18.さあ、ぼくの○をお食べ
ガン泣きが収まった伊尻さんをつれて少し移動し、落ち着いて話せそうな場所を探すが結局そんな場所は見つからず、路上の邪魔にならない所で話す事になった。
彼女は現在ここから少し南に下ったガサ宿街と呼ばれる低級宿が集まる所を定宿にしている様で、雨などが続かない限りは3食食べていける程度には生活しているらしい。
宿はボロの一人部屋で、1泊8ダリで朝食付きだそうだ。一人部屋でこれならレオパードでも格安になる。と言う事は、それなりにボロいって事だろう。
彼女が「あゆみ」と呼んでくれといったので、俺たちも名前で呼んでくれる様に言った。なにげに漢字一文字の名前がそろったよ。
年齢は16歳で丁度俺たちの間だった。そして、瞬の年を聞いて「小学生だと思ってました」と予想通りの感想で瞬がプリプリ怒ったのは言うまでもない。
「で、だ。俺たちの活動している所は、レオパードと言うここから馬車で3日くらい掛かる街でな、用事が済んだんで帰る予定なんだけど、来れるか?」
俺たちの用事は今日で終わった。後は観光を残すわけだが、今ひとつ観光意欲がわかない。処刑されたバカや今日会ったあいつらの件も有って、いまいちここに留まりたい気がしない。
だから、出来れば明日か明後日にはここを起ち、レオパードに向かおうかと考えている。だから彼女の都合を確認する必要があったわけだ。
「わ、私はかまいません。宿の荷物も少ないですし、明日でも大丈夫です」
彼女の方も問題ない様だったので、明日出発する事に決め、朝東門の前で待ち合わせる事にした。
別れ際、彼女は何度もこっちに頭を下げながら路地へと消えていった。
「苦労してたんでしょうねぇ。僕もはじめさんとあの日会えなかったら…どーなってたんでしょうか?」
「俺も、野宿が多かったんだろと思うよ。街中クエストしか出来なかっただろうし」
「ですよね、でも、そー考えると、あゆみさんすごいですねぇ」
「だな、多分結構無茶したんじゃ無いか?」
そんな話をしながら宿へと帰り、宿の受付に明日で出る旨を伝えた。
「でも、はじめさんが即答でOK出した時には驚きましたよぉ。はじめさんて、ドライな所有るじゃ無いですかぁ、だから最終的には仲間にするとしても、もっと考えてからだと思いましたからぁ」
「何言ってんだよ、俺は熱い男だぞ、燃える闘魂だぞ」
「…前から思ってたんですけどぉ、はじめさんって器械体操部じゃなくって、プレス同好会所属だったんじゃ無いんですかぁ」
うちの中学や高校にはプロレス系の部や同好会は無かったな。有れば入ってか? う~ん、微妙。
その後も彼女の事などを二人で色々話してから眠った。
翌朝、内郭の東門前に行くと彼女は既に待っていた。荷物はリュック一つで、中身は多分衣類だけだろう。
彼女は俺たちに気づくと、ホッとした顔を見せた。多分、俺たちの気が変わったり、話自体が嘘なのではなどと不安があったのかも知れない。
軽く挨拶を終え、そのまま東門を出てレオパードを目指す。念のため、外郭門を出るまでは『ウッちゃんMkⅡ』はリヤカーに積んだままにし、俺が引く事にした。
歩は「私が引きます」と言ってきたが、年下の女の子に引かせられる訳も無い。
畑地を縦断する街道は石畳で整地されており、細かな継ぎ目の揺れ以外は大した揺れもなく引くのも楽だ。
俺たちは、今後の事などをのんびりと話しながら道を歩いた。
そして、外郭門をぬけて1キロほど行ってから『ウッちゃんMkⅡ』を起動し三人リヤカーに乗り込んで移動を開始する。
行きと違い、今回は1人増えて重量が増してはいるが、所詮は女の子なので体重的にもさして無く、上り坂以外は特段の問題く、その時だけ降りて歩く事で対処可能だった。
ただ、行きと同様、行き交う他の者たちに奇異の目と警戒をされ、言い訳と謝罪に明け暮れた。
ただ、女の子が乗っているだけで多少は警戒感は薄れる様で、わずかながら楽ではあった気はする。気持ちね。
「ところで、『吸血鬼』だけどさ、使った事はある?」
「はい、弓で射て死ぬ前に何度か…死んだ状態だと駄目なんで」
「じゃあ全く成長していないって訳でも無いんだな」
「成長しているって分かる程は成長してないです。私が狩ってた魔獣の大半は虫タイプでしたから」
「あ、虫は無理なんだ、そー言えば虫って血ながれてましたっけ?」
「赤い血は流れてなかったと思うけど、白いやつとか透明なやつが出た気はするが…そーいや、俺ら虫系は相手してないな」
「何言ってるんですかぁ、はじめさんは初日にムカデとやり合ったじゃないですかぁ」
「バーカ、アレはやり合ったんじゃなくて逃げたんだよ」
「あの…、ムカデって暗黒ムカデですか、それとも鮮血ムカデ?」
「鮮血の方だな、全長1メートル」
「!!…良く生きてましたね」
「良く言われる(笑) チョット話がずれたけど、実際吸血してどれ位能力が変化した? それとその持続時間は?」
「あっそれ僕も聞こうと思ってました。重要ですよねぇ、それ」
「あの…体感なのでハッキリはしないんですが…、ジャンプ力が40センチくらいは伸びたのは確認してます。力も強くなっているのも分かるんですが…どれ位というのはチョット。持続時間は3分ぐらいだと思います」
「40センチ、元々のジャンプ力しだいだけど、初期でそれだけ強化されるなら鍛えれば結構上がるんじゃないか、時間的にも長いし」
「ですね、はじめさんの新しい『符』の付与が30秒位でしたから6倍ってことですよぉ、頑張って鍛えましょうぉ、大丈夫ですよぉ、ゴーレムで抱え込んで動けなくして、そこをチューチューです」
「あっあの、ご迷惑を掛けて済みません」
「なーに行ってるんですかぁ、僕らは同じ不遇職同盟じゃないですかぁ、気にしない気にしない、ですよぉ」
「不遇職同盟ってのは何だよ。まあ、それはともかく、別の手もあるから気にするな」
「別の手?」
「帰ったら、な」
道中の会話はこんな感じで、大半は意味のない話だった。ただ、意図したわけではないが日本の話は不思議と出なかった。
口に出すと心配や不安が湧き出しそうで、無意識に話題にしない様にしていたのかも知れないし、こっちの生活が当たり前になってきていて切っ掛けがなければ浮かばなかっただけなのかも知れない。
そして、道中は盗賊に襲われる事はなかったが、3回程魔獣には襲われた。ただ、牙犬と白頭蜘蛛が出たが、通常群れで行動する牙犬も3匹のみだったし、白頭蜘蛛も2回とも1匹ずつだったので、歩の弓で先制し、俺が剣でサクッと終わらせた。
今回遭遇した牙犬はレオパードの森林地帯にもいる魔獣で、牙が10センチ程飛び出た野犬だと思えば間違いない。単体の強さはさほどではなく、現在なら瞬でも剣で対処出来るレベル。
もう一匹の白頭蜘蛛はその名の通り、頭部が白で身体が焦げ茶の足も含めて全長1メートル程の蜘蛛で、尻から粘着性の糸を出し、牙で攻撃する。こちらの強さは俺なら剣だけで対処出来るが、瞬ではケガ無くは無理というレベル。
どちらも初見では有ったが、資料で見ていたしヴォルツさん達に聞いていたので落ち着いて対処出来た。まあ、それ以前に歩が弓でダメージを与えてくれてたのが大きかったしね。
この件のおかげで彼女の戦闘力もある程度分かった。弓の腕も百発百中とまでは行かないが、結構な精度か有ったので経験があるかと聞くと、弓道をしていたとの事で納得した。
ただ彼女いわく、弓道と実戦の短弓は全く勝手が違うらしく、それならばと、初心者でもある程度命中率が高く操作が容易なクロスボウを選択しようか迷ったらしい。
しかし、クロスボウは専用の矢(ボルトとも言う)を使用する為、矢じたいの価格が高く、手作りも出来そうになかったのであきらめたそうだ。
道中の休憩時間に、瞬にゴーレムを使用して矢を作らせたのだが、矢羽根や鏃を付ける必要があり、さほどの効率は上げられなかった。
試しに矢羽根と鏃もそのまま木で形成したが、木製鏃では貫通力が弱くなり、木製矢羽根では命中率が格段に落ちた。
木製矢羽根に付いては、色々試しはした。元々の撃ち方では、矢羽根部分が射出時に弓に当たり、軌道が大きくズレ速度も遅くなった。
射出時に弓手の手首を捻る方法である程度回避は出来たが、命中率の低下は残った為とりあえず断念とした。
ただ、やはり消耗品である矢を大量に作れるゴーレムクリエートは魅力がある。何らかの方法で可能に出来ないか検討を続けている。
俺たちのパーティーで唯一遠距離攻撃力を持つのが彼女の弓なのだから、気兼ねなくバカスカ撃ってもらいたい。そして、ちまちまと撃った矢を探し回る必要がなくなれば時間も節約出来る。
瞬のファンタジー小説知識では、『弓使い』も消耗品の矢の関係で不遇職扱いされているケースが多いとの事。不遇ギフトに不遇武器…可哀想すぎるだろう。
瞬いわく、弓キャラは最終的には矢の要らない魔道弓的な物を使い、そこら辺をクリアーするらしい。ま、小説ではって事だ。
仮にこの世界にもそんな武器が有ったとしても、間違いなく高い。ちょー高い。絶対。どのみち、当分どころか一生縁が無いと思うよ。
それと、道中の用足しだが、俺と瞬の2人の時は気にせずやっていたが、歩はそーは行かない。
だからある程度周囲が見渡せて安全が確保できるところに、ゴーレム壁をコの字に作り、リンクを解いてある程度崩れたその陰を使ってもらう形にした。
これは、今後クエストで歩き回っている時もこの方法を使う予定で、その予行練習にもなった。最初はそれなりに恥ずかしがってはいたが、3日目辺りにはあきらめと覚悟が出来たのか、表面上は普通に出来る様になっていた。
そんなこんなで、行きと同様に3日でレオパードへとたどり着いた。ただ、多少は遅くなって、たどり着いたのは夕方暗くなる寸前では有ったけどね。
何はともあれ、『魔獣のいななき亭』へと真っ直ぐに行ったのだが、残念ながら空きはなく、時間的に他の宿を探す余裕もなかったので、その晩は懐かしの厩で過ごした。
ただ、おっちゃんの旨い飯が食えたので、俺的には満足だった。歩も意外に平気で「ハイジみたい」と逆に喜んでいた。
夏場と違い、もう完全な秋で、日本で言えば10月半ば近い、当然夜や明け方は冷えるので、毛布は借りたよ。カゼっぴきはいやだからな。
翌日、単発で昨日宿泊していた者がいた2人部屋と1人部屋の2部屋を長期で借りるように契約し、10日分を支払った。
歩はしきりに恐縮して3人部屋で良いと言っていたが、『魔獣のいななき亭』には3人部屋は無く、4人部屋・6人部屋しかない。だから4人部屋を借りるのと、2人部屋+1人部屋の価格差は大差ない。
それ以上に「俺たちが落ち着かないから」と言って納得させた。瞬も「大丈夫ですよぉ、その分びっしばっし働いてもらいますからぁ」と言って気を使わせないようにしていた。
その日は、部屋が空くのを待ち、預かってもらっていた道具を受け取って運び込んでから出かける事になった。
「凄い荷物ですね…、何なんですか、この壺」
歩は、自分がリュック1つ分しか荷物が無かっただけに、俺たちの…俺のこの荷物にはかなり驚いたようだ。
「全部『符』を作るのに必要な道具だよ。瓶やビンは部屋に持ち込むけど、こっちの板は全部厩裏の軒先に置くから」
俺は彼女と瞬を指示して、とっとと全ての荷物を以前のように運んだ。
それを見ていた娘ちゃんから、「もーこれ以上荷物増やしちゃ駄目なんだからね!」と釘を刺されたが、「ごめんまだ増える」と先に謝る。
激怒して怒る娘ちゃんに、プリンを作ってやるから、と言ってなだめすかし、何とかごまかした。
ちなみに、20日程前、卵と牛乳っぽいヤツが有るのを市場で見つけ、それを使って手抜きプリンを作って娘ちゃんとシルビアさんに食べさせた所結構好評だった。
シルビアさんも入っているのは、魔術で冷やしてもらった礼にで、数の問題で一緒にいたヴォルツさんには無しだった。ごめん。
その時のプリンがそれなりに効果を発揮し、今回は事なき得たわけだ。
余談だが、この世界にも多くの菓子類が有る。前世で言う洋菓子・和菓子的な物も結構多いが、クリーム系は高価で基本貴族や金持ちの食べるモノと言う認識だ。
一般人の食べるモノは焼き菓子系で、クッキーやせんべい的なモノなどが主になる。そして、ハッキリは不明だが、プリンは無いらしい。
没落貴族出のシルビアさん談なのだが、見た事が無いとの事だった。
卵と牛乳と砂糖を混ぜて、かき混ぜたモノを容器に移し、湯煎して後は冷やすだけと言う、黄身も白身も分けず、ふるいで裏ごしもしてない手抜き制作なのだが、この世界の卵の質のせいか生臭さが全くなく、日本の市販品並みにはなった。
ヤクトの乳と言う、良く分からないがこの世界で標準的なミルクも相性が良く、全体に甘みが有ったので砂糖の量も少なくて済んだ。
この作り方は、実は小学校時代に『夏休みの友』に記載されていたモノで、それを見て試して以来何度となく作ったので覚えていたモノだ。
あと、これを作った流れで、本格的なプリンの作り方にも興味を持ち、ネットで調べ作っては見たが面倒だったので、以降はこの手抜きレシピでしか作っていない。
念のためだが、俺はこのプリン以外お菓子は作れない、ホットケーキ位は作った事は有るが、アレは『ホットケーキミックスの粉』を使ったので、あの中身が何で出来ているのか不明なのでここの世界では意味が無い。
余談が長くなったが、娘ちゃんをだまくらかし、荷物整理が終わったら歩に街を紹介しつつゆっくり冒険者協会へと向かった。
あちこち、遠回りをして幾つかの店などを教えながら回った事も有り、冒険者協会へ着いた頃には殆どの冒険者は出払った後だった。予定通り。
三人でソアラさんの受付へと行き、帰還報告と歩がパーティーに加入した事を報告した。
彼女は多くは尋ねず、「分かりました、頑張ってください」とだけ歩に向けていつもの表情で言った。
「ところで、ソアラさん、僕らが異世界人って事知ってましたよね」
俺がそう問いかけても彼女の表情は全く変化しなかった。逆に瞬が「えぇーーー!」と驚いたぐらいだ。
「はい、知っていました」
彼女の返答もそれだけだった。
「なんでですかぁ、なんで知ってたんですかぁ?って言うか、なんで知ってるって事を知ってたんですか?」
歩は全体の流れが分からないので、終始ポカーン状態だが、瞬はかなり驚いている。
「あのな、王都で日本人=異世界人って分かってるんだぞ、でアレだけ情報を綿密にやりとりしているここの支部がそれを知らないわけ無いだろ」
「あぁーー…… 確かに。納得ですぅ」
納得の瞬から、ソアラさんに目を向けると、「はい」とだけ答えてくれた。
まあ、俺たちの出身を知ろうが知るまいが、特にソアラさんやこの支部で俺たちに対する態度や処遇に変化は無かった訳で、今更な事ではある。
ただ確認しておきたかっただけなんだよ。そんだけ。
「一応、本部の方でも確認は取ってはいるけど、そのことで何か問題はありませんか?」
「冒険者協会は、冒険者個人を支援する組織です。その個人の出身や思考・宗教等も他に影響が無い限りそれを持って問題とする事はありません」
大丈夫とは思ってはいたが、改めて彼女から言われるとホッとする。それだけ俺は彼女を信頼しているんだよな。2ヶ月半以上お世話になったからね。
そして、その件は終わりにして、俺たちがいなかった間に何か変わった出来事は無かったか聞くと、
「全体としてですが、わずかずつ魔獣の数が増えているのでは無いかと言われ始めています」
顕著な現れでは無いようだが、全体的に、言われてみればと言うレベルで現在検証中らしい。
俺たちは現在の状態しか知らないので比較のしようが無い。だからこの件は、そーなんですか、としか言いようがない。
これが大量に増えているなら俺たちにもハッキリ分かったかも知れないし影響も大きいが、現状であれば特に問題は無いし、問題なかった。
「なにを言ってるのですか? 他人事のように。あなた達はその影響を受けたのを忘れたのですか?」
彼女の言葉に、一瞬、はぁ?と言う顔を瞬とすると、彼女は小さくため息をついた。
「まず最初は下水道のネズミの異常繁殖です。次いでは黒青スライムの件ですね。更に言いますと、はじめさんが冒険者登録をされた日に出会った鮮血ムカデ、あれもその一つといえるかも知れません。本来そうそう出会うモノではありませんから」
……関係ないどころか、ど真ん中にいたよ、俺ら!
脇で状況をつかめずおろおろしている歩に、下水道の事やスライムの事を説明すると、やっと状況を認識出来て安心したようだ。ハブにしてごめんよ。
「何か起きてるんですかねぇ? 小説だと、スタンピートの前兆とかぁ、魔王復活の前兆ってのが定番なんですよねぇ、こんな時」
「魔王は分かるけど、スタンピートってのは何だよ」
「えぇー知らないんですかぁ? えっとですねぇ、定期的なモンスターの大繁殖が有って、ふくれあがったモンスターが一斉に街とかに襲いかかるイベントですよ、常識ですよぉ」
いつもの瞬的常識らしい、試しに歩に確認を取るがそんな常識は知らないらしく、思いっきり首を横に振って否定した。試しにソアラさんに確認する。
「シュン君の言うモンスターが魔獣の意味でしたら、多少は似た事はあります。特定の種が一時的に増加し、エサ場を求めて移動を開始するケースですね。ですが、それは特定の種だけの事で、全体的に多くの魔獣が種に関係なく増えたというケースは記録としては確認出来ません」
まあ、特定の種が急に増加って元の世界でもままあったよな。レミングの暴走とか有名だし。…ただ、ソアラさんの言に少し気になる所があった。
「あの、『記録としては』確認出来ないって言ってましたが、記録で無ければ何かあるって事ですか?」
「…異世界から来られた皆様はご存じないかも知れませんが、隣国の神聖ハルキソス神国建国に関わる物語に、魔獣が国中にあふれたと言う部分があるのです」
「あっ! 『召喚されし勇者と白の姫』!」
瞬も気づいたようで、大声を出し無駄な注目を浴びていた。まだ、他に2組程冒険者がいたからね。はずい。
「ご存じでしたか。アレは記録と言うには無理のあるモノで、彼の国は別として他の国ではただの作り話として扱われていますので」
なるほど、何百年も前の話で、しかもあの神聖ハルキソス神国と言う宗教国家の話となると、盛りまくった話どころか全くの作り話の可能性もある。
宗教なんてそんなモンで、1を10にし、終いには0を5にしてしまう。個人的には宗教は、その教義に意味があり開祖や弟子の物語などどーでも良いんじゃねと思っている。
どこぞの世に言う三大宗教の経典には、○○した者は殺さなくてはならない、ってい幾つも書かれていたりするんだよな。何だかなー。
ま、俺の宗教観はともかく、その周辺各国では彼の国の話は信用はされていないって事だ。
ソアラさんは、あくまでも幾つかの偶然と、微量の特定魔獣の増加が重なっただけかも知れません、との言葉でこの件に幕を下ろした。
実際俺たちには全く分からない事ではある。
あと、念のため『魔王』の事を確認したが、物語上には『魔王』は存在するが、現実としては『魔王』は確認されていないそうだ。
当然、『スキル:魔王』などと言うのもなく、ましてやひっそりとその芽を摘むような行為も無いとあきれ顔で言われた。まあ、この件を聞いたのは瞬で、そんな顔をされたのも彼なので俺は問題ない。
その後、買い取り価格の変動、季節的な魔獣の分布などの確認をして俺たちはクエストは受領せず協会を後にした。
そして、午前中いっぱい街の必要な場所の案内を続け、幾つか買い物をした上で『魔獣のいななき亭』に戻り昼食を取った。
昼食を取った後、俺は2人を庭の井戸端へと連れて行く。
「さてと、じゃあ、あゆみの『吸血鬼』の確認と訓練をしようか」
俺がそう言うと、瞬と歩は???と2人とも首をかしげた。
「確認て、ここじゃ無理ですよぉ、魔獣がいないし、ねぇ」
歩も瞬に同意してうなずく。
「あー、『吸血鬼』だぞ、『吸血鬼』、普通吸血鬼は人間の血を吸うだろ? 俺か瞬の血を吸えばそれで問題ないじゃん」
なぜだか二人は、血は魔獣から吸うモノだとの思い込みが有る様だ。瞬は吸血が攻撃+肉体強化というイメージがあるよだ。
歩は仲間がおらず、一人だった関係で仲間から血の供給を受けるという考えに至らなかったのかも知れない。
「おぉぉ! その手があったぁ」
「あ、あの、でも吸って良いんですか…、痛いし、血も出るし、血も減るし…」
「問題ないぞ、確か吸う量は大したことないんだろ? 聞いた話では献血より少なそうだし、1/6回復薬もあるからな、傷も治せるし飲めば造血作用もある。1/6回復薬じたい余ってて消費期限までに使い切れそうに無いんで気にならいしな」
「そーですよぉ、はじめさんなんか、年中自分で自分の手をナイフで刺して血を出し慣れてますからねぇ」
こらこら、瞬、そんな言い方じゃ俺が危ないヤツみたいじゃないか。言い方を考えろ。全く。
「こっちの体力って言うか血の量にも限りが有るから、今日から問題ない量を探りながらやっていこう。て事で噛め」
そう言って俺は彼女の前に左腕を出した。
歩はしばしためらうように、俺と自分の前に差し出された腕を何度も目で往復しながら「良いんですか、ホントに良いんですか」と繰り返し、やっと踏ん切りが付いたのか腕を手にし恐る恐る噛みついた。
彼女が噛みつく瞬間、彼女の犬歯が伸び、まさに吸血鬼というような牙になったのが見えた。そして、微妙な唇の暖かさと共に痛みが来る。
その痛み自体は一瞬で、その直後吸われている感じが腕越しに分かった。しかも腕の表面・皮膚で分かるのでは無く、牙の入っている中で吸われているのがなぜか分かる。不思議な感覚だった。
「痛くないでかぁ? ねぇ、はじめさん、痛い? ねぇ、痛い?」
しつこく聞いてくる瞬には、「後でお前もやるからその時分かるよ」とだけ言ってやると、「教えてくださいよぉー」と注射を待つ小学生か!、みたいな会話をしている内に彼女の口が手から離れた。
彼女が離れた腕を見ると、小さな2つの穴があり、わずかに血が出ていた。
この時点で、とりあえず腕は放置して、腕時計で時間を確認し、その時間を覚える。まあ、ストップウォッチ機能を使っても良かったけど、操作が面倒なのでやらなかった。
「よーし、身体はどーだ、パワー上がってるか?」
彼女は俺の手を心配げに見ていたが、俺の声で腕をニギニギして、軽くその場ジャンプした。
「はい、力が上がってます。あの…腕を」
「ああ、大丈夫血は大して出てないから、検証してる間に治すよ。とりあえず、全力その場ジャンプと、あそこからあそこまで全力疾走、それとあの辺りで走り幅跳びな」
そう言って一つ一つやらせてみた結果は、その場垂直跳びは約120センチ、全力疾走は多分俺と同じか早いくらい、走り幅跳びは5メートル弱って所だった。
その後時間まで幾度かやらせると、要領が分かったのか、幅跳びは6メートル程に、走る速さは明らかに俺より早くなった。垂直跳びは大差なし。
そして彼女のブースト時間は、彼女の申告通り3分10秒ほどだった。
爆発的なブースト量では無いが、初期段階でこれであれば、ある程度成長すればかなりの力になるよな、間違いなく。
試しにブースト終了後、同様の事を彼女にやってもらうと、垂直跳びは60センチ程、幅跳びは3メートルちょいという感じで、走る速さは女子としては早いんじゃ…と思える程度となった。
瞬もこの結果には終始「凄いですよぉ」を連呼していた。
そして、少し時間をおいて、彼女にもう一回いけるかを確認すると、大丈夫そうだとの事で、瞬を噛ませる事にする。
「シュン、次お前な」
瞬は一瞬固まってから、深呼吸をして、彼女の前に右腕を出した。
「さあ、ぼくのうでをおたべ」
歩は一瞬俺の顔を見たが、俺が首を横に振ると、スルーしてそのまま腕に噛みついた。




