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27 陽と響

いつも読んでいただきありがとうございます。


今回はちょっと進展します。

 

 翌朝。現在の時刻は5時。


 楓にしては遅めの朝である。夏休みであるためそれほど朝早く起きる必要も無い。


 朝6時に楓の家の前に集合と擦り合わせは済んでいるのだが、夕月を1人で来させるのは少し心配だった。


 自転車で来るとはいえ1人にはしたくない。心配のしすぎなのは自覚しているが、悪いことを考えるとどこまでも落ちていってしまうものだ。


 結局は悩むぐらいなら迎えに行けばいいだろ、と自らを一喝する。


(なんだろうなこれ。子供を心配する親の心境? そんな感じか? いや……)


 感じた些末な違和感を胸の奥にしまって走り出す。15分ほどかけて夕月の家に着いた。


 スマホも固定電話も無いため勿論事前に連絡などしていない。というかそもそも連絡先など知らない。

 いきなり押しかけてどんな顔をするのだろうか。善意の押し売りだなこれはと自嘲する。


(よく考えるとあいつと俺の繋がりって、学校と交換日記ぐらいのもんなのか)


 門から少し離れた電柱に寄りかかって静かに待つ。


 5分ほど経っただろうか。自転車を押しながら少女が門から出てきた。


 その姿を確認するとゆっくりと近付いていく。


「よう」

「……え……楓? ……な、なんで?」


 夕月は目を見開いて楓を見る。連絡もせずにいきなり目の前にいるのだから無理も無い。


「迎えにきた。妙に心配になってな。不要か?」


 少し間を置いて首をブンブンと横に振る。


「……うれしい…………ありがとう……楓」

「……気にすんな。俺が勝手に来ただけだ。んじゃ俺は走るからついて来いよ」


 返事を待たずに背を向けて走り出す。


 ぶっきらぼうなその態度に夕月も思わず笑顔になる。一本気というか古臭いというか、だがその大きな背中は優しさで溢れていた。


 本当に仕方のない人だなあ、と夕月も後を追う。


 夏とはいえ早朝。

 静かな街の中。爽やかな風に身を包まれながら楓の家を目指す。




 2人が着くと既に陽と響はそこにいた。


「よ! ご両人おはよう!! 夕月さんを迎えに行ったのか。優しいな!」

「ほっとけ。それと朝っぱらからうるせえ」

「…………おはよう」

「おはよう夕月さん!!」


 響も「よっ! おはよ!」と短く挨拶を済ませる。


 さっさく皆走り出す。


 いつもの楓のペースだと響でさえついてこれないためペースを落とすのだが、それでもまだ早いため、早めに先に行っては全力ダッシュで戻ってくる、ということを繰り返していた。


 走る量が倍以上になるためかなりキツイ。


 最初はギリギリついていった響も途中からは諦めモード。陽に気遣いながらペースを合わせていた。


「はぁはぁ……楓。はぁはぁ。化け物だあいつ」

「あいつは特別よ。あんたは頑張っているほうよ」


 陽と違い響は息を整えながら走っている。


「…………楓……見てくる」

「え? 夕月ちゃん大丈夫?」


 小さく頷くと楓を目指して自転車を漕ぎだした。少しすると前を走っている楓に並ぶ。


「……夕月か? なにおまえ俺についてくるつもりか?」


 夕月はニヤリと笑う。


「……サボらない……ように……見張る」


(この野郎。俺がサボるだと?)


「ついてこれるもんならついてこいよ。ま、無理だろうがな」

「…………」


 夕月はニヤニヤしながら楓を見ている。導火線に火が着いたのか一心不乱に走る。ただただ走る。夕月はしつこく追い回している。


「くそ! はぁはぁ。離れねえこいつ!」


 想定していよりも序盤飛ばしすぎたこともあって、全力では走れない。夕月は涼しげな表情だ。


(じ、上等だよ!! 泣かせてやる!!)


 ペースを上げようとするも身体がついていかない。息は上がり膝も震え出した。


「…………もう終わり?」


(もう終わりだと? くそ! その顔をやめろ! ニヤニヤしやがって)


 周りから見ると微笑ましい姿なのだが、楓は本気である。夕月はからかって遊んでいる感じではあるが。


「あの2人は本当に楽しそうだなあ」

「楓をあれだけ煽れるのは夕月ちゃんぐらいよ」


 陽と響は足を止めて休憩しながら2人を眺めている。夕月の表情を楓はきちんと見えているのだろうか。愛しい人を見るような、慈しむような、慈愛に満ちた微笑みを浮かべている。


 もっとも、楓と目が合うと途端にニヤリとしているが。




「夕月さんは本当に楓しか見えていないんだなぁ」

「あたしもあんたしか見えていないわ」


 へ? と呆気に取られる陽は何を言われたのか理解が追いつかない。そんな様子も無視して響は続ける。


「あんた彼女いないわよね?」

「い、いないけど」

「あたしはあんたが好きなの。だからあんたもあたしを好きになりなさい」

「え? え? はい?」


 陽の胸ぐらを掴み強引に引き寄せると、ゆっくりと顔を近付けていき唇を重ねた。


 5秒ぐらいだろうか。真っ赤に染まった2人の顔はゆっくりと離れていく。


「えと。響さん?」

「なによ? 文句あるの? 私の初めてなんだから責任取りなさいよね」


 俯きながら照れを隠しているのだろうか。視線を下に向けたままだ。


 押し売り上等のその態度に陽も苦笑する。ため息をひとつ。少し考えると口を開いた。


「俺でいいの? たしかに響さんと付き合えるなら好きになる自信しかないけど」

「あんたがいいのよ。お人好しで友達想いのバカ。楓の友達っていうだけで凄いことなのに」


 口調は荒いが恥ずかしいのか真っ赤っ赤だ。美しい緑瞳は普段と違い潤んでいる。強気な表情であるのに女性らしい艶を帯びており、そのギャップに陽の視線も釘付けとなった。


「えと……不束者ですがよろしくお願いします。響さん」

「響でいいわよ。呼び捨てでいいわ」


「好きよ陽」と一言残して楓達に向かって走って行った。照れ隠しに身体が動くあたり楓にそっくりだなあと陽は思う。

 朝日に照らされた横顔はとてもうれしそうでとても綺麗だった。太陽のように明るい少女は勢いのまま陽を手に入れた。


 真っ直ぐな想いを正面からぶつけられたのは初めてだった陽。もうすでに好きになり始めていることに自嘲する。

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