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61話目 かわいい小屋で 右子side

「しいっっ」


用務員小屋の中で、突然、保くんが私に覆いかぶさった。


何が起きたか分からず、ようやく縄が外れた私は手足をバタつかせた。


「やばい·······あいつが来た!!」


保くんは顔が真っ青だ。こんな保くんはレアだ。

な、何が来たというのか。


ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンッ!


用務員のログハウス小屋が大きく揺れる。


「家が揺れている·······あわわっ!地震だわ!」


私もさっと顔を青くする。


「こっちへ!」


机の下へ避難する!

ソファーの前のローテーブルの下に潜り込んだ。

前世とこの対応は変わらない。

保くんはついでにその辺の(むしろ)を私に素早く掛けてくれる。

そして、狭く低いローテーブルから一人出た。


「?」


これって、土が付いてるけど?園芸用の冬に木に巻くやつじゃない?ムッとして保くんに抗議するところ、


「右子、嵐が去るまで、一言も発するなよ·····」


嵐?地震でしょ········


私は眉間にシワをよせる。

が、あまりに真剣に見つめられて、何も言えなくなる。

いや、保くんもテーブルに入ったほうがいいわよ?

まだきっと余震が来る。



ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ


「お義兄様ぁ~~!ここを開けてくださいませ〜〜〜〜!!」


金切り声とでも言うのだろうか、高い女性の声が部屋中に響いて、ドアがぐわぁと揺れた。

ようやく、先ほどのはドアのノックだったと分かる。


じ、地震じゃない。人震だ!


そして今は鍵を、ガチャガチャしている。

その振動で、まだ小屋は揺れる。


「ひぃっっ!!!」


怖い!

思わず声が漏れる。

鍵はかかっているようで、命を繋いでホッとする。


バキバキバキバキィッ!メリィィッ!


「あ······」


私は(むしろ)を急いで被った。

な•ナンマイダブ•••••••


鍵は引き千切られ、

実に簡単に命の扉は開いたのだった。



「おにいさまぁ~〜ハァハァ、もうお昼ですのよ?」


「あ、ああ!?も、もうそんな時間か」


見ると、包帯姿の右子だった。

息が上がっている。

えっっ!?彼女一人?一人でこれだけの人震を起こしたっていうの!?


後方には8人の近衛騎士たちが控えている。槇田くんもいる。

うーん、彼らも手伝って揺らしたとすれば、物理的には自然だけれど、心情的には不自然よね。

いい大人が寄ってたかって小屋を揺らすかしら?


「お義兄様?お一人でしたの?」


「もちろんさ」


「ほんとう〜?何だか女性のか細い悲鳴が聞こえたような····」


「俺を疑うのかい?」


保くんはキラキラ微笑している。


「だってぇ、私の侍女がこの用務員小屋は怪しいと申すのです。誰か女性との逢引に使うんじゃないかって」


「ん?何その下品な発想は?その侍女クビにするよ?」


もっと後方でヒィィッと数名の女性の悲鳴がする。


どうやらこれは、徳川公爵家の会話のようだ、とピンとくる。

そうだったわ。保くんは穂波家、つまり徳川公爵家(『徳川』は屋号で名字ではない)の嫡男として養子に入ったと聞いている。

穂波家には直系の娘が一人いて、つまり保くんの義理の妹ということになる。


もしかしてこの娘、·······その義妹っぽいわね。

右子の替え玉には、内情を明かしやすい身内がちょうど良かったということかもしれない。


「でもでも、この小屋、用務員小屋にしては、屋根は赤いし、ほらっ、中もカントリー調でかわいいんだもの〜お義兄様の趣味とはぜんぜん思えないわ!」


保くんは大袈裟にため息をつく。


「屋根が赤いからって何だっていうの、ほら昼食を摂るんでしょ。時間無くなるから行くよ」


保くんはチラッと(むしろ)の私の方を見て、舌打ちでもしそうな恐ろしい表情をしたと思ったら、そのまま行ってしまった。

仲良く義妹と腕を組んで!


私は危険が去ったのを充分に確認してから、ローテーブルからそろそろ這い出た。



「······なぁに、アレ!義兄妹で仲良すぎ、気持ち悪ーい!」


私は悪態をつきつつ、(むしろ)を取って土を払う。

制服はボロボロで土も被って白っぽいし、

もう散々だわ········


私は身体を震わせた。


読んでいただきありがとうございます!

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