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14.ガセだって言ったじゃないですか!

 本日は雨。昨日に続きそのまま降り続いている。

 昨日はホントに色々有った。ピンチになったり、瞬が奴隷だ何だと言い出したり、他の日本人の行方が分かったり…はぁ、疲れたよ、ホント。

 そんなわけで、本日は身体のあちこちが痛い。

 筋肉痛では無く、打ち身。『炸裂符』を至近距離で起動しての、爆圧による移動なんざやるもんじゃ無いね。いくら熱や炎が出ない爆発とはいえ、衝撃は来るんだよなしかもかなり強い。

 直接貼り付けた福耳(角髪(みずら)ガエル)は、肉が爆ぜて大穴空いてたし…漫画じゃ無いんだからもう少し考えないとな~、でもあの時はアレしか考え付かんかったし…

 一瞬一瞬で判断するって簡単にはできんよ。多分、色々経験して、それをその状況に合わせて選択するって形になるんだろうけど、その経験を現在している段階だからな…で死にかけると。

 逆説的に考えると、そういった経験をして、それでなお死なず経験を蓄積出来た者が『一瞬で判断を的確にくだす事が出来る者』と言えるんだろ。

 そうで無い者は、いなくなっている(死んでいる)と。

 うぅぅぅぅ…

 まあ、気を取り直して雨の日なりの行動開始だ。

 普段通り、洗顔・用足し・ストレッチ・厩の掃除・食事を済ませ、本日は『1/6回復薬』作製を行う。

 1/5でなく、1/6なのはセイレン草を乾燥させずに作るので、効能が落ちる為1/6としている。正確にはどーなるかは分からんけど。

 で、作業実行だ。

 ① 昨日取ってきたセイレン草5束を洗い、すりこぎでゴーリゴリと全てすりつぶします。

 ② すりつぶしたセイレン草を清潔で目の細かい布にくるみ、徹底的にしぼります。

 ③ 絞りかすに水を加え、すりこぎに付着した分も水で洗いって桶に纏め、棒で徹底的に突きまくります。

 ④ ③を②と同様にしぼります。

 ⑤ ②と④で出た絞り汁を鍋に入れ、沸騰させない温度で時折グールグルかき回しつつ半日加熱します。

 ⑥ 加熱が終わったら、ゴミが入らない密閉容器に移し暗所に静置します。

 てな事を半日以上掛けてやったんだよ。まあ、紙や判子と違って全てを俺がやる必要が無いので、瞬にも手伝ってもらったからさほど面倒では無かった。

 あとは、その作業の合間を見て、ひたすら判子彫りだ。

 赤以外の判子は判面の1/10もラインが無いので、作り出せば早い。実際、全ての判子は、あとは削るだけと言う段階になっている。

 厩の軒先で、加熱中の鍋を随時確認しつつ、瞬に作ってもらった折りたたみイスに腰掛け、手元に注意しながら延々削り、彫っていく。

 グールグル、カリカリカリカリ、グールグル、カリカリカリカリ…

 最近では、俺が何か作業をしていても他のお客や、宿の従業員も何も言わず、横目で見て通るだけになった。

 もう、俺=何か変な事をやってる人、で定着しているらしい…シルビアさん談。

 つまり、「また何かやってるぜ、あいつ」「いつもの事だ、関わるなよ、色々可哀想なヤツなんだから」って事らしい……山本っつぁんの『男の修行』を思い浮かべ耐える…泣かないよ。

 1/6回復薬が静置まで終わってからは、夕食時まで判子作りで時を費やした。

 そして、その後は、昨日使用して数が減った『符』を作る作業を行う。自傷行為である。何度やっても痛い。トマトケチャップじゃ無理なのかよ。

 青葉草粉末と枝垂れ草粉末も残りが少ない、原材料は二つとも乾燥中なので後四日は追加出来ない。材料も随時追加しておかないと、いざという時作れないな。

 ホント手間の掛かるギフトだよ。先祖伝来に引き継ぐんじゃ無きゃ使い手がいないはずだな。納得の不遇職。全会一致だよ。与党から野党全てが全て起立するよ。

 俺の一日はこの作業で全て終わった。

 瞬は、時折1/6回復薬作りを手伝いながら、ゴーレムを操作しつつ自分が動く訓練を続けていた。

 昨日の事で色々思う事が有ったようだ。成果的には目に見えてハッキリ分かるレベルでは残念ながら現れてはいない。

 でも、この手のコトは全て積み重ねだからね、そしてわずかな成果が生死を分ける可能性もある。この世界は努力を止めたら、死へと向かうだけになる、うん。


 そして、本日も雨、二日、いや夕方から入れれば三日目になる、三日続けての雨。収入の無い日々ですよ。

 三日前に稼いだ、セイレン草30束+魔石+ウサ肉の160ダリが、その大半を本日、明日から五日分の宿代(2食付き)で消えてしまう。

 『冒険者殺すにゃ魔獣はいらぬ、10日も雨が降れば良い』ってヤツですよ。全く。

 実際雨って、降る時には1週間とか普通に降るからな…別にその間ずーっと降らなくても、降ったりやんだりで十分に仕事にならない。

 某RPGだと天候関係なく歩き回って、『雨』『暴風雨』で出現するモンスターが違ったりしたし…『暴風雨』の中戦闘なんざ無理だろう、絶対。

 今となっては、『現実なめんなよ』と心から言いたい今日この頃。

 で、仕事が出来ないならそれはそれで、出来る事をやって時を無駄にしないようにするわけですよ。つまり判子彫りです、はい。

 そして本日の三時をもちまして、全ての判子、全24個が全て完成いたしましたですよーー。

 ちょっとハイテンションになって、バク宙3連続してたら娘ちゃんに変な目で見られた。反省。

 その後は、以前作らなかった『聖光符』と『雷撃符』も20枚ずつ作り、他の『符』も追加し、全ての『符』を20枚にした。

 紙の残が100枚ほどになってしまった。判子のおかげで作成速度が格段に上がり、夕食後から就寝までの2~3時間で30枚以上作ろうと思えば作れるようになった為、三日もあれば無くなる事になる。

 まあ、余裕が無いのは精神的にキツい。白蕩木を何とかしないとな。後、糊粉草な、やっぱり有ると無いじゃ天地だ。

 ヴォルツさんに相談するかな。

 夕食時、ヴォルツさん達がいるのを見つけ、同席を頼んだ。

「ヴォルツさん、ちょっと聞きたいんですけど、白蕩木のある北西の林でしたっけ?あの辺りって俺らいけそうですか?」

「ん?、また要るのか、でも今俺らが要ってる所は南西の森だからなー」

「いえ、自分らで取れないかって事で」

「二人にはキツいと思うわよ、強さ的には大したことはないけど集団で襲ってくる魔獣が一杯いるから」

「だな、屍食いや牙犬は5匹から10匹は普通ーだからな、1匹や2匹ならおめーらでも大丈夫だろうけど、5匹越えりゃ先ず死ぬぞ」

「…そうですか…あ、それじゃ、街の北、みずう…じゃなくて海の手前辺りってどんなでしょう。俺ら的に」

「北の丘辺りか?海に近づきゃ鬼面がわんさかいるがその手前の丘辺りは葛・一角位だから大丈夫なんじゃねーか、なあ」

「多分大丈夫だとは思うけど、何ヶ月か前にスライムが出たって話があったのがちょっと…ね」

「スライム?」

「あー、あれかぁ、ありゃーガセだろ。スライムが平地ましてや荒れ地何ぞにいるはずがねー」

「私もそうは思うわよ、でも何組かのパーティーが見たって言ってるから、まあ、全部初心者組だから見間違いの可能性も否定は出来ないのだけど」

「スライムって、洞窟や森で、木の上や天上から落っこって来て、そのまま獲物をパックンって包み込んで溶かしてうまうまってやつですよねぇ」

「うまうまって(苦笑)まあ、そーね、ヴォルツも言ったけど森林・洞窟の付近ならともかく、平野部の荒れ地に出るような魔獣ではないわ」

「だからガセだって」

「えっと、スライムって強いんですか、実際? 何か動き遅そう何で逃げようと思えば逃げられる気がするんですけど、最悪」

「強いかっちゃー微妙ーだな。ただ、俺みたいに槍使いにゃー鬼門だ。突こうが切り裂こうが殆どダメージを受けやがらねー、魔術が無きゃー逃げたが勝ちだ。まあ、逃げられるかっちゃー楽勝だな。捕まっていなきゃーな」

「スライムは移動は人が歩くくらいが限界ね。ただ、触手って言うか、手足って言うか、身体を伸ばす速さは結構早くって、そうね、角髪(みずら)ガエルの舌くらいかしら」

「うぅぅぅ、それって結構早くないですぅ?」

「そーね、あなたたちにはそうかも、でもね、問題はそれじゃ無くて『擬態』ね。スライムって周囲に擬態するのよ、岩とか木とかにね。だから気がつかず近づいた所に…って訳」

「擬態って…そんなに分かりづらいんですか? 暗い洞窟や木の上なら分からないってレベルだと嬉しいんですが」

「まー、よく見りゃ分かるぞ、薄暗い所でも慣れりゃー丸分かりだ」

「それってぇ、逆に言うとよく見なきゃわかんないっていうことですかぁ?」

「一度分かれば簡単に分かるレベルなんだけど。コレばかりは個人の観察力の問題だと思うから…なんとも言えないわ」

 そんな感じで、二カ所の情報を教えて貰えた。情報も本来ただでは無い世界なので、こうやって教えてくれるのは本当にありがたい事だ。

 しかし、白蕩木は依頼を出さないと無理か…

 糊粉草は大丈夫そうだけど、スライムの目撃例ありと。

 街の北側は城がある関係で門が無いんだよ…一度西門や東門から出て、回り込んで行かないといけない。せめて木塀に北門があれば良かったけどこちらも無い。

 その為、移動がかなり掛かる。ちょっと行って糊粉草だけ取って他の場所へって訳にもいかない。

 一応、北の塀には水門は有るよ、海経由の輸送の大動脈だ。でもあの水門は船に乗っていない人間は通してくれない。

 北の丘は標高20メートルも無いようななだらかな丘陵地帯で、尚且つ荒れ地だ。つまりセイレン草は生えない。よって、採取のクエストが出来ない。

 更に生息する魔獣は葛蛇・角ウサギがメインで、こちらも討伐クエストや、常時討伐対象では無いので(ダリ)にならない。

 つまり、糊粉草を取りに行くには、一日収入をあきらめ、コレに費やさなくてはならない事になる。

 ただでさえ雨で二日も収入が絶たれているのにだよ。全く。

 でも、糊粉草が有効なのは昨日の福耳戦でハッキリと分かった。貼り付けさえすれば、一撃必殺なのだから。

 糊粉草から作るノリさえ有れば、戦闘効率ひいては安全性の向上に繋がるのは間違いない……瞬と相談するか。

 部屋へ帰った後、その話を瞬にする。

「しょーが無いですよねぇ、一度取って来さえすればそれなりに持つんでしょ? だったら行きましょうょ」

「悪いな」

 あくまでも俺の事だから、瞬に迷惑を掛けるなら筋は通さなくてはね。例え同じパーティーでも。

 色々とアレな所はあるが良いやつなのは間違いない。こいつ(シュン)とあの日会えたのは幸運だったのだろう。

 その後は寝るまで複数の『符』にパスを通す訓練をして過ごした。


 翌日、念のために北の丘がらみのクエストが無いか確認したが、見受けられなかった為、そのままクエストを受けずに向かう事になった。

 街中から木塀東門まで急ぎ足で進み、その後は塀に沿って北の丘を目指す。

 15分ほどの間は、特に魔獣に出会う事も無く進んだが、それからは結構な頻度でエンカウントした。

「ちょ、これ、クソゲレベルのエンカウント率じゃないですかぁ、ゲームなら3歩歩けばエンカウントってヤツですよぉ」

 瞬の言うとおり少し多すぎるんじゃ無いかって気がする程、角ウサギと葛蛇が次から次へと出てくる。

 戦闘中に乱入も3回あったが、元々の強さが湿地の福耳や鬼面ガニと違うので、対処は可能だった。

 と言うより、自分たちのスキルが上昇しているのが分かる良い機会だったともいえる。

「右ウサ2、頼む、左は俺がやる」

「分かりましたー」

 瞬が左の角ウサギへと向かうのを目の端で見ながら、俺は左の3匹に対峙する。

 3匹の一番右へ向かい走り込み、角を突きつけて突っ込んでくるヤツの左に躱しながら右手の剣を振り抜く。

 鈍い手応えと、ある程度の切り裂く感覚。死んだかは不明だが、戦闘力は無くなったと判断し次へそのまま走り出す。

 2匹目と3匹目は直ぐ近くにおり、ほぼ同時に飛びかかってきた。

 右のヤツに横から剣を振り抜き、もう一匹には左の掌底をフックか張り手のように顔側面に叩き込む。

 両手が前に突き出され、交差し掛かると言う不自然な体勢を直ぐに解き、全周囲を一瞬見た上で、掌底で吹き飛んだヤツにへと向かい、ピクピクと痙攣しているやつの首元に剣を突き刺す。他の2匹も同様にトドメを刺す。

 瞬の方を見ると、ゴーレムは使用しておらず、楯で角を弾き、体勢を崩した所を剣で切る形で2匹を倒していた。

 また、その間、余裕のある時に周囲に目を向けていたのも分かった。うん、良く出来ました。花丸を上げよう。

 とても3回目の外とは思えない戦いぶりだ。多分、下水道の訓練が生きてきたのでは無いかと思う。 あの訓練の動きやパターンを、ここの相手に合わせる形でやっと実行出来るようになったと言う事だろう。

 そして、前回、ここよりも格上と言って言い相手と戦った事で、ここの敵に余裕を持って当たれるように成ったと言う事でもある。

 それと、葛蛇に付いては、基本集団では襲っては来ないため、先に発見すれば全く問題なかった。

 そんな戦いを20戦以上して、やっと荒れ地と言って良い所までたどり着けた。

 ここまで来るのに倒した数は50近くに上っていると思う。一応魔石だけは採取したが、ウサ肉も全く取っていない。さすがに午前中初っ端から肉の回収は無駄だからね。

 そして、掛かった時間も木塀東門から2時間ほど掛かってしまっている。協会から含めると3時間近い事になる。帰りの事を考えるとここからの活動時間は3時間となる。

「糊粉草を探すぞ」

「了解です。あ、スライム注意で(笑)」

 苦笑しつつも用心はして、周囲を見渡す。ここからは、先ほどのでの所々ブッシュが散見する草原地帯では無く、地面が半分以上露出した岩が散見される荒れ地だった。

 そして、ここから見て、北西方向に緩やかに登りとなっており、緩やかな山並みが重なって出来た谷間と言う死角が多数存在しているのが分かった。

「死角が多いぞ、土地が結構凸凹だからな、気をつけろ」

「はいな、あと、あっちこっちにある岩も何かやですねー」

 そう言って、ちょっと考えていた瞬は、1.6メートルほどのサンドゴーレムを作った。

「うん? どうするんだ?」

「偵察っていうか、漢探知ゴーレム版です」

 漢探知って何だよ、いつもの小説用語か?、まあ、ゴーレムを先行させて隠れている奴らをあぶり出そうって事だろう。

 瞬がゴーレムをコントロールし出すと、瞬による周囲警戒は不可能になる。その分は俺がカバーするわけだ。

「数が4匹以内なら、ゴーレムは維持したまま1匹を押さえろ、後は俺が対処する。その上で厳しいと思ったら自己判断でよろ」

 それだけ指示して、後は警戒と糊粉草を探しながら移動する。

 斥候ゴーレムの効果は著しく、岩陰や地面の穴などから幾度となくゴーレムに向かって角ウサギや葛蛇が飛びかかった。

 角ウサギに至っては、角が刺さったまま抜けず、3匹同時に刺さったままゴーレムに動きを拘束されるという場面もあった。

 となれば、後は周囲を警戒しつつ首を刎ねるだけの美味しいお仕事でしたよ。

 まあさすがにそんな事は2回しか(・・・・)無かったが、それ以外もサクサクと進み、サクサクとジェノサイドデス。

 だが、肝心な糊粉草が発見出来ず、1時間以上岩場を中心に探し回る事となった。

「無いな」「無いですね」そう呟きながら探索を続ける。

 更に10回以上のエンカウントを経た後、急にエンカウントが無くなった。

 最初の10分は「やっと弾切れか」などと言っていられたが、20分も経つと「さすがに変じゃないです?」と不安になってくる。

 その後更に10分以上経過した際、見慣れない草が目に入った。

「あれ、糊粉草なんじゃ無いか?」

「ど、どれですか? え、あっあった!アレですか?何かそーみたいですけど、行きましょう!」

 そして、俺たちが期待をこめて、そちらに向かって進もうとした際、それが動いた。

 それは、先行したゴーレムが高さ50センチ幅2メートル程の岩の横を抜けようとした時だった。岩がいきなり立ち上がり、ゴーレムを包み込む。

「うっわぁぁ!!」

 瞬の悲鳴を聞きながら剣を抜き身構える。

「す、スライム???」

 その(推定)スライムは全身の色を一瞬で変化させ、青黒い色になりゴーレムを完全に包み込んだ。

「スライムって言うか、あれタコですよぉぉ!」

 瞬の言うとおり、あの擬態と体色の変化は海の忍者なんて言われるタコを思わせるモノだった。

 そして、俺たちがイメージするスライムは、DQ系であれ、WIZ系であれ、透明もしくは半透明なゼリー的な物をイメージする、しかしアレは違う。

 完全な不透明で、ゼリー的なぷるぷる感は皆無。瑞々しくない感じからどちらかと言えば粘菌を思わせるモノだった。

 だがその動きは素早く、粘菌のような動いているかどうか分からないようなモノとは全く違う。

「いったん離れるぞ」

 俺はそれだけ言って瞬の襟首を捕まえ引きずるように10メートル程戻る。

「どーしますかあれ!」

 指さしながら、あわあわ言ってる瞬をみて、向こうの(推定)スライムも見る。ヤツはどうやら体内に入れたのがただの土の塊だった事に気づいたようで、身体の一部に穴を作り、そこからそれを全て吐き出した。

「逃げましょうよ、あれ無理ですってばぁ、あれに『符』を貼り付けるとか無理ですよ。近づくのも」

 確かに、あれに近づくなど考えたくも無い。シルビアさんとかの魔術使いなら多分楽勝なのだろうが、一応同じ魔術職とは言え、ゴーレムと符術どちらも遠距離攻撃は無い、ゴーレムに至っては属性攻撃すら無い…

 どうする、どうする、糊粉草らしきモノはあそこにある、でもその為に命は掛けられない、安全第一だ。

 でも、相手は移動速度は遅い。逃げるのはいつでも出来る。考える時間は十分ある。考えろ、何か手は無いか、『符』が貼り付けられれば良い。もしくは身体の下に符が来るように出来れば良い。

 地面に符を置いてあいつをそこに誘導するか? 俺の『符』へのリンク距離は現在最大30メートル、実戦レベルでは25と見て置いた方が良いだろう。

 現状あいつは動く様子は無い、彼我の距離は40メートル程。先ほどゴーレムに襲いかかった際の距離は2メートル…もし、2メートル程の距離に近づくまで動かないとしたら、罠への誘導は不可だ。

 となれば。

「瞬、まだMP有るな」

「ええっ?やる気なんですかぁ?無理ですってばぁ、…一応半分越えるくらいはありますけどぉ」

「よし、50センチくらいで良いからゴーレム作製、で、この『符』を持たせて特攻だ」

「あっ、そーゆー手ですかぁ、でも距離大丈夫ですかぁ?」

「ここから15メートル先まで行けば十分だ、25メートル空きがあればいざという時も逃げられる。お前も逃げる準備はしておけ、よし行くぞ」

 俺が話している間に準備した身長50センチ程のミニサンドゴーレムにパスを通した3枚の『符』(『火炎符』『雷撃符』『炸裂符』)を手に持たせる。

「よし、行け、サンちゃん」

 …サンちゃん?…ああ、サンドゴーレムのサンちゃんね、ってそれどころじゃ無い。

 てってけてけてけと走る『サンちゃん』を追いかけパスを維持する。そのまま目標地点である25メートル地点へと着いて俺は立ち止まる。

 『サンちゃん』はそのままてってけと走り彼我の距離が10メートル程になった瞬間、(推定)スライムが身体を引き延ばしジャンプするようにその距離を一気に縮め、『サンちゃん』へと覆い被さった。

 一瞬その早さに唖然とし、パスが切れそうになるが、なんとか維持し、一呼吸だけ置いて自分を落ち着かせ、3種類の『符』に同時に静かに命じる、『起動』。

 その瞬間、(推定)スライムの身体が中央から爆音と共に爆ぜ、その穴から炎が上がる。更に身体の末端まで痺れたように痙攣を起こす。

「瞬、もう一回だ」

 俺はそう言って、今度は『火炎符』3枚をパスを通し準備する。瞬が俺の前に作り出した『サンちゃん2号』にその符を渡し、(推定)スライムへと向かわせる。

「『符』を右、真ん中、左に分けて身体の上に置け」

 遠方から、分っかりましたーとの声を聞きながらパスを維持し、『サンちゃん2号』が『符』を撒くのを待つ。

 (推定)スライムはその間、『符』によって発生した現象は停止していたが、一部炭化しかけた身体に着いた炎と、全身の痺れは残っているようで、大きな動きは無かった。

 そして、『サンちゃん2号』が接触しても全く反応せず、そのまま『符』も問題なく設置完了した。そして即座の『起動』。

 全身3カ所から立ち上る青い炎が、(推定)スライムを焼いていく。炎自体が身体に接触する面積は、直径50センチ程でそれが3カ所。しかし、それに挟まれた空間の温度も一気に上がる。

 バーナーのように1.5メートル立ち上る火は、15秒ほど燃え続け一帯の温度を千度以上に上げる、その熱でやがて全身に赤い炎が回り、『符』による炎が消えた後も燃え続けた。

 それでも暫くは、身体をのたうたせ蠢いていたが、5分ほどで動かなくなった。

 そこまで見て、やっと肩から力が抜けた。

 瞬に至ってはまだ不安だったらしく、1メーターサイズのゴーレムを作り、全身をくまなく突き回し、終いには片側を持ってひっくり返した。

 …ゴーレムって結構力があるんだな。いや、確かゲームでも力持ちキャラでは有るな。今まで瞬のゴーレムを見ていて、特にマッドゴーレムのもろそうな外見から勝手に力が無いと思い込んでいたようだ。

 それか、瞬自体の魔力的なパラメーターが上がり、『ゴーレムを形作る力』『これを動かす力』の二つが上がってここまでの力を出せるようになったのかも知れない。

 ゲームのようにパラメーターが見れないから、コレばかりはハッキリしない。冒険者協会のレベルなどを測定するあの魔術具も、個別の値は表示されないしね。

 (推定)スライムが大丈夫そうなので、そちら放置し、糊粉草らしき草の元へと向かう。

 瞬に周囲警戒を頼み、その草を外観・臭いを確認後、葉っぱを一枚ちぎり、すりつぶす。するとそのすり潰された葉はオクラのような粘りを出した。

「よし、糊粉草に間違いない」

「おぉぉぉ、やりましたね」

 二人で周囲を意識しつつもハイタッチ。何はともあれ採取採取。

 有りがたいと言おうか、ある意味腹立たしいと言おうか、あれだけ探して見つからなかった糊粉草がその周辺には大量に自生していた。

 もっと手前にあれば(推定)スライムなんぞとやり合う事も無かったのに……ま、人生こんなモンだろ。

 そんな事を思いつつ、俺のリュックに満タン分を採取した。コレで当分は採取する必要は無いはず。まあ、ノリを作るのにまた色々やらにゃ行かんけどね…俺は錬金術師じゃねーっつうの。

 そして1/4が炭化した(推定)スライムをダメ元でナイフで引っかき回すと、魔石は無事だったようで、今までで一番大きな魔石を手に入れる事が出来た。

「品質は分からんけど大きさは結構あるから、良い値がするんじゃ無いか、って言うか良い値で売れてくれ、頼む」

「ですよねぇ、あんだけ苦労して、しかも『符』を6枚も使ったんですから、元は取りたいですよねぇ」

 そんな願いを込めながら魔石袋に放り込み、来た道を引き返す形で東門を目指す。

 来る時に通った際エンカウントした辺りも、数回しかエンカウントせず、三匹分のウサ肉と全ての魔石を回収するだけで、さっさと帰った。

 途中、全く魔獣が出なかった辺りを通った際、ひょっとして、あの(推定)スライムのせいであの一帯にたの魔獣がいなかったんじゃ…などと考えたが、真実は不明だ。

 行きと違い帰りはエンカウント率が圧倒的に少なかった関係で、1時間以上短縮された。その為、冒険者協会へと着いたのは、まだ他の冒険者が殆どいない時間となった。

 ソアラさんの窓口にも誰もいなかったので、二人でそのまま行く。

 いつもの挨拶を交わした後、(推定)スライムの話をした。すると、目を見開いてしばし固まった。そして、しばらくして、

「今言われたサイズと、色合いで間違い有りませんか?」

 と真剣な顔で言って来た。俺たち二人は彼女の表情に少し戸惑い顔を合わせる。

「色に関しては、変化してましたから、青黒いのが原色かは分かりませんけど、大きさは間違いないですよ、なあ」

「ですよぉ、最後広がって死んだ時で、こっから…ここまでは有りましたよぉ」

 瞬が手と身体でサイズを示す。

「……それが事実だとすれば、それは『黒青スライム』という魔力耐性の強いスライムです」

 青黒じゃなくて黒青ですか…あれ?

「あの、魔力耐性が強んですか? だったらあれ違ったと思いますよ。火炎と爆発と雷の『符』で殺せましたから、な」

「そーですよ、三種類の『符』で動きを止めて、後は三枚の炎の『符』で囲んで焼いたんですから、たまたま色が似てた別種ですね」

 俺と瞬は顔を合わせて納得し合う。まあ、間違ってもソアラさんが深刻な顔をするようなヤツとは思えないし。

「…倒されたのでしたら、魔石は回収されてますよね、見せて頂いても?」

 嫌なわけも無く、袋に手を突っ込み一番大きなヤツを手探りで取り出して渡す。

「…………」

 ソアラさんが固まった。時間が止まったかのごとく固まった。頭を見ても某『時の石版』がひっついている事も無かったが、しばし動かない。

「あのぉー、ソアラさん?」

「………し、失礼しました。…結論から言います。先ほどの情報、そしてこの魔石からしてそのスライムは『黒青スライム』で間違い有りません」

 …断言されてしまったよ。だけど…

「ですが、魔術で倒しましたよ、『符』ですが」

「それは、魔術で倒したのでは無く、魔術によって発生した『現象』によって倒したんです」

 ???×2

「つまり、火の魔術そのものでは無く、それによって発生した熱によって死亡したと言う事です。後、爆発系の魔術は効果は物理属性で、魔術属性の攻撃ではありませんので、魔術耐性は関係ありません」

「…とりあえず納得は出来ました、所で、その『黒青スライム』ってソアラさんの表情的に普通ここらに居ないヤツって事ですか?」

 根本的に『黒青スライム』になぜあんな反応をするのかが分からない。単にあのムカデクラスの魔獣で倒した事に驚いているだけなのか、本来ここらにいないので驚いているのかそこら辺も分からない。

「『黒青スライム』は言われるとおり、通常この辺りにいる魔獣では有りません。この地区ならば『海』の先にある元鉱山跡洞窟に生息しているのが分かっています。スライム自体が平原にいる事が有り得ないのですが、『黒青スライム』に至っては更にです」

「なーるほど、イレギュラーだったんですねぇ。なるほど、なるほどぉ」

「…はぁ、ご存じないようなので更に付け加えますが、この『黒青スライム』の別名は『冒険者殺し』です。高度の擬態能力で姿を隠蔽し、近づいた冒険者を通常のスライム種の数倍の素早さで捕食。剣や槍等への耐性は通常のスライム以上に有し、その上で魔法も効果が少ない、故に付いた名が『冒険者殺し』です」

 …………

「えぇぇぇー!! そんな危険なのだったんですかぁぁー!!」

「その通りです、ご理解頂けたようで何よりです」

 その後、しばらく別の受付嬢や職員まで来て大騒ぎとなった。

 そして、別室でお偉いさんと思われる2名に改めて話をし、解放されたのは1時間ほど経ってからだった。

 ただ、その間に(くだん)の魔石を含む全ての品の売却をして貰えたので、改めて列に並ぶ必要は無かったのは有りがたかった。

 しかも、(くだん)の『黒青スライム』の魔石が単体で800ダリで売れたのはムチャクチャ嬉しかった。

 高品質って程では無いけど、この辺りの魔獣から取れる魔石としてはトップクラスらしい。苦労したかいは有ったと言う事か。もう一度したいかと言えばNOだ。先に発見出来れば美味しいだろうが、厳しいだろう。つまり死ぬ。だからNO。

 その後『魔獣のいななき亭』に帰り、食堂で食事中に帰ってきたヴォルツさんに「ガセって言ったじゃないですかぁー」と瞬が文句を言っていた。

 俺は生きて帰れた事に感謝して、ポトフっぽい料理をかみしめつつ喰った。

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