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19.2ヶ月の間に そして終わり

 歩がレオパードに来て2ヶ月程が経った。俺たちがこの世界に来て150日が経過した事になる。死なずに無事に生活出来、その上少しずつ成長出来ている事が有りがたい。

 レオパードに帰ってきてからは基本地味なルーチンワークの繰り返しだ。劇的な事も、悲劇的な事も無く、平穏無事という素晴らしい時だった。

 変な主人公属性なんぞ要らん。身の回りで絶えず殺人事件があったり、変な能力者が集まってきたり、突然妹を名乗る美女が来たり、そんな非日常は異世界転移でもう腹一杯だよ。ノーサンキュー。 


 てな訳で、とりあえず、この2ヶ月間に有った事を簡単に話そう。

 先ず、歩からだ。

 歩は最初、パーティープレイで旨く連携が取れなかったが、それも5日も経てば問題なくなり、以降は完全な戦力となってくれた。

 そして、『吸血鬼』については、俺と瞬各自1日2回計4回の吸血が可能だった。これは彼女側の制限では無く、俺と瞬側の血と言おうか体力の問題だ。

 この『吸血鬼』によって吸われるのは、純粋に『血液』では無く、ある程度の血液と共に『体内エネルギー』とでも言う様なモノを吸い取っているきらいがある。

 だから、吸われた血液に比較して疲労度が高い。瞬は、「オドとか、オーラな力的なモノかも知れませんね」とか言ってた。

 オドは体内魔力のようなモノで、外部の魔力をマナとして、表現する際の用語らしい。オーラな力は、ま、アレだ。Gじゃ無くてDのヤツだ。コレは知ってた。叔父のDVDで見たしゲームにも出てたしな。

 そんなわけで、午前と午後一回ずつが限界だった。

 しかし、その1日4回でも地味にでは有るが成長を続けていた。その上で、魔獣で吸血出来る際は積極的に実行させる形でやってきたのもその成長を助けた。

 基本この2ヶ月は、歩を成長させる事を第2の目標として活動していた。第1目標はもちろん、死なない事だよ。

 ただ、順調に成長していた彼女だったが、13日目に倒れてしまった。ケガや病気では無く、純粋に疲労でだ。

 疲労と言っても、肉体的なものだけでは無く、精神的なモノも大きかったようで、途中いくら無理するな、休めと言っても「大丈夫です」を繰り返すだけで、結果として倒れた。

 要は、俺たちに見捨てられたくない、認めて欲しい、早く役に立つようにならなくては、そんな思いで無理を続けていたようだ。

 俺たちもその辺りはある程度分かっていたつもりだったが、彼女の思いはかなり予想より深かったようで、倒れた翌日目を覚ました枕元に行くと、

「ごめんなさい、もう大丈夫ですから、もう二度と倒れたりしません、だから見捨てないでください、お願いします、見捨てないで」

 いきなり、すがり付かれて哀願されるに至って、彼女の心の傷の深さのようなモノをやっと理解させられた。

 俺は、すがり付いて、「お願いします」と「捨てないで」を繰り返す彼女の頭を撫でるぐらいしかしばし出来なかった。俺自身戸惑っていたからね。こんなん17歳にさらっと対処出来るかーっ。

 それでも、自分なりの言葉を何とか探して話した。

「あのな、とりあえず『捨てる』とか『見捨てる』て言うのは無いから心配すんな。おまえはさ、もう完全に俺らのパーティーの一員なんだよ。

 と言うか、お前、最終的にはこのパーティーの最大戦力だぞ。見捨てるどころか、手放すかよ。バーカ。

 現時点で血を吸ってブーストすれば俺より戦闘能力有るだろ? まあ、まだ剣を使い切れてないから完全に上じゃ無いけどさ。

 後10日もすれば完璧に俺より上だぞ、しかもまだまだ能力向上の余地が有りまくりだろ? 瞬じゃ無いが育ちさえすればチート級だぞ。

 ついでにさ、今はまだ材料が無くて作れないけど俺の『符』の『付与(速)』と『付与(力)』がお前のブーストに重ねがけ出来れば凄い事になるぞ。

 な、もう一回言うけど、捨てるどころか手放さないよ。もったいない(笑)」

 言ってみてから思ったが、思いっきり利己的な言い方だよな。でもこう言う言い方しかとっさに思い浮かばなかったし、ただの感情論的なモノは無駄だとも思えたんだよ。

 彼女は泣きはらした顔を上げ、俺の腰を捕まえたまま上目遣いに見た。その顔は口が日開き唖然とポカーンの中間のような微妙な顔となっていた。しょうが無いよな。

「あ、あの、私が最大戦力?」

 開きっぱなしの口からやっと出た声は、小さく少しかすれていた。

「ああ、最大戦力だ。ついでに言うと、最終的な第2戦力は瞬だ。まあ、瞬の場合は純粋な戦闘力じゃ無くて、支援とその準備を含めてだな。

 で、一番最後が俺だ。戦闘では中途半端、支援も中途半端、その上準備に異常に手間と時間と金が掛かる。そして『符』がなくちゃ何も出来ない。最強不遇職はダテじゃないぞ」

 これは嘘でも何でもなく事実だ。俺がそう言うと、彼女は俺の腰から手を放し、思いっきり首を左右に振った。

「違います、はじめさんより私の方が役立たずです。はじめさんは強いです。凄いです。一番最後じゃないです」

 泣きはらした際の涙が左右に吹き飛ぶ程高速スイングする首を俺は止める。頭にチョップを加えて。

「嘘じゃないぞ、最終的に3人が今の調子で成長したらって事だよ。ま、3度目だけど、捨てるとか無いから心配すんな。やがてはこっちが捨てられないようにしなくちゃならない立場だよ(笑)

 だから無理して倒れるな、今回の事で分かったと思うけどさ、倒れた方が迷惑掛けるだろ? 必要以上の無理するだけ無駄どころか逆に害だよ。

 つー事で、以降無理禁止な。俺達のモットーは、『安全第一に無理せず出来る範囲で最低限の生活費を手に入れつつ少しずつ成長する』だからな」

 俺はそれだけ言うと、「以上、明後日には元気になれ」とだけ言って彼女の頭を軽くチョップしてからその部屋を出た。

 その後彼女がどんな風に思い、考えたのかは分からない。

 ただ、その日の夜に彼女は、少しは吹っ切れたような顔で俺達の元に顔を出し、朝とは違う「ごめんなさい」を言った。

 まあ、一気に吹っ切れたり納得したりは出来ないだろうと思うよ。俺の言い方もアレだしさ。

 そして、それからしばらくすると、彼女は微妙に変わって来た。以前程オドオドする事もなく、ある程度までは自分の意見を言ってくるようにはなった。

 良い事だと思う。そして、それに従って戦闘での身体の切れも良くなり、10日を待たず俺より強くなっちまったよ。ブースト時限定だけどさ。

 2ヶ月後の時点での彼女のブースト時の身体能力は、その場垂直跳びが2メートルを超え、走り幅跳びも8メートルは楽に超えた。走る速度は基準がなく数字化出来ないが、逃げる牙犬に楽勝で追い付く位には早い。

 無論これはブースト時のモノで、先制攻撃時にしかこれは生かせないが、非ブースト時でも瞬程度の接近戦戦闘能力は身につけていた。まったく、誰が捨てるんだよ、逸材だ。

 次に瞬だ。

 ゴーレムの生成サイズはサンドゴーレムは320センチ程でついに止まり、ウッドゴーレムは現在250センチ程で低成長期に入っている。

 そして、制御距離は約80メートル程で、こちらもほとんど成長しなくなっている。完全に止まったわけではないようだが、実感出来ないレベルらしい。

 更に、暇な時にはロックゴーレやアイアンゴーレムを試しているが、こちらはまったく手応えはないようだ。

 また、ウッドゴーレムの『ウッちゃんMkⅡ』のボディーを堅い材質の木と随時交換して行き、現在は身長2メートルでかなり丈夫なモノになっている。

 以前は数戦するごとに傷や破損を手直しする必要があったが、改造後傷はともかく破損はほとんど無くなった。

 実質的に身体の大きさすら変わった『ウッちゃんMkⅡ』だが、相変わらず『MkⅡ』なのは「まーくすりーって語呂が悪いじゃないですかぁ」という事でそのままらしい。じゃあ『ウッちゃん』でよくね?と思うんだがね…

 それと、ゴーレムの生成速度はかなり上がり、サンドゴーレムであれば3秒ほどで形成出来る為、戦闘中に形成も問題なく可能になった。

 瞬の肉体的な戦闘力も、雨の日の訓練や実戦である程度上がっており、現在は角髪(みずら)ガエル位なら楽に一人で対処出来ている。こちらも劇的ではないが、確実に成長している。

 で、最後は俺だ。

 先ず肉体的な成長だが、この辺りは数値化出来ないから微妙なのだが、牙犬4匹を同時に剣だけで対処出来る位にはなった。

 また、剣の練習や筋トレだけをするのではなく、せっかく多少ながらも身につけている器械体操方面の技能も最低限維持出来るようにトレーニングを行っている。

 格闘技的な強さはともかく、身体を動かす事に掛けては器械体操によって作られる身体は汎用性が高いと個人的には思っている。

 柔軟性、瞬発力、動体視力、更に足のつま先から手の指先まで全身の筋肉を満遍なく鍛えられる、と言うか鍛えないと演技に耐えない。

 特に動体視力は、俺が大きなケガも無く戦って(生き残って)来られた事に一番貢献している。

 戦闘時、高速で動き回りつつ周囲の状況を瞬間的に認識でき、敵の動きも漫画のようにスローで見える訳ではないが、普通に目で追える。

 初期はその目に身体がまだまだついて行かず、もどかしさもあったが現在はある程度身体も付いてくるようになった。おかげで魔獣の攻撃を避けるのが楽になっている。

 ゲームのように着々と目に見えるようにパラメーターが上がると言う事は無いが、それでも振り返って比較すれば確実に成長は実感出来ている。

 次に『符』に関してだが、紙すきは随時行い、ストックが300枚は越えた。そして、『符術師読本(中巻)』に有る紋章全ての判子の作製も完了した。

 ただ、絵の具様の素材が自分たちでは入手出来ないモノが大半で、採取依頼や購入するにも高い為試しで作製する程度にしかできていない。

 特に魔石(3等級以上)と紺葉蘭(根)がキツい。現在俺達が自己入手が可能な魔石は、特大サイズの鎧猪から2度だけ取れた4等級が限界でそれ以上は目処が立たない。

 まあ、黒青スライム(冒険者殺し)の魔石は3等級だったんだが、アレは通常街の周辺にはいないからね…

 この3等級魔石は、売価は800ダリ程だが、購入価格は1000ダリを超える。む、無理して買ったよ。懐が一気に寂しくなった…びんぼー。

 紺葉蘭(根)は一般に薬草などとして使用されるモノではない為、採取依頼が必要だった。しかも山間部にしか自生しない為、ある程度のランクの者が対象だったため高く付いたよ。また1000ダリ…

 モルガ草だけは、あちこちに自生していたので俺達にでも大量に採取できたのは幸いだった。

 そして、聖鉛なのだが、これは購入しか無いと思い、金属を扱う所へ行ったのだが在庫がなかった。と言うか、と取り扱っていなかった。

 何でも、ただの鉛は普通に使用され売買もするが、聖鉛は特殊な用途にしか用いられない為、一般には売買されていないらしい。この国で扱っているのは王都だけだろうと。

 取り寄せは可能ではあるが、ルートがないのでいつになるか分からない、と言われとりあえず断念。

 ただ、以前王都で読んだ聖鉛の記述の『聖鉛は鉛に聖属性の力を一定以上掛け、その力によって変質したモノ』から、鉛に聖属性魔術を掛ければ自分たちで作れるんじゃね?と思い立つ。

 当初は、聖属性魔術を使える魔術師に頼もうと思っていたのだが、『聖光符』の存在を思い出し、試してみた。

 箱の中に購入した握り拳大の鉛を入れ、底面以外の5面に『聖光符』を貼り付けて、順次起動していく。結果、4枚目の『聖光符』の効果が切れた所で、鈍色だった鉛が白く変色し聖鉛になっていた。

 全ての材料が集まったのが、レオパードに帰ってきて1月程経った頃で、その時点の材料で作れるだけの『符』を作った。

 個人的に気に入ったのは『浮遊符』で、無重力ではないが、ほぼそれに近い感じを30秒程ではあるが味わえた。

 ただ、この『符』もご多分に漏れずコントロールなどというモノが効かない。ただ一定時間身体に掛かる重力が1/20程になると言うだけだ。だから降りたくても降りられない… そして時間が来れば、効果が切れ真っ逆さま。

 だから予備の『符』を持ってジャンプする必要がある。そんな問題のある『符』では有るが、空を飛ぶのは気持ちいい。

 瞬と歩にも散々うらやましがられたが、二人は『符』を起動出来ないので、俺のリンク圏外で『符』の効果が切れた場合を考え、飛ばす訳にはいかなかった。

 『切断符』は本の解説にもあったが、効果がランダムらしく、まったく効果が発生しない事もあるので実戦には微妙ではあるが、次元レベルの切断という事は硬度や強度に関係なく切れる事になる。対象と使い方しだいでは切り札足るかも知れない。

 『加重符』は一見使えそうで使いにくい『符』で有る事が分かった。先ず、一撃で対象を殺すには至らない。5Gだからね。更に、効果発動中はそのエリアに外部から入った物にも同様の効果が現れるから、動けなくなっている所を剣や弓でグサリって訳にいかない…

 飛行系の魔獣を地面にたたき落とすのには使えるが、エリアが半径5メートルと狭いので、近づいてきたタイミングでしか使用出来ない。微妙に使いづらい。

 『障壁符』は使える。効果時間が30秒と短くはあるが、起動して持った状態なら重さのないラージシールドと言った感じで使える。

 この障壁は最大サイズのサンドゴーレムの助走付きタックルにも微動だせず、検証で頼んだシルビアさんの風魔術も問題なく阻んだ。

 戦闘時に左の手の平にこの符を貼り付け、このシールドを掲げて魔獣に突っ込んでみた所、手にはまったく抵抗を感じないまま魔獣を障壁ではね飛ばす事ができた。ぶつかった際の運動エネルギーはどこへ行ったんだよ…

 ただ、この符は障壁前面はもちろん裏面からも攻撃は通さない。だから身体に貼り付けた状態だと、こちらからもタックル以外の攻撃ができないのが少し難点といえる。だから俺は左の手の平に付けたんだけどね。

 そして『付与(速)』『付与(力)』だが、こちらも大いに使える。歩の吸血ブーストを実体験出来たよ。2倍限定ではあるけど全く違うね。特に反射速度が上がるのが凄い。ホントに相手の動きがスローに見えるんだよ。

 漫画のように紙一重で避けつつカウンターなんて真似もできる。伝説のクロスカウンターも可能。ま、やらないけどさ、意味ないし。

 力もホントに2倍で、80キロ近い石を問題なく持ち上げられたし、それでいて関節などにもまったく問題が無く、効果終了後にも変な影響は残らなかった。

 ただ、こちらにも問題はあった。それは、その2倍になた能力値を直ぐには使いこなせないって事だ。漫画やゲームのように魔法付加で2倍化されたとたん2倍速で自由に動き、2倍の力で敵をなぎ倒すなんて無理。

 全力で走ろうとすると思ったより身体か浮き上がり、結果スピードは上がらず、時には足が滑りそのままつんのめった事もある。

 自動車の改造と同じだよ。パワーを上げればホイルスピンし、空回る。スピードが出ればコーナーで吹っ飛ぶ。

 上がった性能を身体で覚え、それを使いこなせるようにならないと『2倍』どころか『1/2』になってしまう。だから訓練が必要なのだが、材料の関係で多くを作れない…だが自由に使いこなせるようになれば最も使える『符』になると思う。

 あと、歩の吸血ブーストと重複可能なのも分かった。使わせるとホントアメコミヒーローかよ、って感じになってたよ。コントロール出来ずに暴走してたけどね。

 その暴走をみて、瞬が彼女にハ○クとあだ名を付けたところ、泣かれたので直ぐに撤回して五体投地で謝ってた。応援で背中を踏んでやった。

 『付与(硬)』に付いては検証がしにくく、薪に付与して剣で切ったり、『ウッちゃんMkⅡ』に付与して岩を殴らせたりして効果が有るのはハッキリ分かったが、実戦での使い道はまだ思いつかない。

 今後色々考えないといけない。

 まあこんな感じだ。

 そして、2ヶ月経過した時点で、全員のレベル測定を行った。

 結果は以下の通り。

  俺:レベル7→16

  瞬:レベル9→14

  歩:レベル2→14

 前回の屈辱は晴らしたぞ。下克上だ本能寺だの言ってたが、三日天下ではなかったがあっけなく逆転だったな。

 瞬のヤツは「あれぇーー?」とかぬかしてやがったが、これが実力というモノだよ、ハッハッハ。

 ちなみに歩のレベルが2だったのは、初期登録時から更新していなかった為で、今回の更新で俺より低かったのは『吸血鬼』を鍛え初めて時が経っていないからだろう。

 そして、冒険者ランクも、俺と瞬がW→Uに、歩がY→Vにそれぞれ上がった。これで一応護衛依頼も受けられるようになった事になる。ま、受ける予定はないけどね。護衛系は盗賊戦が有りそうだし。

 対人戦なんて絶対ごめんだ。まあ、襲われれば対処はするよ。どこぞの9条の会みたいなご託を言う気は無いからね。でも、こっちからそのシチュエーションを作る気は毛頭無い。

 以上がこの2ヶ月間での俺達の変化(成長)だ。結構頑張ったんじゃないかな? うん頑張った。

 そして最後に、この2ヶ月間に有った外部の変化だ。

 まず、隣国、神聖ハルキソス神国の政変についてだが、(くだん)のジョーが彼の国の神都を滅ばした…残ったのは瓦礫のみだったそうだ。

 神都の冒険者協会スタッフも大半がこの滅亡に巻き込まれ、実際何が起きたかはハッキリはしない。ただ、神都の外にいて難を逃れた者の話では、神都全体を真っ黒な光が覆いそれがはれた時には瓦礫と化していた、との事。

 人はもちろん、ペットやネズミすら居らず、全く生命の息吹どころか痕跡すら無かったらしい。つまり遺体すら無い…

 そして、その瓦礫の中を身体に黒い闇を纏ったジョーが一人歩いていたという。…この話を聞いて俺達3人の頭に浮かんだのは『魔王』の文字だった。

 その後はたいていの者が、この神都跡地に近寄らなくなったようで、現在の様子は不明らしい。ま、俺でも近づきたくないよ。絶対。

 次に、レオパード周辺についてだ。例の魔獣の増加は確定された様だか、驚く程増えたと言う事ではなく、10%に満たない増加なのでそこまで深刻に捉えられてはいないし、俺達への影響もほぼ無い。

 ただ、この増加がこのまま続いていけば、やがては問題になるのは言うまでも無い。ここで増加が収まるのか、元に戻るのか、更に増加するのか全く分からないし、原因も不明だ。

 まあ、現状俺達が考えても無駄以外の何物でも無い。今できる事は、もし増加が激しくなった時にも生き残れるように強くなる事。それだけだ。

 あと、こっちは異常でも何でも無く季節がらの問題で、魔獣の生息場所の移動や種の分布にかなり変化が出ている。

 俺達が主に狩っていた『鎧猪』は、北西部の草原地帯から本来の生息場所で有る西部森林地帯へ移動してしまった。

 更に、南東部湿地帯に大量に生息していた角髪(みずら)ガエル(俺達名福耳)は冬眠の為姿を消し始めた。

 その代わりに、湿原地帯に姿を現し始めたのは、沼山椒魚と串刺し黒サギで、空と水中からの挟み撃ちに難儀する季節になった。

 それと、北西草原の先に有る林に生息する屍喰いと言う甲虫がいなくなり、大山蛭という体長50センチ以上有る蛭が出るようになったそうだ。

 と、まあ、こんなところだ。

 そして、そんな俺達の平和な(?)2ヶ月が終わった。

 そう、この日で終わったんだよ。

 

 

 その日俺達は初めて、街の南門より出て南部の草原を訪れていた。

 この南部は草原地帯と言う程ではなく、かと言って荒れ地とは呼べないというレベルの場所で、所々ブッシュのような部分が有るかと思えば、地面がむき出していたり岩がゴロゴロと転がっていたりする。

 南東部の草原より荒れ地に近い感じだ。そして、長い間この地に来なかったのは『鮮血ムカデ』の目撃例が多い土地だからだ。

 初日のアレがトラウマになっている事も有るし、ソアラさんから「死にます」宣言を頂いているのも有ってこの時点まで回避していた。

 そんな俺達が…って言うか俺がここに来る事にしたのは、今なら十分にアレに対処出来る自信が付いたかと言うのも有る。そう、150日ぶりのリベンジだよ。俺、結構執念深いんだよね。

 いつものように、『ウッちゃんMkⅡ』を20メートル程先行させ、瞬を間に挟むように俺が前、歩が後ろで全体として斜めの陣形で進んでいく。

 木塀南門を出て2時間程の間に、6回程角ウサギ、牙犬に襲われたが、問題なく処理出来ている。クエストの目的で有る『琵軸草』も順調に採取出来ていた。

 この琵軸草は、この国の風土病と言われる七日ぜきの治療薬になる薬草で、病人の多くなる冬場に採取クエストが多く出る。

 金額的には余り美味しいクエストではないのだが、『魔獣のいななき亭』の娘ちゃんが罹患(りかん)し、薬を求めたがどこも切らしていると言う状況だったので、速効で受けた。

 で、受ける際、依頼元の薬屋と話し、納品後作製した薬を1人分分けて貰えるように話を付けてある。そんな事も有って今日は午前10を回ってからの遅い出立になった。

 そしてあと二束程で依頼量が満たせると言う時にヤツが出た。

 それに気づいたのは歩で、即座に射撃体勢に入りつつ「右前、20メートル、ムカデ!!」と叫んだ。

 その声で俺も気付いたのだが、ヤツは『ウッちゃんMkⅡ』の右奥から『ウッちゃんMkⅡ』を無視して俺達の方へ向かって大量の足を動かし這いずって来た。

 俺は一枚だけ鎧のホルダーに常備している『障壁符』を左手に取り、右手に短剣を抜いて身構える。

「押さえろ」

 短く瞬に『ウッちゃんMkⅡ』でヤツを押さえ込むように指示を出す。瞬も既に反応しており、剣を抜きつつ『ウッちゃんMkⅡ』を制御してヤツに向けた。

 俺は2歩程前に出て、左手を前に出す。そして、ヤツとの距離を測っている間に歩から矢が次々に放たれる。しかし、甲殻に弾かれダメージは与えられない。

「刺さりません!」

 歩の少し焦り気味の声が聞こえた。だが問題は無い。

 『ウッちゃんMkⅡ』は微妙に距離が足りず、ヤツが俺に到達するまでに押さえ込む事は無理そうだ。

 俺は一瞬後方を振り向き、瞬との間が十分空いている事を確認し、ヤツが4メートル程前にさしかかったところで『障壁符』を起動する。

 即座に左手前面に半径1メートル程の半透明の膜が発生する。その膜の下部が地面に当たらないように、突っ込んでくるヤツの頭部に掌底突きを喰らわせる様にぶつける。

 うまく弱点の頭部触角に打撃を与えられた様で、ヤツは身体を絡ませるようにのたうち始める。そこに瞬が『ウッちゃんMkⅡ』で覆い被せるようにして拘束し、その上で頭部を両手でつかむ。

 そして、発動状態の障壁を左手を別の方向に向けて避けた状態で、『ウッちゃんMkⅡ』によって固定された頭部口内に剣を差し込んで、足で思いっきり蹴り込んだ。

 ヤツは『ウッちゃんMkⅡ』に絡めた身体を更に激しく蠢かせたが、障壁が消えて20秒もしないうちにその力が失われ、そして動かなくなった。

 周囲の警戒をしながら俺達はこの初勝利を祝った。

「全く、足が多けりゃ良いってもんじゃないんですよぉ、足なんか飾りです、偉い人には分からんのです」

「…あの、意味が分からないんですけど…」

「ああ、気にするな、意味は無い、いつもの病気(厨二病)だよ」

 歩の「またですか」のつぶやきを聞きながら、鎧ムカデの頭から4番目の節をナイフで切り離し、中を漁り魔石を取り出す。

 取り出した魔石は直径5センチ程で、輝きから見て多分4等級は間違いないと思えるモノだった。

 それを瞬に渡すと、またぞろ「これは、良い…」と言い出すので速効で取り返す。

「バリエーションが少ないぞ、同じのを何度も使うな」

 と言ってやると、思いっきり両ほほを膨らましてから、

「何言ってるんですか、はじめさんが知らないから、古典の有名どころしか使えないんですよぉ。新しいヤツも何度も言ってるのに気付いてさえくれないじゃないですかぁ。アレむっちゃ寂しいんですからねぇ」

 と、逆ギレされた…だったら言わなきゃ良いのにとは思うんだが。ま、病気だからしょうが無いという事にしておこう。

「有名なんですか?」

 歩がなんとなく不安に思ったようで、聞いてきたよ。気にするような事じゃないんだが、話の中身が分からないでハブにされているように感じるのかも知れない。

「あーー、いわゆるある種の趣味を持つ、もしくは過去に持っていた者にとっては、って言う限定付きの有名だよ。知らない、分からないが当たり前だから気にすんな」

 彼女は安心したようだ。

 実は、俺はあまりあの世界は詳しくはない。スパ○ボをやった流れで興味を持ち、その手の趣味にはまっている母方の叔父から無印G辺りを中心にDVDを借りて見た程度だ。

 その為、古いモノはある程度知っているが新しいモノは全く知らなかったりする。だから瞬の期待には応えられない。応える気も無いけどな。

 そんないつもの生産性の皆無な会話をしながら、残りの琵軸草草を探していると、小高く10メートル程盛り上がった丘の斜面に群生を見つけた。

 俺達は大喜びで、取れる範囲で全て取った。結果、依頼量を12束越える数を入手出来た。これで多少は品不足が解消されるはず。

「よし、これで良いな。あとはとっとと帰って薬を作ってもらうぞ」

「ですよ、娘ちゃんが待ってますからねぇ」

「はい、急ぎましょう、今からなら3時前には着けるはずで」

 そして俺達は丘を背にし、街に向かってフォーメーションを組んで歩き出そうとした。その時それは起こった。

 それは、(まぶ)しい黒い光()だった。俺達がさっき琵軸草を採取していた丘の壁面から、50メートル程離れたところの壁面よりその光が放たれていた。

「えぇぇー!何々あれ?」

「黒い?光?」

 混乱する俺達をよそに、その黒い光は輝きを増し、そして無音で爆発したかの様な強い光を一気に発し、唐突に消えた。

 黒い光は俺達の目を一時的にくらませ、それが回復した時にその光を放っていた地点には50メートル離れたここからも分かる穴が丘の壁面に空いていた。

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