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僕は今日も、鍵で扉を開ける。  作者: ささかま。
第1章 僕は鍵を持っていて、使えば扉を開けられる。
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6/99

4、愛と嫉妬

お題:贖罪の草 必須要素:とんかつ 制限時間:1時間(http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=186666)を加筆修正したものです。間接的ですが、性的表現注意です。

 勘違いをしたまま、ただ腰を振るだけ。






 ※


 きっかけは本当に些細なことで、それこそ「とんかつにレモンをかけるかかけないか」なんていうくらいくだらないことだった。最近結婚したばかりの女友達と二人で久々にとんかつ屋で飲んでいた時だ。


「あれ?レモンかけないのー?」

「だってかけたら酸っぱくない?」

「酸っぱくないよー。おいしいってば。アンタの香水だってそれ、レモンの匂いするじゃん」


 確かにそうだ。レモンの爽やかな香りは何かを閃かせるようで、私の好みにあっていた。


「それにあれだよ?レモンの花言葉ってやたらお洒落なんだよ」


 そういえばこの友人は旦那さんと一緒に花屋を営んでいるんだったか、と酒でぼんやりした頭で思い出した。

 彼女が捲し立てるレモンの講釈を、大変申し訳ない話ではあるけれど、私はほとんど聞いていなかった。その講釈はどうせ彼女の旦那さんからの受け売りである。




 ※


 友達と別れた後の帰り道、駅のトイレで吐いた。

 普段ならこんなに飲み過ぎることはないはずなのだけれど、今回は酷く頭が痛かった。

 つけてきたアクセサリーがやたらと重く感じる。



 あの後、友達は自分の結婚生活に関して私に語った。彼女が旦那さんを愛していて、旦那さんが彼女を愛しているのがよく伝わってきた。私は時々とんかつを箸でサクサクと串刺しにしながら、そして時に酒を煽りながら、それを聞いていた。


 愛ってなんだろう、なんてバカなことを考える。この歳になっても一人なのは私くらいだろう。周りの友達は、続々と結婚して早い人だと子供がいる。そういう願望がないわけじゃない。けれど、私は知らないのだ。知らないけれど、今日会った友達はひどく幸せそうで、そして私は、



 嫉妬した。




 手近の自販機でペットボトルのお茶を買って、口を漱ぐ。余ったお茶を流し込むと体に沁みいるようで、酔いが引いていく。バッグから香水を取り出して振り直した。冷静な思考が戻ってくる。私は携帯電話を取り出し、とある番号に電話を掛けた。



 ※


「鍵を開けてほしい」


 電話をしてそう言えば良いらしい、と依然教わったので私は鍵屋さんにそう言った。鍵屋さんというのは最近この界隈で広まっている妙な噂のことだ。そう言えば、もう後は鍵を用意してくれるらしい、と。

 電話に出たのは男だ。


「何の鍵でしょうか」

「今すぐ私の鍵を開けてほしい。できますか?」


 少し間が開く。



「……最近、性急な依頼主が多いなあ」


 小声だったが確かにそう聞こえた。


「僕の仕事は鍵であらゆるドアを開けることですから。できますよ」


 鍵屋さんは声を元のトーンに戻してそう言うと、次に恐ろしいことを言った。


「どこの、ホテルですか?」

「え?」


 私が驚いている間にも、鍵屋は淡々と当たり前かのように言葉を続ける。


「それが貴女の鍵です。場所を指定していただければ出向きます」


 私は内心驚きつつも、それを隠して適当なホテル名を告げた。


「待って!依頼のお代は?」


 電話を切る間際に私は慌てて鍵屋に尋ねた。


「出せる分だけ出していただければ」


 彼は最後まで淡々としていた。不思議な男だ。



 ※


 鍵屋はそれこそドアを鍵で開けるように私を暴いていった。言葉は無かった。


 私たちが言葉をまともに交わしたのは、それこそ行為が終わった後、二人で煙草を吸っているときだ。鍵屋は鍵の事しか考えていなかったが、私はドアの事を考えていた。ドアと、ドアを開けたその向こうの事だ。


 彼は私のドアを紛れもなく開けたのだ。開けてしまったのだ。その向こうに広がっているのは、青空と草原のような広さと清々しさだった。ドアを開ける前は空虚だったのだけれど、ドアを開けることで風が舞い込んできたような気がした。いや、実は空虚ではなかったのだ。風はドアの先の草を揺らした。草はこれまでの嘘にまみれたものを詫びるように揺れている。そんな情景が目に見えるようで。




 要するに私は私を偽っていたのだ。



 嬉しくて、嬉しくて、泣きたくなるほど私は胸がいっぱいになった。

 だから私は彼に言ったのだ。初めての台詞を、レモンの香りを身にまとって。


「好きだよ」


 彼の答えは分かっていたけれど。



 ※


「鍵屋さん、最後に一つだけ教えてくれる?」


 ホテルから出た直後、私は鍵屋さんの目を見てそう言った。


「君の仕事は鍵であらゆるドアを開けることって言ってたわね。と言うことは、開いてしまったドアには興味ないのかしら?」

「ないですね」


 彼はは即答する。その即答が少し寂しい。


「開けた先の秘密にも?」

「ええ、ないですね」


 彼は即答する。何て無責任で薄情な答えだろう。その秘密は貴方に向いているというのに。


 私は肩を竦めて


「そっか。残念だね」


 偽りなく呟いた。きっと私は笑っていたはずだ。




※


勘違いをしたまま、ただ腰を振るだけ。

私の方を向かない瞳を見つめて。


 fin.

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