38話目 (一年前) 忘れられた帝子(2) 右子side
『その聖なる十字架が、いかなる時も姉さんを守ってくれますように。』
クリスマスの夢の中の優しい敦忠の顔を思い出す。
守るって··········
こんなにアグレッシブに守ってくれるとは思ってもみなかったよ。
さっきから私の頭を掴んでいる保くん、本気で指が食い込んで痛い。
「········保くん、何してるの?」
私はついさっき保くんに頭を掴まれて泡を吹いて倒れた敵の兵を思い出して震える。
私もああなるんだろうか?
味方(?)にもやるなんて、保くんって本気でよく分からない。
「記憶を操る。これが俺の『病の力』だ。
まあ、記憶を読んだり忘れさせたりするしかできないけどね。
こうやって頭に直接手の平を乗せて施術するんだ。
さっきの兵士は過去の赤ん坊の記憶まで一気に手繰り寄せたから、脳がショートして失神した。ダメージが強いと廃人になるかも、個人差があるけどね」
は、廃人って、かなりヤバイではないか。
「今は右子の十字架のネックレスの記憶を読んでる。
···········へえ、敦人があげたやつなんだね。
いいよ、それ使いなよ」
「ええ!?この危ないブツを!?」
「いや、敵にはいいでしょ。今使わないでいつ使うの?
あいつら、めったんめたんに爆破してやって?」
私、前世日本人だからね!?
人とかめったんめたんにしちゃダメ!ゼッタイ•ダメ〜!!
だけど、敵は思わぬ破壊兵器に尻込みしつつもじりじりと攻撃の手を近づけてくる。
ううっ背に腹は代えられないっ···············のか!?
私は目を瞑って、
ぜひとも外れてくれと願いながら
この十字架を撃ち放った。
もう、ヤケクソだ。
「この世界のイヤなところ!
野蛮なところぉぉ!!
ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
バシュン!ガシュン!ドゴン!ドオォンゴォォン··························
ガンガン!ドン!ガン!ズズズッ·················
バァン!!ドン!ガラガラ················
物凄く大きな音が出ているのは、
私の撃った十字架の一撃•二撃•三撃•四撃が、私の願った通り外れまくり四方八方へ飛んで行って各々爆発し、教会の内部の様々な物をしっちゃかめっちゃかに破壊したからだ。
大きな絵画は破れ豪華な照明は割れ壊れ、次々と続く落下音が凄まじかった。
塵の煙がもうもうと立ち込めている。
「ゴホゴホッッ何と!八端十字架は聖なる十字架。十端十字架は復活の十字架というのは········ゴホッ」
煙の中、跪いている人が騒いでいる。ニコライ神父だった。
この棒がよけいに出ている十字架はこのサンタ聖教会のシンボルに同じものがあり、棒の数が多い少ないで何かあるらしい。
彼は恍惚の表情で続ける。
「貴女はサンタ聖教会の復活の女神では?
サンタ•クロース•ハリストス様は無実の罪で磔刑を受ける際、他にも二名一緒に磔刑になった者がいた。
右側には神を信じる敬虔な乙女。
左側には裏切り者の男が磔刑になったという。
彼女はその後サンタ様と同じく復活し悪を滅する破壊の聖女となったという。
言い伝えの通りだ········!」
ガン!ガラガラガラガラ··········ガッシャン
最後に血まみれサンタの像が崩れ落ちた。
「あああっっ」
神父の悲痛な声が聞こえた。
「乙女が磔刑とか、シュミが悪い話するな。反吐が出る」
保くんが憎々しげに像を破壊していた。
その辺で拝借した聖杖を振り翳している。
保くんは今までで一番冷酷な顔をしていると思う。
ニコライ神父はあまりの地獄の風景と保くんの怒気に当たられてそのまま気を失ってしまったようだ。
アイン王子はいつの間にか他の兵士といなくなっている。
「ちっ、逃げやがったか。誰かさんが滅多打ちするから」
「わ、私!?」
彼らは混乱に乗じて逃げてしまったらしい。
もちろん結婚誓約書も一緒に。
でも私は人を殺してしまわなかったことに心底安堵する。
ケガは·······負わせたかもしれないけれど。
私に降りかかる瓦礫は全て槇田くんや他の近衛騎士達が弾いて除けてくれたようだ。
煙がまだ立ち込めている。
私は立ち上がった。
まだ薄っすら光っている十字架を両手で持ち頭上へ翳す。
すると私を含めて一緒に光が増して輝いていくのを感じた。
見れば、
十字架は4本の棒、本来の十字の形を取り戻していた。
「右子様っ··············」
「おおお、何て神々しいんだ···········」
負傷した近衛兵達は跪いて私を拝むのを
止めてほしい。
ボロボロの教会の中で異教徒たちが勝手に祈っている。
神父はその傍らで失神している。
その様は何て奇妙で滑稽な光景だろう。
居もしない神についつい祈ってしまうのはどうしてなんだろう?
私は神々しい光に包まれながら、
ーーーーーそのまま床に伏して意識を手放した。
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