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60話目 捕縛のお縄 右子side

私はドアに耳をつけて、外へ聞き耳を立てた。


校内はまだ授業中なので静か、かもしれなかった。なにせこの場所は校舎からすごく離れている。多少騒いだところで誰も気がついてくれないだろう。


ふと。外に人の気配がしたような気がした。


「誰かいるの?」


「·······················」


答えないから誰もいないのか。


「··········」


静かだわ


ちゃんと自分でお茶を淹れるとしますか。そんなに上手ではないけれどね?

たまに自分で淹れてるから回数は多いけれど、まあ飲めるかなってレベルで美味しくは淹れられない。自分の分だけで人に淹れたことがないからかしらね。


さっきは麦本くんたちはしっかり紅茶を飲んでいたから、私のカップにだけ何か薬を入れたのだと思う。

だから元々の水や茶葉は大丈夫だろう。


「あっ」


バカだった。起き上がろうとした時に、私はロープでぐるぐる巻なのにようやく気づいたのだった。


これでは何も出来ないではないか········

くそう、麦本くんたちめ·······


不慣れですぐ解けそうと思っていたけれど、あっちこっちと絡まって、藻掻くほど不規則な結び目が固くなってくる気がする。


ずってんっばったんっばったんっ


しばらく気が狂ったように暴れてみたけど無駄だった。

諦めの敗色が濃厚になってきた。


はあ······もう·······寝そう···········



ぼんやりしていると、部屋の中に人の気配がする。


えっ?鍵の音したっけ?

ドアの音もしなかったような?


最早とても眠いので、床に転がっていた私は胡乱な顔を上げる。


「········睡眠薬も飲んでないのに、自分から寝ちゃうって、どんだけバカなの」


この上なく情無さそうな顔をした男が立っていた。


「えっと、どちら様··········?」


格好から用務員さんだと分かるが、非常に若すぎるような。私を知っている風なのも解せない。


栗毛の男は大仰に溜息をついた。

そして、いきなり私の頭を掴んだ!!!


「アイタタタたたぁ!」


私は涙目になって抵抗する。

目が覚めた。


「あっっ·········」


思い出した。

保くんの記憶の施術はやっぱり痛いんだよね。


「やっぱり右子って俺のこと忘れちゃうんだよね〜

薬、持ってる?」


私は懐に入っている葵の御紋の印籠を思い出して頭をコクコクする。

そしてもじもじする。


「あの、縄、解いてくれる?」


「うわ、凄いいい眺め」


私の身体に食い込んだ縄は、あちこち締め付けてきて、薄い制服はぐしゃぐしゃで体型が露わになってしまっている。

なんかのエロゲーにでも出てきそうな、

私は今世紀最大に恥ずかしい姿だと自覚する。


保くんは全く動じず私をまじまじ眺めていたが、ふいに私を抱き上げてソファーにそのまま座らせた。


「えっっ!?」


あれっこのままなの!?


「解くわけないよね。捕まった自覚無いの?」


驚くべきことに、私を捕らえたのはこの保くんだというのだ。

用務員になりすましてここで働く保くんは、私を捉えようと虎視眈々と狙っていたらしい。

そして麦本くんたちを抱き込んで指示していたのだという。

彼らは保くんが養子に入った徳川公爵家(名字は穂波)の系列の子爵家や男爵の子息で何でも言う事を聞くらしい。


うっ裏切り、でもないか。私は帝居からの逃亡者だもんね。保くんには私が裏切り者よね。

いや、麦本くんには裏切られたわ〜悔しいっ


「なるほど、なるほど」


「何に納得してるの?で?大人しく右子に戻るの?」


「いや、それはちょっと·········」


「いいよ。じゃあここから一生出してやれないけど」


はあ!?


「ここで俺が一生飼ってあげるよ?ミーシャさん?」


今世紀最大に背筋が凍ってしまった。

今日はこれが多いな。


「ああ、用務員の嫁も悪くないんじゃない?平民好きならちょうどいいでしょ」


話が飛躍していく········

嫁はともかく、ここに一生監禁されるのは、この鬼畜ならやりかねない!

と私の本能が騒然となっている。


「ちっ違うのよ。わっ私はそりゃ平民にはなりたいけど、他にもやりたいことがあって」


「へえ?初耳」


保くんは少し興味引かれたような顔をする。


「私さ、前世の話はしてなかったと思うけど、でも何となく保くんなら知ってるよね?」


「······そりゃ、ね。俺は記憶を読めるからね。でもあの世界は········」


「私、この世界を変えたいの。この世界をあの世界に近づけたいのよ」


「ふーん、あの世界が素晴らしいから?」


「ううん。あの世界が素晴らしいなんて思ってないよ。でも、身分制度がなくて皆が平等だったり、科学が発達してて便利だったり、戦争を無くそうとしてたり、少なくとも皆が『正しい』と思う共通意識が何となく存在していて、皆で守ろうとしているの」


「ふーん、確かにこの世界では、そんな考え方しないね」


「まあ、日本という特定の国の話だけどね、違うことも沢山あったけど·····比較すると、良い環境だったなって」


「右子の世界はこの世界より単に時代が進んでいたのかもね。

まあ、そんな世界にいたらこんな国嫌になっちゃうかもね」


「い、いや」


「この世界は野蛮だ」


保くん?何でだろう、何でそんなに否定するんだろう。

私は自分を棚に上げて保くんを不思議に見つめる。


「で?右子はそんなこの世界でどうしたいの?

このまま平民?もしかして、何か世の中を変えたいなら権力のある帝女の方が良くない?」


保くんが私の言おうとしている事を理解しているようで、いつもながら本当に不思議だ。


世の中を、変えたいなんて、

そんな、ビッグなこと、言いました?


私は恥しくなった考えを消すように頭を振る。


「ううん。帝女は窮屈で何もできない!

まずは平民になって足がかりを作りたいの!」


保くんは大袈裟に肩をすくめて言う。


「平民に何ができるのさ

··············右子の世界はワンダーランドだね」


気づくと、

そう言いながら保くんは私の縄を解き始めていたのだった。


読んでいただきありがとうございます!

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