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25.ぷろろーぐ

25.ぷろろーぐ


 オレは女が苦手だ。その原因は、間違いなく姉の鈴菜だと思う。

 どうやら最近、鈴には好きな男ができたらしい。その男は、苦手なのか体質なのか知らないが、タマゴが食べられないそうだ。そのせいで、オレはすっごく迷惑している。時間があると鈴は、タマゴを使わないお菓子を作る、などというムボーな挑戦をしているからだ。いくらオレが甘い物に目がないとはいえ、ぺったんこでぱすぱすな甘いだけの物体を頻繁に食わされる羽目に陥ってみろ。思考も嗜好もおかしくなって当たり前だと思わないか?(上手いこと言うだろう?!『嗜好』って単語は最近覚えたんだ。好みって意味なんだぜ?!)

 だが、今日は久々に被害にあわずに済みそうだ。なぜって、父さんと母さんのお友達のゆうきさんとまみこさんの家に遊びに行くことになったから。

 ゆうきさんとまみこさんの家に行って初めて、二人に女の子供がいるって聞いた。オレのひとつ下らしい。

「人見知りするから隠れているかもしれない。」

 そう、ゆうきさんは言った。

 そこで、賢いオレは閃いた。鈴に言う。

「鈴!どっちが先にその子を見つけられるか、競争しようぜ?鈴が勝ったらオレの分のおやつをやる!だけど、オレが勝ったら、もう鈴の失敗作は食わない!どうだ?」

「負けないわよ!?!」

 鈴もその気になったらしい。二人で同時に、反対方向に駆けだした。

 暫く走りながら、次々と部屋を覗いていたが、どこにも女の子は見あたらない。鈴におやつを取られるのも、これからもあのマズい菓子を食わされるのもいやだ。と思いながら角を曲がると、急に良い匂いがした。バターの焦げるような香ばしい匂い。

 匂いを追って戸を開けると、そこは台所だった。そして、真ん中にあったテーブルの上にカップケーキらしき物が五つ置かれている。そばにあった椅子に女の子が座っていた。急に入ってきたオレに驚いて上げた顔は、涙でびしょびしょだった。

「……何、泣いてんの?」

 恐る恐る聞くと、女の子はおずおずと言った感じで話し出した。声が何だかとっても可愛い。

「………お客さまがいらっしゃるって聞いて、お菓子を作ろうと思ったの。お母様もいつも作ってるから………。」

「うん。」

「でも、こげちゃった………。」

 五つのカップケーキは、確かに膨らんだ一番てっぺんが黒くなってる。まるで、チビた鉛筆のように。でも、タマゴ無しのせいかふくらまず、焼き方が足りないとカン違いして、竹炭のように真っ黒になるまで焼き尽くされた、鈴作のお菓子に比べると、全然!全く!さっぱり!ちっとも!失敗作とは思えない。

それにオレは、走り回っていたせいで、正直お腹もすいていた。女の子に言う。

「お客様のためってことはオレのために作ったってことだよな?オレがお客様だから。」

 女の子は小さく頷いた。

「………うん。」

「じゃあ、オレ、食べるぞ。」

「えっ?……だって、こげてるのに………。しっぱいしたのに………。」

 女の子が涙をいっぱい溜めた大きな瞳で見るから、オレはちょっとカッコつけて言った。泣いててかわいそうだったし、お菓子もほしかったし。

「少しこげたくらい何ともないだろう?!」

 女の子の返事を待たずに、ぱくりっとかぶりつくと、バターのいい匂いと、あまいんだけどあますぎないおいしい味が口の中に広がった。

 女の子が心配そうに見ている。

「だいじょうぶ。おいしいよ。」

「ウソ……。こげてるのに………。」

「でも、お前の気持ちがこもってるから、本当においしい。」

 オレの知りもしない男のために作られた、食べる物とは思えない鈴の失敗作と比べると、マジ美味かった。

「ほんと………?」

「本当。」

「……良かった………。」

 女の子が嬉しそうに笑うから、そしてその顔がすっごく可愛かったから、オレは何だかドキドキしてきた。だけど、男は常に女に対して主導権をにぎっていなきゃならないんだ。そのドキドキをかくして女の子に言った。

「オレは甘い物大好きだから、お前がもっともっといろんなお菓子を作れるようになったら、オレのお嫁さんにしてやっても良いぜ?!」

 女の子は最初、大きな瞳をまんまるにしたが、その後すぐにまた、嬉しそうに笑った。

「うん!」

 やっぱり女の子というのは、お嫁さんにあこがれるらしい。

 オレはまたドキドキしつつ、この可愛い笑顔を見ながら美味しい手作りのお菓子を食べられる日が来るのを楽しみに思った。


完結です。ありがとうございました。

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