12 結果通知
結果の一覧が来たのはおよそ3日後の午後のこと。
ちょうど茶会から帰ってきたとき守役のフェノロサから手渡された。
「結果が届いておりますよ。」
「ありがとう。」
「では、ごゆっくり。」
一覧には部屋番号が若い順に名前が並んでいる。
アルシノエの部屋番号は38。
一人一人名前を見ながら自分の名前があるかを確認していく。
「あ・・・あった!」
すぐ下にニーナ・リュコスの名前も見つけた。
侍女達に合格したと伝えると喜んでいるともう一枚紙が添えてあった。
結果の一覧の他に次の課題に対する話があるために明日の茶会を中止し合格者達は大広間に集められた。
長老会からねぎらいの言葉と手紙を部屋に届けているので、またこの場所でお会いしましょう。とだけだった。
拍子抜けしたアルシノエが部屋へと戻ってくると先に手紙を読んでいたアニタが気もそぞろながらお帰りなさいませと声をかけてくれた。
「お嬢様・・・次回は晩餐会とその後に行われる仮面舞踏会だそうですよ。2週間後に。」
アニタが渡した手紙を読んでいるとリューナン姉妹が守役、ナーリィスとアニタにあまりにも簡単な説明だったとつまらなそうに話している。
「晩餐会と仮面舞踏会なら何しても同じじゃない?」
「まあ、そうですね。マナーにさえ気をつけていれば楽しんでもよろしいかと。」
「衣装はクローゼットに入っているみたいですわ。」
早速確認する侍女姉妹二人。その衣装を見てため息が漏れる。
「ま・・・お嬢様に対してなんと。」
「これは、ひどいです!」
アルシノエもその衣装を見て驚いた。
「・・・趣味が悪いわね。」
「大悪女ガエナですか。」
大悪女ガエナとは伝承によると国王を色仕掛けで傾国させた妖艶な側室で新しく迎えた側室により失脚し後宮を追われたとされる。
または彼女の行いにより禁忌を犯したため王妃の命により処刑されたとも言われている。
今でも、彼女は後宮内で語ってはいけない人物である。
そんな彼女にふさわしいかなり露出のある黒いドレス、彼女が好んだとされる大輪のバラの鉢植えもしっかりと添えて。
当日、美しく咲いた薔薇の花を胸に飾るようにとのメモまで鉢植えにさしてあった。
そんな大悪女ガエナの衣装を丸い机に広げる。
どう見ても体格に合わない衣装。
これをはじめてきた人物の姿を想像するも、アルシノエを想定し対象とは言い難い代物だった。
「これ、入るかしら・・・??」
「衣装を詰めてもよろしいですよね?」
「良いんじゃない?終わったら元に戻せればいいから。」
「時間、間に合う?」
「やって見せましょう。」
マイアが闘志に燃える声で力強く答えてくれた。
これから暑くなってくるのでこの程度の露出なら逆に涼しいくらいではないかとアルシノエはほっとした。
さらに、クローゼットには見慣れない一つの箱があった。
いかにも派手な仮面が一つ丁寧に箱詰めされて棚に置かれていた。
「仮面も・・・それにふさわしいものがあるわね。」
晩餐会と仮面舞踏会の準備を始めてすぐ、来訪するものがいた。
「大悪女か。あちらも、ふっ。」
隣のリュコス家のご令嬢も1つめの試験に合格したのをアルシノエも確認している。
避難してきたギザーロが笑いながら入ってきた。
もちろん、アルシノエの衣装を見て笑っている。
「とげのある言葉だけれど?」
「ニーナ嬢には狼男だ。」
「女性に男の格好をさせるのですか?」
「仮装パーティーのようなものだからな。」
まだ笑い続けるギザーロに文句を言っているとまるで次兄とじゃれ合っているかのような錯覚を覚えた。
「そうそう、仮面舞踏会には大公様も観覧されるという噂がニーナ様の元へ届いているようだ。」
急な大公の出現情報というギザーロの話にアルシノエは本当だろうかと思っていた。
次回の課題、仮面舞踏会にあわせて大公も来るのだという。
何の理由かはわからないがとかくそつなく終えたいとアルシノエは気を引き締めた。
”大公が晩餐会、そして仮面舞踏会をしにやってくる”その噂はすぐに候補者達中に瞬く間に広がっていった。