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59話目 飲めない紅茶 右子side

私はA組を窓の外からこっそり覗いている。


「おいっ!行くぞっ······ったく、お前が面白い所へ連れて行けと言うのに!動かなくなっちまった!」


「しぃっ、ごめんなさい、静かにしてくれます?」


私は人差し指を口に当てる。


あれから私達を追いかけてきた麦本くんの二人の友達と合流して、麦本くんの案内で皆で校庭を歩いている。

そこにA組の教室のある校舎の前を通りかかったら、気になってしまうというもの。

A組は他とは違う舎の1階にあって、さすがに教室は広く庭へ続くテラスもあり、おまけに控室も数部屋用意されてるというから驚きだ。


やっぱり気になるのだ。私の名を語る者がどんな人か。

だけどいないみたい?包帯姿なんて目立つだろうし。


もしかして、教室の真ん中に空席があるからあそこに座っていたのかもしれない。


その隣に座っているアイン王子と目が合う。

彼はにこっと笑って気さくに手を振ってくれた。

窓から不審者のように覗いていても驚きもせずにあの返し。

さすが、王族とはかくありたい。


「え!手を振った!?

お前、王子と知り合いか?」


「えっと、そういうわけでは·····」


知り合いって言っていいのかな?一介の平民と知り合いなんて、王子が馬鹿にされるかもしれない。


「猫も杓子も王子ってだけで騒ぎやがって。うちのB組女子も隣国の王子が入学してきたって色めきたっちゃってるしな。

しかも、あれはいかにも王子様の優男って感じだし?

お前、勘違いするなよ。あれはお前がちょっとかわいいと思って手を振ってくれただけだろ」


私を褒めてるようにしか聞こえない。

アイン王子と私が一緒にお昼を食べていると知ったらどういう反応をするかしら。敦人(シウ)がわざわざ連れてくるからだけど。

確かに一度食堂で食べた時は、食堂が生徒でいっぱいになって大変だったから、今はアイン王子の侍従さんに用意してもらった別室で昼食をとるようにしている。

さすが大人気なのね、アイン王子は······


今度は敦人を見ると、真面目に授業を受けてるようで安心する。私とお揃いの伊達メガネが似合っていてとても賢そうだ。真剣な顔に高貴な雰囲気が滲み出てしまっているわね··········

こちらもこの国の帝子なんですけどね。

私はクスッと笑う。


目的は果たせなかったけれど、お目当ての『右子様』はいなかったから仕方ない。

敦人の授業風景も堪能したし満足だわ。

私達は再び目的地へ向かった。


麦本くんは私に全く校内案内するつもりは無いらしく、校庭を通ってひたすら先へ向かっている。


広い校内にはちゃんとした庭園がある。

花壇は冬なので閑散としているとはいえ、パンジーやビオラが色とりどり植えてあり華やかな箇所もある。

その花々を観て目を楽しませていると、


「おい、早く!」


急かす声が聞こえる。

どこか緊張しているような声色は、目的地へ着いたからだろうか。


見ると、可愛らしいログハウス風の赤い屋根の小屋が見える。


「ここだ。入れよ」


入ると、麦本くんは電気をつけた。ここにもちゃんと電線を引き込んでいるようだ。

見れば内装もカントリー調でとても可愛らしい。

と思えば、赤いコーンや、拡声器のような器具が雑然と置いてある一角もある。園芸で使うようなスコップや土の袋はきちんと棚に整然と置いてあった。


「ここは··········用務員の方のお部屋かしら?」


一角にはコンロと水道が設置してありソファーとローテーブルやストーブなどもある。お茶や軽食などとったり休憩することができそうだ。

ここの用務員さんは趣味がよさそうだわね。

おそらく資材や道具置き場を改造したのだろう。居心地の良い空間だった。


「ここ、勝手に入って良かったのかしら?」


「ああ、ここの用務員とは知り合いなんだ」


麦本くんの友達がその一角で人数分の紅茶を入れてくれる。この歳で紅茶を手早く用意できるのは尊敬する。

確かに麦本くん達はここに慣れているようだ。

古びれてはいるけれどソファーもちゃんとあるので、そこへ腰かけるよう勧めてもらう。


少し話していると、麦本くんの二人の友達は男爵家の子息らしい。どうやら麦本くんの横柄な態度から、友達というよりは取り巻きなのだろうと思う。

男爵家と子爵家とでは格に違いがあり、子爵の方が高位だ。階層を重んじる麦本くんの取り巻きとは大変だろうと思う。こうやって学校にまで親の身分を持ち込むのは見ていて気持ちの良いもので無いわね。


「紅茶は飲まないのか?」


「え」


「飲めよ。こいつがわざわざ平民のお前の為に淹れたんだぞ」


確かにいただかないのは男爵家子息に失礼にあたるだろう。私はにっこり笑ってお礼を伝え、口に運ぶ。


麦本くんはボードゲームを出して来たので、私達はそれで遊ぶ流れになる。

ルールを聞くと、どうやらサイコロを振って進む双六のような感じのゲームらしい。


「わぁ〜っお先ですわっっ」

「ああーーしまった!」

「やった!6つ失礼します!」

「俺はいつまで休むんだ(泣)」


暫し4人は双六に夢中になる。




突然、麦本くんが双六をひっくり返した。

負けがこんできたからではなかった。


「···········!なんで紅茶を飲まないんだ!

さっきから飲んだフリをしているだろう!?」


「············」


帝女は、素性の知れない者の淹れた紅茶は飲めないんですのよ?

あら、でもクラスメイトでしたわね。


「お茶に何を入れたんですか?」


「··········っ!!こうなったら!」


私は麦本くんたち3人がかりで、あーでもないこーでもないと、部屋にあった細いロープで私はぐるぐる巻にされていた。


そのまま3人は外へ飛び出した。

鍵をかける音が部屋の中に響き、慌てて駆けて行く足音が聞こえた。



「·············あら」


そういう流れでしたの?


私はコテンと部屋へ転がった。


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