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13.異世界転移者のうわさ・・・ところで島本ってだれだよ

 おはようございます、昨日の戦闘に、符術師のくせに一度も『符』を使わなかった大河平・一(おこびら・はじめ)です。

 いいえ、使えなかったが正確です。はい。反省です。猛省しております。どげんかせんにゃいかんです。

 昨日は全く何もせず、部屋に帰るとすかぴーと眠ったんで、その件を考えるどころか、持って帰ってきた薬草類の処置すらせず放り出したままだったりする。

 なので、厩掃除に行くついでに、薬草類は小さく纏めて厩裏に陰干しした。種類によっては乾燥したら駄目なモノや、即日使用しないと使えなくなるモノもあるようだが、青葉草・枝垂れ草・セイレン草は乾燥させる事で効能が上がる為、陰干し必須なのだよ。

 ちなみに、昨日採取したセイレン草は6束だったが、納めたのは最低限の5束のみにした。理由は単純に『割に合わないから』だ。

 だって、セイレン草1束の買い取り金額5ダリ、この1束から約1本の回復薬が作れる。でこの回復薬、買うと100ダリする。…20倍ですよ。にじゅうばい。

 だから、いくらかセイレン草を溜めて、『1/5回復薬』を作るつもりでいる。なんせ、『符』を作る際、血を採らなければならない関係上、絶対に自分の身体を傷つけなくてはならない…自傷行為でっせ。通報事案でっせ。

 だから、そのケガを処置したいが、微量とは言え100ダリのモノはもったいなくて使えない。だから『1/5回復薬』を自家製するのだ。絶対。

 ただ、制作には最低で11日掛かる。すり下ろす→濾過→半日煮る→10日静置→上澄みを小瓶に充填、と言う流れだ。半日と10日が必須なので、どー頑張っても11日。

 先は長いよ。

 早朝の空を見ると、雲が多い。今日の遅くか明日辺りから天気が荒れるかもしれない。

 ここの所晴れ率が高かった。雨が降っても二日と続く事は無かった。それは幸運だっただけで、それが当たり前ではない訳だ。だから金銭的には余裕が必要なんだよな。

 俺たちは、宿代は今日も含めて三日分は支払い済みではあるものの、二日前に回復薬や解毒剤(葛蛇用)、リュックサック等を買った事もありさほど余裕は無い。

 だから今日は稼がねばならない。だが、焦って死んでは意味が無いので無理は禁物だ。金が無いのは余裕を無くし、余裕の無いのは命を無くすだね。

 一定以下になれば、後は負のスパイラルでまっしぐらだ。そうならないようにしなくては。俺だけで無く瞬のヤツの命も握ってるから。

 うぅぅぅ、重いぞーーっ。

 

 本日は冒険者協会窓口に、早朝から並んで前回同様『セイレン草』の依頼を受領。駆け足で街中を抜け、木塀門の手前から歩きで身体を休め、ゆっくり移動して来ました街の南東平原。

 昨日来た所より少し東側、小川を越えた先にある湿地帯の近くになる。

 水辺に多いセイレン草なので、湿地帯は当然結構な数がある。だが、『湿地帯』なので、あちこちにぬかるみがあり、進入が難しい。

 その為、冒険者初心者は湿地帯近くまでは近寄らず、完全に足場の良い場所でのみ採取するのが一般的となっている。

 無論、日本で言う所の『がたスキー』のような道具を使用すれば対策可能ではあるが、セイレン草の売却価格じたいがその労に満たない為、実行に移されず採取されずに残っている場所が多い。

 そこを俺たちは狙いに来たというわけだ。無論考えがあっての事だ。

「よし、目標発見、行け」

「瞬、泥人君いっきまーす」

 瞬のあほ(病気)なかけ声と共に、マッドゴーレムが作製される目標(セイレン草)の真下に。作製されたマッドゴーレムは頭に目標(セイレン草)を揺らしながらこちらに向かって歩いてくる。

 途中にあったぬかるみを乗り越え、2分ほどで俺たちの目の前にたどり着き、元の土へと帰る。この間俺は周囲を警戒し、瞬を守っている。

 マッドゴーレムに運ばれてセイレン草は、大きなモノだけ茎から切り、それ以外は根の周囲の土と共に、付近へと植え直す。

 これを目標(セイレン草)を発見ししだい実行した。三回目に角髪(みずら)ガエルが現れたが、この湿地帯に来た矢先に遭遇し戦っていたので、一人で十分対応できた。

 さすがに、瞬はびくびくしていて、幾度となくゴーレムのコントロールを失いかけていたけどね。自分がほぼ動けないと言うのは怖いよな。確かに。

 一応、鬼面ガニ当たりが出たり、複数が出た場合は、ゴーレムを切って瞬も戦線に臨む事に成っている。

 その後、少し移動した際、先ほどの戦闘を察知したらいし他の角髪(みずら)ガエルが3匹襲いかかってきた。

「右のヤツ頼む、俺は後の2匹をやる」

 それだけ言って、俺は中央のカエルに向かい、そのカエルが延ばした舌を左前にかわし、腹部を剣で横薙ぎにしながら走り抜ける。地面に『火炎符』を落としながら。

 そして、左手にいるもう一匹へ向かいながら『火炎符』を発動。背後に豚の鳴き声のような声を聞きつつ、そのまま目前のカエルの舌を剣で上に弾き、近接し開かれた口から剣を突っ込み頭の方に向かって突き刺す。

 直ぐに剣を抜こうとするが、抜けないばかりか、暴れるカエルに振り回され掛かったので手を放し、カエルから離れる。

 胸元のナイフを抜きつつ、瞬の方と、もう一匹をチラッと見ると、一匹は完全に火だるまで、瞬の方はゴーレムで押さえつけたまま剣を持って近づいている所だった。

 瞬はゴーレム制御時に本人は他の事は殆ど出来ない。しかし、ゆっくり動く事は出来る。特にゴーレムが今のように大きく動いていない制御が楽な時で、ゴーレムが見える状態であれば、ある程度動く事が可能だ。

 後は、ゆっくり近づいて、ゴーレムで動けなくしたカエルを剣で刺す楽なお仕事です。

 安心できたので、俺は目の前の相手に対峙し直す…あ、ばったりと倒れたよ…ま、頭刺されればね、ってかそれまで動けた事が驚きだ。

 一応、他に問題が無いか、周囲を再度確認するが、当座は大丈夫そうだと判断し、瞬の方へと向かおうとしたが、必要は無かった。剣が深々と刺さっているのがここからでも分かった。

 瞬の方も問題ないと判断した俺は、先ほどの剣を咥えたヤツの所へ行き、念のために背中側に回って背中をナイフで3回ほど刺し、死亡を確認した上で剣を抜き取った。

 とにかく用心深くだ、20秒の用心で済む事なら全く問題ない。油断は一瞬で死ぬのだから。石橋は叩いて、X線検査した上で、横に架設橋を作って渡るぐらいで無ければ。

 その後はいつものように、警戒しつつ魔石だけ採って他は放置した。この角髪(みずら)ガエルも肉は食べられるのだが、湿地帯のモノは余り好まれないし、重量価格的に見合わない。

「このカエルって、みずらガエルって言うんですよね、みずらってアレでしょ卑弥呼とかの時代の男の人の髪型、でもこのカエルって、どっかと言うと福耳だと思うんですけどー」

 確かに、このカエルの頭部の両脇にある出っ張りは角髪(みずら)と言うには上の出っ張りが殆ど無いな。福耳は言い得て妙かもしれない。

「確かに福耳だな。俺たちは福耳って呼ぶか?」

「そうしましょ、みずらって直ぐ出てこないんですよ。福耳ならぱっと浮かぶし」

 これから俺たちはこのカエルを『福耳』と呼称する事にした。ま、内輪だけでね。ソアラさんとかに間違って言わないように気をつけなきゃ。

「あ、そだ、そー言えば、初めて『符』使ってましたよね。一瞬ビックリしてゴーレムのリンク切れそうでしたよ。先に言ってくださいよ~」

 これが実戦初使用だ。水場だったので火事を気にしなくて良いので、『火炎符』を前もって右胸のスロットに直ぐ取れるように準備はしていた。

 それをあの場で使用したのは、一瞬の判断だった。後になってみても悪くなかったと思う。出来ればカエルに貼り付けるのが理想なんだが今はまだ出来ない。残念。

 複数に当たる際は、全体を見つつ、『符』を使って分断・一撃死・戦列崩壊・罠などを考え即座に札を取り実行できなければならない。

 むっちゃくちゃ難しいよこれ。少しずつパターンを考え・覚え、身体に染みつかせるしかないんだろうけど。先は長い。

 瞬には、いつでも使われるつもりでいろ、と言っておいた。

 結局昼までに、福耳×2・福耳×3・福耳単独4匹・鬼面ガニ1匹と戦闘となったが、途中で福耳の身体が粘着質なのに気づき、身体に『符』を貼ると短時間なら問題が無い事が分かってからは『符』の実験もかねて色々試してみた。

 そして、目標(セイレン草)は午前の時点で20束に達し、瞬のリュックは一杯になった。

 昼は、湿地帯から少し離れた見通しの良い所で、背中合わせで周囲を互いに警戒しつつ屋台で買ったお好み焼き擬きを食う。

「背中合わせって、なーんか、寂しーです」

「だな、飯食ってても、話してても微妙だな。でもま、安全第一だからあきらめろ。対策は誰か他にパーティーメンバーを増やす事だな」

「メンバー増強…誰かなってくれる人いませんかね? 不遇職二人がいるパーティーに入ってくれる様ないい人…」

「……」

「……」

「あっ!、忘れてました!いい手がありますっ、奴隷でハーレムでチーレムですよ」

「はぁ? 奴隷?ハーレム…ちー?」

「そーですよ、奴隷を買って、レベリングでレベル上げてパーティーメンバー増強&ハーレムです」

 色々突っ込み所がありすぎるぞ。

「そもそも奴隷ってここ居るのか? と言うか普通違法だろ」

「あー、でも、貴族が居るなら99%奴隷は居るはずです。間違い有りませんよぉ」

 おまえの中で貴族ってどんだけ悪人なんだよ…

「と言うか、俺は奴隷なんてやだよ、ハーレムなんて言うぐらいだから、女の子なんだろーけど、俺は無理」

「やだなー、奴隷を奴隷として扱わないのがデフォなんじゃ無いですか、そして、芽生えるフラグの雨嵐!! おーっ奴隷ハーレムサイコー」

 ……それって、小説なのか?今の小説はそれが普通なのか…俺にはついて行けん。

「いや、やっぱり日本人としては無理だよ、例えこの世界に奴隷制があっても俺無理」

「えぇー、…そーだ、そんなはじめさんに、偉大な島本先生の言葉を贈りましょう……『心に棚を作れ!!』です」

「…・? 良さげな言葉だけどどんな意味だ?」

「えっとですね、とりあえず、こっちの事(日本の常識)こっち()に置いといて、こっちの事(奴隷)を楽しみましょう、って事です」

「ごるあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!何じゃそれは、誰だよその島本ってーーー!!」

 瞬の頭をロックして、全周囲確認しながらギリギリと締め付けてやった。

「いだいいだいだいぃぃぃ、僕が言った言葉じゃ無いですぅ。島本先生のことばですぅ」

 だから誰だよその島本って、おい。

 結局3分ほど締め上げると顔色が悪くなってきたので解放してやった。

「うぅぅぅぅぅ、ごめんなさいぃぃ、もう奴隷の話はしませんからぁぁ」

 よし。

 全く、日本人は世界で初めて人種差別廃絶を国際的に訴えた民族なんだぞ、それを奴隷だとは、恥を知れ恥を。全く。(結局その決議は、今先進国って呼ばれてる国々に全会一致で否決されたけどな)

 昼からの行動はそんな事があり、瞬が復活するまで待たなければならず、多少遅くなった。

 瞬のヤツは30分すると完全復活し、鬼面ガニから取り出した魔石を手に「これは、良いものだ」とか言ってたよ。元ネタは「あれは」じゃ無かったか?いいけどさ。

 腕時計時間で2時30分頃、天気が微妙になってきた為、そろそろ上がる事にした。

 そして、最後の1つをマッドゴーレムで運んだ時、それは襲ってきた。福耳が3匹に鬼面ガニが1匹と言う混成戦だった。

 普通、種族が違うと魔獣だろうが争いあうのだが、タイミングと現れる方向の関係で、その状況が作り上げられた。つまり、福耳と、鬼面ガニに挟まれたのだ。

 状況を一瞬見回し、瞬に指示を飛ばす。

「カニを頼む、福耳はなんとかする、あと出来るだけカニ側に移動しろ」

「一人で大丈夫ですかぁ?」

 瞬の心配げな声を聞きながら俺は腰に差している『符』の束の1つを取り福耳へと向かって走る。

 俺は剣は手にしていない、俺の剣技では福耳(角髪(みずら)ガエル)は一撃で倒せない。しかし『符』ならそれが出来る。故に『符』の束を左手に、抜いた1枚を右手に持ち、一番近い福耳へと駆け寄る。

 福耳の常の攻撃手段である2メートル以上伸びる舌を、ステップだけで躱し、近づき、そのまま『炸裂符』を貼り付け走り抜ける。

 そして次のヤツに向かいながら『炸裂符』を起動、爆発音と共に俺の背中に爆圧とまでは行かないが、強い風圧が掛かる。1匹やったはず、あと2匹。そう思った瞬間。

「もう一匹来た!!!!!!」

 瞬の方から声が掛かる、瞬はゴーレムで鬼面ガニを押さえていたが、その20メートル後方にもう一匹の福耳がいた。

 福耳に驚いた瞬のゴーレムリンクが切れ、ゴーレムが崩れ鬼面ガニが拘束から放たれる。

 瞬は鬼面ガニを刺す為、移動しかなり近づいていた。その位置関係を一瞬で把握する。

「こっちに走れー」

 俺はそれだけ言うと、後方にパスを通した『炸裂符』を2枚放り投げ、2歩だけ走り出した所で、わずかずつタイミングをずらし起動する。

 後方で今度は、爆風が発生する。身体を打ち付けるような持ち上げるような力だ。その爆風を連続2回背に感じながら、再度『炸裂符』を2枚後方へ放ち、数瞬の後起動。

 衝撃で事実上吹き飛ばされながら瞬の元へ向かう。半分以上身体が浮いた状態で、体勢を維持出来たのは器械体操のおかげだったのか、偶然かは分からない。

 それでも、足から地面に前傾姿勢で降り立ち、そのまま駆け出す。この爆風4連チャンで稼げた時間は1秒弱だと思う。しかし、この1秒弱が数メート距離を稼いだ。

 そして、瞬の左腕に今巻き付いた福耳の舌を剣で切り裂く。剣を抜く際に手に持っていた『符』の束は邪魔なので落とした。

「スイッチ、時間稼げ」

 瞬の横を走り抜けながら、声を掛ける。意味は目標対象を交換する、そして、俺が応援に来るまで時間を稼ぐ方向で行動しろとなる。

 本当は、逃げるなりある程度二人で移動し、距離を開きたい所だが、地形と魔獣達の位置関係でそれは不可能だった。湿地帯や川辺はコレがある。

 俺は、そのまま走り、舌を引っ込めつつ悲鳴らしき声を上げる福耳の真っ正面から切りつける。いわゆる唐竹割りと言うヤツだ。

 だが、剣技も剣の切れ味も不十分な為、真っ二つなど無理だったが、頭に大きな切り傷と打撃を与えた。

 その、一撃の為動きが止まった隙に、剣を地面に突き刺し、左手で一番腹部側にあるベルトに挟んだ『符』の束を抜き取る。

 その束から1枚『符』を抜き、硬直状態の福耳に貼り付け、再度もう一枚を抜いて、こちらは福耳の身体をなでて、粘液を付着させる。

 直ぐに福耳から離れ、草原側から近づいてくる鬼面ガニへ向かいながら貼り付けた『符』を起動する。『火炎符』が炎を上げる。

 俺は、福耳の粘液が付着した『符』を口にくわえ、左手の束から3枚を抜き出しパスを通す。

 目前に迫った鬼面ガニの寸前で右に一気に曲がる。直角に近く曲がりつつ、パスを通した『符』を鬼面ガニの全面にばら撒き、直ぐに起動。

 炎を上げる3枚の『火炎符』の為、移動が止まった鬼面ガニの横を回り込み背中の鬼面紋様中央へ口に咥えていた『符』を貼り付け、バックステップ後直ぐに起動し、炎へと包む。

 瞬の方を見ると、一匹はゴーレム壁の残骸らしき土山の横で果てていて、もう一匹は半身を土山で包んで動けなくしていた。

 それを見て、ホッと息をつきつつ、改めて全周囲を確認する。今度は問題ないようだ。よし。

 瞬の方へ走りつつ、途中で突き刺してあった剣と落としていた『炸裂符』も回収する。

 俺がたどり着いた時には、半身を土で固められた福耳は瞬の剣で果てていた。

「怖かったですよぉぉぉぉ」

 半泣きで行ってくる瞬の頭をポンポして落ち着くのを待つ。

「『悲しいけどこれ戦闘なのよねって』ヤツだ」

「ちょ、それだと死んじゃうじゃ無いですか、特攻ですよ、もぉー」

 瞬向けに慣れない事をしてみたが、やっぱり誤用してしまったようだ。二度とすまい。

「しっかし、5匹、しかも隠れて時間差はキツいな。スパ○ボじゃないんだからさ」

「あっ、あの途中でマップの横から出て来るアレですね。しかも出てきただけじゃ無くって、そこから移動(笑)」

「(笑)ま、でも現実だからなこっちは、全く。……やっぱあと何人か欲しいな。奴隷はなしでな」

「わ、分かってますよぉ。もう、むっちゃ痛かったんですよアレ」

 そんな話をしながら気分を落ち着かせた。何にせよ戦力不足は間違いないんだよな…どーすべ。

 それから5分ほどしてから、魔石の回収と、セイレン草を回収し、帰途へ付いた。

 その後は警戒をしつつも比較的早足で移動をし、角ウサギ2匹に襲われるだけで木塀門をくぐれた。

 ギリギリ持つかと思った天候も、残念ながら街の中程で雨が降りだす事となった。まあ、小雨だったので、少々しめった程度で協会へと入れた。

 時間的には普段より1時間は早い時間なのだが、やはり天候を見て早く帰ってきた者が多かったのか、多くの冒険者でごった返していた。

 俺たちは、協会内の片隅の邪魔にならない所で、品物の仕分けをした。窓口提出分と、買い取りかエンターへ持って行く分と、自分たちで確保する分だ。

 本来は外でやってくるのだが、今日は天候がヤバげだったので、移動を優先させた。おかげで変に目立ってしまった。

 そして、準備が出来ると、いつものごとくソアラさんの列へと並ぶ。そして、いつものようにボーッと周囲の話を聞いていた。

 たいていが意味の無い会話が多いのだが、時折魔獣の情報や、危険な無場所の情報などを聞く事が出来るので、耳を傾けるようにはしている。まあ、ボーッとだけど。

 そして、その日の情報はいつになく俺たちに取って大きな情報だった。

「異世界人なんてのが来てるらしいってうわさになってるけど信じるか?」

「なんだそりゃ、異世界人って何だ?」

「なんでも、別の世界からオッこって来たんだと」

「別の世界って何だよ、妖精の世界とか、夢魔の世界とかってヤツかよ」

「知らねーって、ただそう言ってるヤツが何人もいるんだと。王都方面じゃ結構話題だぜ」

「嘘くせーな」

「かもな、ま俺らにゃー関係ーねーけどさ、女と話す時のネタにゃなるだろ」

「おお、そりゃ確かに」

 その話していた二人は俺は知らない者たちで、二人とも並んでいると言う事は別の別のパーティーのモノなのだろう…異世界人。何人もいる。

 彼らに話しかけようかとも思ったが、あれ以上の情報を持っているようにも思えなかったし、何よりなんて言って聞けば良いかが分からなかった。

 まさか自分たちの事を話すわけにはいかないし、かといって興味本位でと言うのも演技下手な俺には無理だ。

 その後しばらくその二人の話を聞いていたが、異世界人に関しては全く出てこず、周囲の他の者たちからもその話題は流れなかった。

 そして、受付の順番が回ってきて、本日の精算も終わらせた。

 その際、もしかして、と思ってソアラさんに『異世界人』の話を聞いたのだが、と聞いてみると、意外にも知っていたようで、時間の取れる範囲で教えてくれた。

 曰く、彼らが現れたのは2月近く前の事で、最初の記録は王都の門番で、混乱する不審者を拘束し、問いただすと、自分は『異世界人』だと答えたという。

 その後、王都や周辺の街、村で同様に『異世界人』を名乗るモノが現れ、城の方でも何らかの大規模な詐欺集団や邪教集団では無いか調べた。

 調べた結果はそのような事実は無く、全ての者の話の整合性がとれており、『異世界人からの迷い人』で有る事を否定は出来なかったと言う。

 ただ、彼ら自身が何らかの大きな力を有しているわけでも無く、肉体的にも思考・嗜好共に変わりが無く、拘束も保護も必要ないとして放置してある、と言う。

 以上が、冒険者教会経由の『異世界人騒動』の話だという。

 最後にソアラさんは「まるっきり普通の人間と変わらないそうよ。まあ、私たちには関係ないし、関わっても特にこれといって特別な事も無いでしょう」と纏めた。

 後ろに並んでいる人がおり、これ以上邪魔は出来ないので、窓口を後にした。

 その後、俺より時間が掛かった瞬を待ち、合流して『魔獣のいななき亭』へと帰り、部屋へ入ったとたん先ほど聞いた事を話した。

「やっぱり、他の人も来てたんですね…落ちた時の位置でばらけたんでしょうか?僕ら近かったから近くで、あ、でも僕の左側にいたタンクトップの人とかは近くにいないし…」

「どーする」

「え、どーするって言われても…これが知り合いとかだったら、大喜びで会いに行くんですけど、全部知らない人ですよね、ただ、同郷(日本人)ってだけだしぃ…」

「これがさ、約二ヶ月前のあの日の直後なら別なんだよ、あの日お前がガン泣きしながら抱きついて来たみたいにさ(笑)」

「うぅぅぅ、忘れてくださいよぉぉそれ」

「(笑)ま、あの直後ならホント右も左も分からず、同郷ってだけで連帯出来たんだよ。俺らみたいにさ。でも、あれから二ヶ月近くたって、向こうも俺らみたいに生活環境を構築しているはずなんだよな、じゃなきゃ生きてけないし」

「ですよねぇ、今なら知らない日本人よりシルビアさんやヴォルツさんの方が身近だし。会えば会ったで問題が起きるパターンですよねコレ」

「コレで帰還に関する情報でも持ってれば別なんだが、…はぁ、自分でも驚いてるよ。こんな感じになるなんて」

「ですよね、小説だと、転移者どうし探し合って、連携したり殺し合ったりするんですけど」

「殺し合う?」

「そです、チート能力を奪い合ったり、野望を阻止されないようにとか、女性を奪い合ってとか、デフォですよ」

「最近の異世界小説って、奴隷でチートでハーレムで転移者どうしで殺し合うのか」

「ですね、あと転生者が入ってくるケースも多いですよ」

「……凄い世界だな…」

「面白いですよぉ」

「……」

 結局、『異世界人』問題については、しばらく様子見と言う事でお茶を濁す事になった。

 色々と考えなきゃいけない事が増えた気がする。

 それでも何より、大前提は、死なない事、生活していく事だ。

 全てはその上でだ。

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