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善と悪

「……で、どうすんの?」


 食堂での食事を終えたあと、俺たちはこの民宿に一泊してみることにした。

 空いている部屋の数はあまり多くないらしく、仕方なく二階の一部屋に四人で集まっていた。

 ちなみに俺たちがこの宿に泊まる前に少しだけ報告しに来たのだが、リラとジェイドは、別の宿に泊まっているらしい。


 現在。ベッドに座り、唸っている。

 理由はもちろん、プラム・ライラックのことだ。


 リラからは、どうにかして接近して隙を作れと言われた。

 更に、できれば弱点などがあればそれも見つけてほしいと頼まれたのだが、肝心の方法が何も浮かばない。


 あくまで、俺たちは客の一人でしかないわけで。

 共通点は――この世界に連れて来られた召喚主(マスター)であることだけ、か。


 仕方ない。

 いつまでも部屋で唸っていてもどうにもならないし、とにかく少しでも関わっておかなければ。


「ちょっと行ってくる」


 みんなにそれだけを告げ、また一階の食堂へ向かう。

 また盛大に転び、怒られているところだった。


「プラム、あんたはちょっと買い出しに行ってきな。その間あたしがやっとくから」


「は、はぁい……行ってきまぁす」


 受付の女性に頼まれ、プラムは店から出ていく。

 これは……少しチャンスかもしれない。

 そうすぐに判断し、俺も店を出てプラムを追いかけた。




「な、なあ、ちょっと待ってくれ」


 買い出しに向かうプラムの背中に、慌てて呼び止める。

 敬語にしたほうがいいかとも思ったが、一応年齢はそれほど離れていないだろうし、今は店の人としてではなく召喚主(マスター)としての個人的な話をしたいため、敬語だと逆に相応しくないような気もした。


「はぁい……? あれ、あなたは……」


「グレイ・オーカーだ」


「お店に泊まりに来てくれた方ですよねっ? ありがとうございますー、私はプラム・ライラックです」


 お互いに名乗り合い、プラムはぺこりと頭を下げる。

 こうやって言葉を交わしてみても思うが、やっぱりどうしても人を殺すような子には見えない。


 これでも本性を隠しているというのなら分からないけど、本当にリラの言うような子なのだろうか。

 それも、見極めてみなければ。


「敬語じゃなくてもいいよ。俺はただ、個人的な話をしに来ただけだから」


「そ、そうです……あっ、そうなの? 個人的な話ってもしかして……わ、私に告白……!?」


「ち、違うっ! そうじゃなくて――」


「あの、ごめんなさぁい! 私、その、会ったばかりの人とそういうことするほど緩くないのでぇっ!」


「いきなり何言ってんの!? 何で告白してすらないのにフラレたの俺!?」


 ただドジなだけでなく、思い込みも少し激しいのだろうか。

 予想外な勘違いをされてしまって、少し顔が熱くなってしまったじゃないか。


「そうじゃなくて……その痣。プラムも、召喚主なんだろ?」


 プラムの左手首――正確には、その痣を指差しながら言う。

 瞬間、プラムは驚いたように左手首を手で覆い隠し、一歩だけ退いた。


「な、何でそれをっ? ちが……ほら、近くに召喚隷(スレイヴ)とかもいないからぁっ!」


召喚隷(スレイヴ)ってことは、やっぱりそうなんだな」


「……あっ」


 自分の失言に気づき、慌てて口に手を当てるが、もう遅い。

 左手首の独特な痣だけでも断言できるくらいだが、召喚隷(スレイヴ)という用語を知っているとなるともう嘘を貫き通すのは不可能だろう。

 ドジだし、もしやと思っていたけど……嘘をつくのも苦手なようだ。


「安心してくれ、俺も召喚主(マスター)だ」


「わっ、ほんとだぁ!」


 自分の右手の甲にある痣を見せながら言うと、プラムがじっとそこを見つめてきた。

 あくまで手の甲だから別にいいが、そんなに見られるとちょっと恥ずかしい。


「でも、そんな人が私に何の用……? もしかして、私の命を狙いに来たのぉ……?」


「えっ? いや、そんなことするわけないだろ。ただ、他の召喚主(マスター)と仲良くなりたかっただけだ」


「なんだぁ……そっかぁ! もちろん大歓迎だよぉー!」


 弱点を探っていることなどは伏せ、あくまで好意的に対応する。

 騙しているみたいで罪悪感が凄まじいけど……俺が探っているのは弱点や隙だけではない。

 こんなにいい子が、本当に人を殺すのか。その真偽を、どうしても確かめたくなった。


 いや。本当は、こんな子が本性を隠して人を殺しているだなんて、信じたくないのだ。

 だから、どうしても知りたい。

 もし真ならば、その理由と心情を。

 もし偽ならば、その黒幕と真実を。


 何かの間違いだったっていうのが、一番つまらなくて一番理想的なオチなのにな……なんてことを思いながらも。

 何とか俺は、標的への接近には成功したのだった。


 悪い、プラム。

 お前を信じるためにも、疑わせてくれ。あと少し、探らせてくれ。


「そういえば、プラムの召喚隷(スレイヴ)ってのは本当にどこにいるんだ?」


「私の? さっきからいたよぉ? 店の中に」


「店の、中に……?」


 記憶を手繰り寄せてみるも、それらしき人は全く思い当たる節がない。

 とはいえ、召喚隷(スレイヴ)も見た目は他の人間と大差はない。見ただけでは分からなくても無理はないのかもしれない。


「それじゃ、店に戻ってみよっかぁ! グレイくんに紹介するよぉ!」


「あ、ありがとう……」


 そういうことで踵を返し、再び店に戻った。

 店に入るや否やプラムは厨房に入っていき、一人の男性と何やら会話を始めた。

 そして、腕を引いてこちらへ歩み寄ってきた。


 その男性は間違いない。

 初めてこの店を訪れたときも見た、受付の後ろで調理をしていたダンディな男性だったのである。


「この人が、私の召喚隷(スレイヴ)で――ダン・グラムスだよぉ! ちなみにURなんだぁ」


「君がグレイ君か。僕がダンだ、よろしく頼む」


 そう名乗り、ダンは大人の余裕を感じさせる笑みを浮かべた。

 何というか、初めて見たときも思ったが、とてもかっこいい大人の人だ。こういう年の取り方をしたいとすら思える。


 URということは、上から二番目ということになる。

 正直、プラムはあまり強そうには見えなかったけど、ダンのほうは逆にかなり強そうだ。


 それにしても、召喚隷(スレイヴ)に店の料理を作らせていたとは。

 まあ、俺も毎日ユーにご飯を作らせているわけだから他人のことは言えないか。


「グレイくんの召喚隷(スレイヴ)は、さっきの女の子たちだよねぇ? よかったら、もっと仲良くなりたいなぁ」


「ああ、もちろんだ。あいつらもきっと喜ぶよ」


 こうして。

 近づいた本当の理由を隠したまま、プラムと友達になれたのだった。

 こんな隠し事をしている状態で、本当に友達と呼べるのか……無意識に浮かんできた疑問を、そっと掻き消して。


 プラムが善なのか悪なのか。

 本当に悪だった場合、俺は……。


 俺は――。

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