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僕は今日も、鍵で扉を開ける。  作者: ささかま。
第1章 僕は鍵を持っていて、使えば扉を開けられる。
5/99

3、レモンと秘密

お題:破天荒な秘部 必須要素:レモン 制限時間:1時間(http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=186611)を加筆修正したものです。間接的ですが、性的表現注意です。

 彼女の体からは、微かにレモンの香りがした。


 ※


 彼女の派手なネイルチップが僕の背中を抉った。ベッドのスプリングが軋む。互いに体を震わせ、僕たちは離れた。






 単純で嘘くさい。それが今回の依頼主の印象だった。指定されたホテル前で落ち合った彼女は、濃いめの化粧をしていて、赤い唇が弧を描いていた。首や手首を取り巻くように豪勢なアクセサリーが光る。 

 

 僕は鍵屋という職業につき、今までたくさんの扉を開けてきた。鍵の数だけ扉があり、「選択」の数だけ「結果」があるとわきまえている。今回の鍵はこれだった、というだけのことだ。






 「鍵屋さんって面白いんだね」


 今回の依頼主たる女性が言う。化粧をすっかり落としているその顔を見るに、僕と同い年くらいだろうか。化粧をしているときよりも幼く見えた。嘘くさいという第一印象は間違っていなかったようである。


 「私にも一本もらえるかな」


 彼女はそう言いながら、脱ぎ捨ててあった僕の上着から煙草を勝手に取り出して既に火をつけていた。先に煙草を吸い始めていた僕の隣に這い寄って来て、耳に煙を吹きかけてくる。煙に混じって、彼女のレモンの香水の香りがした。


 「何でも開けちゃうんだもんなあ、君は」

 「どんな鍵でも開けるのが鍵屋ですから」


 床には彼女が脱ぎ捨てた色んなものが散らばっている。彼女の体を包んでいた下着の華美な装飾は正直目に痛い。それらを見るともなしに見やるとまた彼女が声をかけてくる。


 「何を考えているの」

 「鍵を」

 「そっか」


 せっかくの煙草を彼女は早々に灰皿でもみ消した。淡い間接照明の光の中で最後の煙がスッと上がり、やがて消える。

 彼女は僕の背中から腕を回し、僕に抱き着いた。僕の目線の先でネイルチップが照明の光を反射している。レモンの香りが濃くなった。僕は煙を長く吐いた。


 「ねえ、レモンの花言葉って知ってる?」


 唐突に彼女は呟いた。

 僕は黙って彼女の言葉を待つ。


 「ねえ……」


 次の言葉は、容易に予想できた。僕が彼女の依頼通りに鍵で開けたのだから、このようなことになるのは当然ではあった。


 「君が、好きだよ」


 そこまで分かっていた。言わずもがな、僕の返答は決まっていた。




 ※



 「鍵屋さん、最後に一つだけ教えてくれる?」

 

 ホテルから出た直後、女性は僕の目を見てそう言った。化粧やアクセサリーは僕らがホテルに入る前の状態に戻っている。


 「君の仕事は鍵であらゆる扉を開けることって言ってたわね。と言うことは、開いてしまった扉には興味ないのかしら?」

 「ないですね」


 僕は即答する。

 

 「開けた先の秘密にも?」

 「ええ、ないですね」


 僕は即答する。 

 依頼主は肩を竦めて残念そうに笑った。そして実際に


 「そっか。残念だね」


 と言った。




彼女の体からは、微かにレモンの香りがした。

僕は、レモンの花言葉を思い出していた。


 fin.


※レモンの花言葉→心からの思慕 熱意 愛に忠実 誠実な愛

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