第37話「失ったもの、託されたもの」:A5
テュポーンズの移動拠点を兼ねる戦艦型エイグ・エキドナ。
その格納庫で静かに立ちそびえメンテナンスを受ける、赤い機体と対照的な青い推進器を背負うルーフェン。
搭乗者のシオンは、コアの中で身を丸めていた。
いつその時が来てもいいようにと。
その時というのは、むろん、シャウティアの出現。
ファイド・クラウドに力を与えられた影響で、シオンの感覚は鋭くなっていた。
シャウティアに関しては、稼働していれば傍にいなくとも感じ取れるのが当たり前になっている。
理屈はさっぱりわからない。ファイドが特別だというだけで片付けている。
そんな特別な人間から力を与えられた自分もまた、特別である。
それを嘘にしないために、シオンは戦っていた。
黒龍と黒いシャウティアの邪魔さえなければ、この間の戦闘で終わらせることができた筈。
だから、ハッキリ言って消化試合だ。
シャウティアの搭乗者――イナが何をしようが、覆るはずがない。
シャウティアを制した戦いの先に平和がある。
シオンが憧れたチカも、馬鹿な思想の集団から奪い返すことができる。
自分はテロ組織を瓦解に追い込んだ英雄として名を残す。
家族にも周囲の人間にも、胸を張って生きていける。
自分にしかないものを得ることができる。
父と比べて不出来などと感じる必要も、そう言われることもなくなる。
矮小な欲望が原点にある、そんな自覚くらいはあった。
だが今更引き返せはしないし、その意味もない。
自分がやらねば、誰にできるというのか。
国連を率いるファイドに負担が集中してしまうことになる。
(……俺が、全部、やる)
次で自分が壊れてしまってもいい。
これ以上、世界が変な方へ向かわないように。
今のままでいいのだ。
目まぐるしく変化を続ける世界に、人々は耐えられない。
そのための人柱だというなら、なってもいい。
なっても、いい。
なっても――
「――――ッ!」
決意新たにすべく思考の海へ沈もうかと思った矢先。
矢で射貫かれたような鋭さが、脳裏に走った。
この不快で唐突な感覚に間違いはない。
(紅蓮……イナ・ミヅキ……ッ!!)
怒りと憎しみが、不自然なまでにふつふつと湧き上がってくる。
それらに突き動かされるまま、シオンはルーフェンを起動させる。
優秀な整備員のおかげで、ルーフェンの状態は万全。推進器・蒼穹も同様だ。
『シオン君』
すぐにでも出ようといきり立っていたところに、脳内へファイド・クラウドの声が響く。
『念のためだ、カラミティを一挺持って行くといい』
(……了解しました)
時を止める力があれば十分だと思ったが、カラミティ――光線銃がシャウティアの弱点を突けることに、依然として変わりはない。
巨大な重機のようなトレーラーで運ばれてきたそれを手に持ち、開放されたハッチの方へと向かう。
雲の上、宵闇の中で光る月に照らされる中。
レーダーにも頼らず、シオンは音を置き去りに、宿敵の待つ場所へと向かった。
自分が都合よく操られているなど、知る由もないまま。




