26 夏休み
テストも無事終わり明日から夏休みである。
テスト結果はと言うと、楓は全教科赤点回避、平均より少し上ぐらいだろうか。夕月は当たり前のように首位である。響は赤点が2つ。課題提出で夏休み中の補習は回避できるのでギリギリセーフといったところだろうか。
そして意外だったのが陽。この男何気に学年全体で3位。その結果に他の面々も驚愕であった。
「ま、俺はこんなもんだとして陽すげえなおまえ」
「まだ足りないけどな。もっと勉強しないと」
陽の目標というのは聞いたことがない。いつもニコニコと周りと上手くやっている人格者といった印象が強いが、その内面を深く知っている者は意外に少ないのではないだろうか。
考えてみると確かに陽は自分のことをあまり話さない。楓はそこに少し興味を持った。
「そういえばおまえってなにか将来の夢とかあんの?」
「一応……な。だけどまだ全然足りないから話すのが恥ずかしいレベルだよ。そのうち話すさ」
「そっか」と短い返事を返す。
本人が話したくないのなら無理に聞く必要もないだろう。ただ陽がそんな風に何かを目指していることが意外だった。
楓から見たクラスメイトはまるで金太郎飴。どこを切っても同じ顔。量産型の高校生といった印象で、見下しているわけではないがその心は理解に苦しむ。
陽がそうだ、と思っていたわけではないが将来のことなどまだ考えていないものと思っていた。
内容は知らないが楓も無性にうれしくなる。
「せいぜいがんばれよ。困ったら手伝ってやらんこともない」
「最近ツンデレだよなおまえ」
皮肉めいた口調ではあるがその表情はどこかうれしそうにも見える。
「楓は夏休みどうするの?」
「ん? 走って叩いて、そして走る」
「はは、さよですか」
実際夏休みなどやることはない。ひたすら自分を追い込める予感に楓は歓喜していた。おそらく響も同じことを考えているだろう。性別は違えど2人は同類、同じ穴のムジナだ。
「俺は勉強はしっかりやりながら遊んで過ごそうと思ってたんだ……」
「思ってた?」
「響さんがさ……」
会話の途中で響が割って入ってきた。
「なに話してんの?」
「ん? おまえの話」
「あー。早朝ランニングするってやつ?」
なるほど。どうやら陽は夏休み中は早朝拉致されるらしい。「モヤシは少しは鍛えろ」ということで連れ回されるようだ。ははは、と生気の無い表情だ。
「でもさ。体力もつけないといけないって思ってたんだ。だからちょうどいいと思ったんだよ」
「わかってんじゃーん! 大丈夫! あたしに任せろ!」
楓は少し考える。
「それ俺も一緒に行っていいか?」
「「は!?」」
よほど意外だったらしい。しかも楓自身から提案されたのこともあり、信じられないといった様相。
「1人だと限界あることがわかった。隣に誰かいると張り合い出るしな。響も俺と一緒のほうが都合いいんじゃねえの?」
「たしかに……あたしのメリットはかなり大きい」
「ま、陽もいるからほどほどにやるさ。おまえらが終わった後に1人でダッシュのメニュー入れるとかすればいいし。やってみて足りないなら夜も少し走るだけだ」
「ほどほどに頼むぞ」と不安そうな陽。大丈夫大丈夫! とバシバシと背中を叩かれている。
色の無いと思っていた夏休みが少しだけ楽しみになった。
「あとは夕月ちゃんね。話せば間違いなく来るけど」
「でもあいつはさすがに走れねえだろ」
「自転車で陽を励ます係ね」
「なるほど。救護班か」
ドヤ顔で自転車を漕いでる姿が目に浮かぶ。たしかにそれもいいかもしれない。
「昼休みにでも話してみるか」
「てか、逆に夕月ちゃんだけ除け者にするのはかわいそうでしょ?」
「たしかに夕月さん怒りそうだなあ」
ケラケラと響は笑っている。どうなら夏休みは思った以上に騒がしくなりそうだ。
◇ ◇ ◇
「…………いく……楽しそう」
昼休み。事の詳細を話すと即決であった。目がキラキラしているので嫌々というわけではなく本当にうれしそうだ。
「よし。じゃあ決まりだな。じゃあ夕月は陽のケツを蹴る係だ。ビシバシやってやれ」
「……うむ……任せよ」
「お、お手柔らかに」
苦笑する陽を見て響はニヤニヤしている。
なにはともあれ夏休み中の予定は埋まった。楓にとっては人生で初めての友達と過ごす夏。
横でちょいちょいと夕月が手招きをしている。どうやら耳を貸せということらしい。顔に耳を近付ける。すると小さく澄んだ声が聞こえてきた。
「……夏祭り…………一緒に」
「……別に構わねえよ。夜だろ? それなら多分大丈夫だ。なら陽と響にも」
口を小さな手で塞がれる。大きな瞳でじっと楓を見つめる。有無を言わせぬ迫力があり何も言えない。
「……2人で」
「いいけどよ。祭りとか行くの初めてだから勝手を知らん。それでもいいか?」
小さく頷く。あまりにうれしそうに頬を緩ませているため陽と響も不思議そうに見ている。
「夕月ちゃんどうしたのー? すっごく可愛い顔してるよ。あたしもメロメロ」
「夕月さん。……あぁそういうことなのかな?」
勝手に納得した陽は響の肩を掴み制止する。止めなければ抱きつく勢いだ。「邪魔するなー」と言われても「はいはい」と軽く流されている。
そんな2人を見てクスクス笑いつつ、楓と目が合うと少しだけ妖艶に笑って見せた。
夕月らしくないその表情は幼さとのギャップが際立ち、楓の目にも魅力的に映った。
◇ ◇ ◇
「さて、どうしたもんか」
自宅で楓は交換日記と向き合っている。
何回かやり取りをしたのだが、夕月には何度もダメ出しをされた。
曰く。短い。
曰く。ただの日記。
好きなもの。好きな場所。趣味。そういったことは既に書いた。要はネタ切れ状態である。
なので本当に困っていた。
腕組みをしてしばし考える。そして1つだけ思い付いた。聞かれたことをそのまま返してみたらいいのではないか、と。
『好きな男性のタイプは?』
これだと思った。夕月も同じようなことを書いていたし、これなら大丈夫。
楓は一安心とベッドに入る。
それがどれだけ夕月を困らせる質問なのかも知らずに。
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