公爵令息の独白
今回は成長したレオンハルト君視点です。
11歳くらいかな。
次はジェレミア殿下サイドです。
ーーーいつ頃からだろうか。
可愛かったはずの妹が、愛すべき対象である妹が、疎ましく、そして恐ろしくなったのは。
はじめは単なるやっかみ…嫉妬だった。
けれども1度狂い始めた歯車は戻らない。
父が愛し、母が愛し、周囲の人々全てが讃える妹が、心底恐ろしくなった。
ーーこの女は、僕から何をどれだけ奪う気なのだ。地位も、名声も、全てを僕から奪う気なのか…?
可愛い顔も、柔らかい笑みも、お兄さま、と呼ぶ声も…全てがおぞましく思えてしまう。
ーーーなぜだ!?なぜだ!?なぜ僕はこうも上手くいかない!?
ああ、そうか。
『全てあの女のせいなんだ』
妹は気付いているのかもしれない。
突然の兄の豹変に。
だけれど、あの女の行動全てが、僕の居場所を奪っていく。僕にかけられる愛情を、関心を、奪っていく。
そんな時だった。
『君がレオンハルト・エル・アスリーヌ?』
第1王子殿下と出会ったのは。
穏やかな瞳に穏やかな物腰。
柔らかな微笑みに僕は直ぐに心を奪われた。
ーーーこの方に、お仕えしたい。
僕が一生涯、持てる全てを捧げたい。
そう思った。
「王子殿下。」
「ジェレミア、だろう?」
にこりと微笑んで否定される。
彼は、僕が王子殿下と呼ぶことを望まず、ジェレミアと呼ぶことを望んだ。
だけど、慣れない。
名前で呼び合うような同年代の友人などいなかったからだ。
「ジェレミア…様。」
「…よく出来ました。レオン。」
緩やかに細められる緑の瞳が好きだ。
僕をいたわり、褒めてくれるその手が好き。
美しい金の髪も。
全部が美しくて、大好きなジェレミア殿下。
この人だけは、妹に取られたくなかった。