「1つめの課題で3姉妹とも落ちるという話だったのに父君がねじ込んだともっぱらの噂ですわ。」
「最終課題で落ちるのでは。あれでは王様の妻には難しいと。」
「しぃ。その話は後で。」
長老会の代表が玉座の前に出て、候補者達に告げる。
「こほん、次の課題は面接です。内容等はそれぞれ違いますし今回はどなたから面接をはじめるかは非公開とさせていただきます。それと、茶会はすべての方がホスト役を勤め上げましたし、守役はもう必要ございませんので守役は外れていただきます。」
長老会からの提案と言うより決定を候補者達はとりあえず拍手で承認した。
その発表が終わると解散となったがしばらく候補者達が話をしている。
「そう、私の時にも王様は手助けしてくださいましたの。」
「クニグンデ様も?」
「あら。リチェンツァ様も?」
「やはり、王様は平等に扱うと言うことですわね。」
ほら見なさいとアンゲラに話を振る。
「でも。私のお願いは・・・希望とは違ったのです。」
「内容はそれぞれですわ。その方に合わせた手助けをされただけのこと。」
「もう、その話は無しはよしません?」
「どなたもが特別と言うこと。それは間違いありませんわね。」
リチェンツァが締めてこの話題は終わり、守役の男性陣に変わった。
「守役の方、美丈夫な方が多かったわね。」
「だからでしょうか、自主辞退される方が前回よりも多かったそうですわ。」
「一種若い男女の出会いの場になるような制度となっているのも影響したのではと推測されますね。」
残ったのは、バーニア王国のリチェンツァ王女、ミューイ王国の公爵の娘アンゲラ・コーミラ、伯爵の娘アルシノエ・ワーリンガ、同じく伯爵の娘マデリネ・ジェリエン、子爵の娘ヴァシア・パレー、同じく子爵の娘ネフェリィ・ダワ、ミューイ国から少し南の国ナウサ王国のグリフィナ王女とクニグンデ王女姉妹、西のタオエ皇国のデシレア皇女の9人である。
しばらくして候補者は部屋へと戻っていった。
アルシノエが帰ってきたとき、ドアの前に3人の守役が横並びになって待っていた。
「長老会の方からの話があったように原則私たちはこれで守役としての勤めを終えます。今までありがとうございました。楽しゅうございましたわ。」
「よく、ここまで合格されました。」
「また、あえたらいいですね。」
ナーリィスがいつもとは違ったまじめなで守役がはずれた意味と励ましの言葉を口にした。
「課題中の接触は厳禁なのですわ。これも公正を期すため。焦らずにしっかりと受け答えをすれば、アルシノエ様なら大丈夫です。」
「我々は本来の持ち場に戻るだけです。二度と会えないというわけではありません。」
なぜか、アルシノエに向けての話ではなさそうなことをフェノロサは言う。
マイギーは落ち着いて臨んでくださいとだけ。
3人の守役は静かにアルシノエ達を残し本来の持ち場へと戻っていった。
守役がいない部屋は静かで寂しくあった。
翌日からアルシノエは毎日自分の面接が有るまで1日1枚何を聞かれても良いように聞かれそうな質問と答えを書いていた。
ふと、昨日のアンゲラの一言がアルシノエに重くのしかかってきた。
「私、何をしに来たのでしょう。」
嫌みを言われて泣いて辞退届を出すため?アーノルドに対価と言われた事はきっかけに過ぎず自らの石で王妃選びに参加した。
たとえ、国王がどのような人物であるのか知らなくても、それを受けたのはアルシノエ自身だ。
ギザーロに対して恋心を抱いてもミハリスとの関係性がつかめなければ交渉など出来るはずがない。
それは、仮にもマイギーやフェノロサに関しても同じ事。
ここで、整理をしておくと、ミハリスは志願兵として出征をしていた。
王宮に勤める守役達についてミハリスがどのようなつてを持って話を付けるのかアルシノエには考えつかない。
アンゲラの”ミハリス兄様がどんなに手を尽くしても難しい相手”とはどういう意味なのだろうか。
ここで、アルシノエが別件で疑問に思ったことがあった。
なぜ、アンゲラがアルシノエに対しての手紙の内容を知り得たのか。
検閲くらいはしているだろうとアルシノエも予測していた。
となると、長老会のメンバーの中にアンゲラへ情報を持ってきた人物がいるはずと考えるのが自然だ。
あの手紙はアルシノエ以外の人物が読んでいないのだから。
「そう、でした。」
アルシノエは決断した。
「ここまで来たのですから。最後まで課題を受け、結果が出てから辞退するなりは後で考えましょう。」
この日はいつになく寝付けなかった。




