サイドストーリー 秋風の宝物
「余三郎と遊んだ日々にはこんな木はなかったものなのだがね…」
イナリは高い高い棕櫚の木を見上げていた。
ボサボサの樹皮に手を当てる。
間違いなくそこに脈打つ生命。
「少々失敬。」
イナリはそう言うと丁寧に棕櫚の樹皮を剥がしていく。
「こんなものか。痛めつけてすまなかったね。」
そう言って樹皮を撫でるとその場を後にした。
すやすやと眠る紅葉とヨイチを見ながら音もなく棕櫚の糸を紡いでいく。
そして、小さな網を拵えるとその中に紅葉から貰ったビー玉を入れる。
そして小さな声で呟いた。
「紅葉山稲荷大明神の御霊の欠片として命ず。開け。彼岸への扉」
すると虚空に小さな黒い穴が現れた。
イナリの体が吸い込まれてゆき、穴は閉じた。
一方、彼岸。
竹やぶの奥に藁でできた小さな塒。
大狸のふわふわとした尻尾に包まれて眠る平太の耳に微かに届いたカサリ、という音。
平太は眠たい目を擦りながら、
「なんだい…?こんな夜半に…」
とぶつくさ言いながら塒から顔を出す。
そこには棕櫚で編まれた網に入った赤いビー玉が置かれていた。
「なんだこれ…キラキラしてら!」
寝ぼけ眼がたちまちに色を帯びる。
まず匂いを嗅いでみる。甘いような懐かしいような香り。
ふと、塒に貼りつけられた大きな柏の葉に残された書き付けに気づいた。
「気遣い痛み入る。これは私の神使見習いからの贈り物だ。飾るなり遊ぶなり好きにすれば良い。イナリ」
筆で書かれたその文字に見入っていたが⸺平太は首をかしげ、
「い…み…る…?母ちゃーん!!イナリの旦那が来たよう!でもこれ読めねえや!!」と柏の葉をひったくって塒へと戻っていった。
その手の中には小さなビー玉が月の光に照らされてキラキラ、キラキラと輝いていた。
寝不足続きで長編が書けずすみません。サイドストーリーとしてお茶請けにでもなれば幸いです。




