144.落としどころ
急に作中時間が進んでいますが、仕様です。
「――ねぇ、焔知ってた? 赤河家って、「管理者」なんて役割持ってたんだってさ」
「知るワケねぇだろ、そんなもん!」
「で、そんな赤河家にお仕えしてて、手足として働いて来た青島家は、「代行者」って呼ばれてるんだって」
「いや、だから知らねぇよ!! 何で騙されたみたいな顔してんだ、俺だって同じ気持ちだ!!」
「あー!! 伯父さんったら、私たちに全部任せるって言ってたけど、こうなるって分かってたから手を引いてたんだー!!!」
えー、話し合いを終えた夜です。
私の正体を明かしたら、何とか条件を飲ませるべく対話を、とか思ってたけど全部無駄になったことをお知らせします。
いや、確かに財力チートの疑いのある赤河家を相手にするのは、幾ら幻想パワーを操るあの2家でも厳しいって思ってくれるよね、って期待はしてたけど、現実がまさかそれ以上だったなんて、流石に考えてなかったよ!!
「ま、まぁ、思うところは色々あるが……一応、無事に周囲の安全は確保出来たんだから良かったじゃないか」
「……分かってて言ってる?」
「ガンバ!」
「うわーん! あんまりだよー!! 何処の世界に、偶にヤの付く関係者と楽しくお出かけするモブが居るって言うんだ! 最早メインキャラの所業じゃないか!!」
私たちのあげた条件は、全部飲んでもらえた。
代わりにと言うか……周囲に迷惑をかけない範囲での私との関わりを見逃すことにしていた訳だ。
でもこの条件は、そもそも赤河家のパワーがそこまでは及ばないだろうっていう想定に基づいて考えたものだ。
彼らを爆発させない為に、抜きどころを敢えて設定していたっていうか。
「まだ小学生だからって、情報収集ある程度サボってただろ? ツケが来たって諦めろ」
「焔の鬼! 悪魔! 冷血漢! 主人公!!」
「ハイハイ」
「ああー! あんなにちゃんと見送ってくれた焔が何故か冷たいよー!! あの時の焔カムバァーック!!!」
「うっせー!!」
「痛いーっっ」
容赦のない焔のチョップを受けて、多分へこんだ頭をさすりつつ私は肩を落とす。
何が悲しくて、迷惑をかけない範囲で彼らとお出かけしなくちゃいけないのか。
私の第二の人生、大丈夫? これ、急激に路線変更してない? 今更バトル物とかイヤだよ?
「俺だって真面目に待機してたんだぞ。それが、正体隠さないのが最適解だったって聞いて、結構気が抜けてるんだ。あんま熱い反応期待すんなよ」
「何だかんだで面倒見良くて優しいよね、焔」
「……何だよ、急に。気持ち悪いな」
「気持ち悪い!? 褒めたのに!? 流石にそれはヒドくない!?」
ガチ目のドン引きでそう言われると、相応にショックだよ、私でも!
「お前と俺の想定は全然裏切られた感じだけどさ、結局双子の想定には近かったんだろ?」
「あー……みたいだね。あの2人は、私よりも伯父さんとかお父さんに近しいから」
「アイツらが、お前にとって悪い選択をするとも思えないし、なら別に良いんじゃねぇ?」
「それは分かってるんだけどねー」
思わずため息をつく。
気合入れて話し合いに臨んで、結局偶にあの人たちとお出かけするって結論に至ったっていうのが、どうも腑に落ちないというか。
生きるか死ぬか! って思ってたのに、突然ほのぼの日常ライフに変わったらビックリしない?
気が抜ける……気が抜けるか。焔の言う、そんな感情が一番近いのかも。
「寧ろ俺たちよりも、あっちの方が大変だろうし、これ以上気にするのも疲れるし、諦めて良いんじゃないか」
「そうかな?」
「多分な。狐九組は知らんけど、鬼壱組は大変だろ」
「ああ、ハットリくんとの問題があるからね」
私の呟きに、焔は雑に頷く。
そっかー。鬼壱組からしたら、突然横から湧いて出て来たイレギュラーのせいで、大切な宝物を奪い返すことも難しくなってるって感じだもんね。
何しろ、攻め立てたいハットリくんが私と親しいんだもん。私への印象を良くすることを優先すると、どうしてもハットリくんには手が出せない。
一応、私が間に入った形だから、ハットリくん側から攻められることもないけど、そう気持ちの良いことじゃないはず。
「そう考えると、本当に良くあんな条件でも飲んだよね」
「そんだけ赤河が怖いのと……まぁ、お前を穏当に手に入れたいんだろうなぁ」
「うっ、胃が痛い……」
結論のどっちもが最悪だ。
前者は、ただの表の世界の金持ちとだけ思ってた主家が、裏の世界の勢力にも食い込んでるどころかある程度のコントロール権を持ってるって意味で怖いし。
後者は、情勢がうっかり変化すれば、穏当にの部分が除かれる可能性を持ってるって意味で怖いし。
「おかしいなぁ……ねぇ、焔。この世界って、学園ラブコメの世界じゃなかったの?」
「俺に聞かれても困る……が、確かになぁ」
今まで雑な対応をしていた焔が、ようやく読んでいた本から顔を上げて頷いた。
「俺の知らない美少女が増える分には、続編でもあったのかなーってので話は済むが、少年漫画のラブコメ物の続編で、急にイケメンヤクザしかも妖怪、なんて濃い面子が出て来るとは思えないし……普通の世界にそんな濃い属性のヤツが居るとは思いたくねぇし……」
独り言に近い呟きを私も拾い上げて首を傾げる。
1人2人なら、主人公のライバルキャラとか、そんなポジションで出る可能性も無くはないだろうけど、複数人はちょっと考えにくいと思う。
少年誌のハーレム系ラブコメ漫画で、何が悲しくて主人公以上にモテそうなキャラクターを複数人出さなくてはならないのか。
……んー、私は焔の方が正統派少年漫画主人公系イケメンで好みだけど、実際ヤの付く方々の面は良かった。面は。
「今のところは、一応過去のイベントは起きてるんだよね?」
「『ハーレム×ハーレム』のだろ? 一応が付くけどな」
「うーむむ……だとしたら、やっぱりここはハレハレの世界? そうとしか思えないけど、例外が出て来たって感じだよねー」
私がそう言うと、焔は何故か微妙な顔をして私を見た。
え、何でそんなに何かを言いたそうな顔をしているのかね、キミぃ?
「なに、焔?」
「いやー……例外って言うんなら、俺は正直双子が出た時点でそう思ってたなーって」
「ん?」
「俺ら……いや、お前の周囲、イケメン多過ぎないかって話だよ」
「そんな! 美少女もたくさんいるよ!」
「いや、確実にイケメンのが多い。ハレハレのキャラ抜いて考えてみろ」
焔の目が据わっている。
本気で言っているようだ。でも、そんなまさか。
少年漫画のラブコメ物の続編で、私みたいなモブ顔が主人公になって逆ハーレム築くとか、流石に有り得ないでしょ。もうソレ、少女漫画だから。
「大体、私はただの呼び出し係だって焔言ってたじゃない。私=主人公説はちょっと無理があるでしょ?」
「そうか? それにしちゃ、巻き込まれるイベントが多過ぎると思うんだけどな、俺」
「…………」
思わずそうっと目を逸らした。
「だろ? まぁ、俺が主人公じゃないかどうかは、高校になってみないと分からないし、今は言わないけど」
「焔は間違いなく主人公だよ! うん! 多分!!」
「原作知らねーヤツが何を言うか」
「ぐぬぬ……」
呆れかえったように鼻を鳴らす焔に、ぐうの音も出なくなった。
これがハーレム作りたいって喚いていた小僧なのか……。
あれ、もしかして精神年齢とか越されてる?
「つっても、ハレハレについての知識以外ない俺たちじゃ、これ以上考えても仕方ないだろうけどな」
「それは確かに」
知識があるから、避けようとか思える訳だからね。
うんうんと頷く私に、焔は突然、妙に優しい笑顔を向けて来る。な、何ぞ?
「ま、ひとまず危険性の無い接触になったんなら安心だよな」
「う、うん。まぁそうだけど」
「お前はとりあえずいつも通りやってりゃ良いって。暴力的な話にならないんなら、俺も力になってやるからさ」
「ほ、焔……! 何か妙に優しくない?」
「ひと言余計だな、お前は本当によ!」
「おおっ、痛い!! 結構ガチに痛い!!!」
うーん……解決した! って声高に言えないのが微妙だけど、焔と話してたらちょっと元気出て来た。
よーし、明日からもいつも通り頑張るぞ!
えいえいおー!!