1・平民の魔法持ちは『訳あり』と呼ばれる
全8話で終了します。
よろしくお願いします。
魔力があるのは、貴族だけ。
それ以外の魔力もちは『訳あり』と呼ばれる。それがこの世界の常識である。
そういう私は平民で魔力持ち。そう『訳あり』である。
私の名前はアメリア。
私には生まれた時から、父がいなかった。ずっと食堂で働く母と、二人で生きてきた。
だが、そんな母に春が来て、お客さんの一人と結婚した。私にも優しくしてくれる、本当に優しいお義父さん。
だけど、私ももう9歳。空気は読める。もう少し大人になったら、どこかよその街にでも行って働こうかなとか思っていた。
10歳の子供が全員受ける、魔力検査なんてものがなければ。
「魔力ありですねー」
神殿の気力なし神官さんに言われて、私は『訳あり』であることが判明した。
「お母さん、私、魔力あったわ」
「まじかー、あったかー」
神殿の保護者席で母が、がっくりとうなだれている。
魔力持ちは、訓練しないと魔力が暴走する可能性がある。だから、コントロールする方法を学ぶために、専門の学園に行くしかないのだが、そこは貴族専門の魔法学園なのだ。
どうするんだよ、これ。
でも、そういう『訳あり』は世の中には多数おりまして……。
私と両親は神殿の別室に連れていかれて、親は誰だとか、まあいろいろありまして。
結論として、父親が判明した。母が白状したとも言う。
貴族のぼっちゃんだった。
母が若い頃になんか知らんけど、以下略、燃えた恋だったとか。でもあっさりうっちゃり捨てられて、遠く離れたこの街で親子仲良く暮らしていたんだと。
母の両親は王都で小さな食堂を営んでいるらしい。両親には悪くて、連絡は取っていないようだけど。
数日後、父親の関係者がうちにやってきた。神殿から連絡がいったらしい。
「どうも、アントン・バルディーニの兄の、マリユス・バルディーニです」
侯爵様だった。大物だった。
「どどど、どうも、すすすすすみません」
「お母さん、落ち着いて」
母にもお茶を渡す。貴族様も飲んでくれるとうれしいけど、と願いながらお茶をだした。侯爵様がカップから目線を上げて、私を見る。
「君が弟の娘だね」
「はい、アメリアといいます。はじめまして」
お盆を持ったまま、頭を下げた。
「うん、いただくよ」
侯爵様……私のおじさんは、平民が入れたお茶を飲んでくれた。優しい人だなと思った。
「こちらの事情を説明するとね。アントンはもういないんだ。というか、どこにいるのかも知らなくてね」
めっちゃ爽やかに、父の行方不明を知った。
「一応生きてはいるのですか?」
「さあ、それもね。何年か前に勘当して、それっきりなんだよね。隣国に渡ったとは聞いているけどねえ」
あ、これはそれ以上踏み込んではいけない領域だ。私は母と目で会話した。母も即座に頷いた。父よさらば。はい、解散。
「それで、アメリア。君はどうしたい?」
おじさんに聞かれて、私は正直に答えた。
「まだよくわかりませんが、魔力持ちは勉強しないといけないと聞きました。だからちゃんと学んで、それを生かして働きたいなあと思っています」
「それでいいの?」
「はい。なので、魔法を教えてくれるところを、紹介してもらえると助かります」
私の返事を聞いて数秒後、おじさんは爆笑した。控えていた使用人さんも口元を押さえていた。私、変なこと言った?
「ああ、ごめんね。君の答えがあまりにも可愛らしくて」
「そ、そうですか」
後で聞いた話だけど、その時おじさんは、私が貴族の娘と判明したので、いろいろ要求してくると思っていたらしい。お金とか身分とか。
平民の魔力持ち。それだけでいろんなモノが、すり寄ってくるというもの。
だけど、私が望んだのは親に会うことでも、貴族として生きることでもなく、ただ魔力の使い方を知り、就職に活かしたいということだけ。
その結果、私はおじさんの家に居候させてもらい、貴族の学園に通わせてもらえることになった。頑張って勉強すれば、お城で雇ってもらえるかもと言われて、テンション上がった。
実はおじさんに、こっそり言ったことがある。
「実は母が最近結婚したんです。母には幸せになってほしくて。だから私はここにはいないほうがいいと思っていて……」
「そんなこと思っていたのか!」
「げ、お義父さん聞いてたの」
「お前は俺の大事な娘だ!決まっているだろ!」
何か出そうになるくらいハグされて泣かれた。私は苦しくて泣いた。
おじさんは、
「大切な娘さんをお預かりします」
って言ってくれて、やっと私も感動的な意味で泣いた。
まあ、私がいなくなってすぐに、弟か妹が生まれるかもよって聞いたときに、感動は消えたが。感動返せや。
*****
そんなこんなで、王都のおじさんちにやってきた。
「ここが王都のタウンハウスだよ」
「領地はかなり遠いんですか?」
「そうだね、距離でいうと、君の家よりは少し近いがね」
おじさんとはそれなりに、会話を楽しめる関係にはなったとは思う。
そんな話をしながら馬車を降りて、タウンハウスを見た途端、私は固まった。
「ここここがタウンハウス……」
「なかなかいいだろ?」
なぜだろう。今まで晴れていたのに、ここだけ曇っている。というか、暗雲立ち込めている。
空耳なのか、雷の音とか、カラスの鳴き声もする。ドオオオオオオンとか聞こえる。
お屋敷が、黒い。屋根から壁まですべてが黒い。なんなら芝生も黒い。何これ、ゴーストハウス?
「さあ、お入り」
いやいやいや、ごめんください、さようなら。
心からダッシュで帰宅したかった。親に空気読めと言われても、高速で帰りたかった。
これが都会の貴族の趣味なのか……?
私が呆然としていたら、お屋敷から人が出てきた。
きれいな大人の女性と、私よりは年上の女の子が。おじさんの奥さんと娘さんかな。
そちらを見て、更に固まった。
髪型とかお化粧は、まあ普通だと思うのよ。でも、何その服の色は。
奥さまの服は、土というより泥色だった。茶色じゃないのよ。とにかく汚い色。
おじさんはグレーのスーツ姿だったから何も思わなかったけど。
「おかえりなさい、旦那様。こちらが例の?」
あ、いかん、現実逃避してしまった。奥さまの声で我に返った。
「あ、あの、今日からこちらでお世話になります、アメリアです。よろしくお願いします」
がばっと勢いよくお辞儀した。礼儀作法もあとでよしなに。
「よろしくね」
とかわいい声がする。恐る恐る顔を上げると、娘さんが笑っていた。
でも服は金色。ゴージャスな金色。なんなら背中に羽も生えている。
どうしよう、私都会のセンスについていけない。
とりあえず、笑ってごまかすしかなかった。




