遺跡の秘密
遺跡は、上から下へと降りていく回廊構造になっていた。
壁一面には、精緻な壁画と古代文字。
アジノはカンテラの光を頼りに、一枚たりとも見逃すまいと木炭を走らせている。
メイアースは魔導書と壁画を照らし合わせながら、目を輝かせて解読に夢中だった。
そして――。
私は、壁画を読むたびに顔を曇らせていた。
階層を下りるほどに、古代文字の内容が確信へと変わっていく。
嫌な予感が、どんどん現実になっていく。
その変化に真っ先に気づいたのはイザークだった。
「どうした?」
赤い瞳が真っ直ぐ私を見る。
「何かあるのか?」
続いてレオニスも顔を覗き込む。
「眉間に皺が寄ってるぞ」
「こんな遺跡、文化財ものですよ!? なのにどうしてそんな顔をしてるんですか?」
メイアースまで心配そうにこちらを見る。
後ろでは、アジノが一心不乱にスケッチを続け、ガイアスは何事かとカンテラを高く掲げていた。
「……何でもないわ」
私は前を向いたまま歩き続ける。
「早く調査を終えて帰りたいだけよ」
だけど。
そんな言葉で誤魔化せるほど、イザークの目は甘くなかった。
「ここには何が描かれてるんだ?」
レオニスが尋ねる。
私は足を止めた。
目の前の壁画。
円環の中に描かれた二つの対極。
一方には骸骨たちが住む村。
一方には根を張る巨大な樹。
そして、その中央。
巨大な宝玉を抱き、眠る一頭の竜。
「……やっぱり、ここだったのね」
小さく呟くと、メイアースが反応した。
「何か分かったんですか!?」
「この遺跡を築いたのはエルナ族よ」
私は壁画を指差した。
「始まりにして終わりの種族。彼らは調和の塔を安定させるため、この地に二つの力を封じた」
「二つの力?」
「アンデッドの村と、地のドラゴン」
メイアースが息を呑む。
「アンデッドの負のエネルギーと、地のドラゴンが死を迎えることで生まれる循環の力――“死せる生”」
「その二つが均衡を保っているの」
レオニスが腕を組む。
「つまり……地のドラゴンが死ねば?」
「調和の塔は崩壊するわ」
全員の顔から笑みが消えた。
「じゃあ俺たちは……」
イザークが呟く。
「その崩壊を防ぐために呼ばれた?」
「ええ」
私は最後の壁画を見つめた。
そこには。
宝玉を抱く竜。
そして、その周囲に立つ六人の影。
剣・杖・槍・双剣・絵筆・そして光。
まるで――。
「私たち……?」
アジノが息を呑む。
「偶然じゃない」
私は呟いた。
「私たちは、ここに来るべくして来たのよ」
その先。
巨大な石扉の前で私は立ち止まった。
「ガイアス。悪いけど開けて」
「よっしゃ! 任せろ!」
巨漢の騎士が肩を回し、気合いを入れる。
「おらぁぁぁ!!」
ズズズズズ……
重い音を立てて石扉が開いた。
現れたのは巨大な広間。
左右に並ぶ無数の石像。
それぞれが違う武器を持っている。
剣・槍・斧・弓・杖。
まるで歴代の守護者たちが並んでいるようだった。
「凄い……!」
メイアースが興奮している。
アジノはすでにスケッチを始めていた。
「彫刻も意匠も最高だ……!」
私は全員を振り返る。
「ここからは絶対に私の歩いた場所を踏んで」
全員の顔が引き締まる。
「外れたらゴーレムの餌食よ」
「ひっ!?」
メイアースの顔色が変わった。
ガイアスは大きな体を器用に縮めながら『よっ、ほっ、はっ!』と掛け声をあげながら慎重に歩き。
アジノはスケッチしながら後ろをついてくる。
そして。
気づけば。
イザークが隣に立っていた。
「で?」
赤い瞳が私を見る。
「他にもあるんだろ?」
……この人、鋭い。
「宝玉を持つ巨像が一つだけあるわ」
「それを?」
「取り出して正面の扉にはめれば次に進める」
私は思わず眉を寄せる。
「でも……」
すると。
ふわり。
イザークの手が私の肩に触れた。
「そんな顔すんな」
耳元で囁く。
「これくらいなら、俺が何とかしてやる」
赤い瞳が優しく細くなる。
「だから、笑ってろ」
心臓が跳ねた。
近い。
近い近い近い!
その瞬間。
「おい」
低い声。
レオニスだった。
「そこ、何してる」
ズカズカと近付いてくる。
そして――
ガコン。
「…………」
全員が固まった。
床のスイッチ。
踏んだ。
「……あ」
ゴゴゴゴゴ……
左右の巨像が動き出した。
私は頭を抱えた。
「人の話をどこで聞いてんのよ、この唐変木ぉぉぉ!!」
「す、すまん!」
レオニスが即座に頭を下げる。
いや!
謝って済む状況じゃない!!
「ひぃぃぃ!?」
メイアースが悲鳴を上げる。
「おおっ!? 動いたぞ!?」
ガイアスが槍を構える。
アジノは。
「動く石像だ! 最高の資料だ!」
いや描いてる場合!?
そんな中。
イザークだけは冷静だった。
「まぁ、やることは一つだ」
双剣を抜く。
「俺に任せろ」
その瞬間。
風になった。
巨像の拳。
斧、剣。
全てを紙一重で躱していく。
速い。
速すぎる。
私は飛行魔法で浮きながら、その動きを目で追った。
まるで空気の流れそのもの。
すると。
「レオン!」
「見えた!」
レオニスが飛び出した。
風の剣。
衝撃波。
轟音と共に巨像が膝をつく。
その隙にイザークが飛び乗った。
「これか!」
短剣を抜き、宝玉をくり抜く。
そして全速力。
正面の扉へ。
カチリ。
宝玉がはまる。
ゴゴゴゴ……
扉が開く。
「こっちだ!」
イザークが叫んだ。
ガイアスがメイアースを抱えて走る。
アジノはスケッチ帳を抱えて逃げる。
私は魔法で援護。
レオニスも後退。
そして。
最後にイザークが滑り込んだ瞬間。
ズドォォォン!!
石扉が閉じた。
静寂。
「……助かった」
ガイアスが息を吐く。
メイアースは腰を抜かしている。
アジノは。
「いやー、最高だった!」
元気だな!?
そして。
全員の視線が、一人に集まった。
レオニス。
「いやぁ……」
脂汗を流しながら笑う王子。
「すまん……」
私は無言で拳を握る。
ギリッ。
「エ、エミリウス?」
レオニスが後退る。
私はにっこり笑った。
「大丈夫よ♡」
「本当か?」
「もちろん♡」
ゴキッ。
拳を鳴らす。
「だから一発だけ殴らせて♡」
「待て!?」
「待ちません!」
「うぉっ!? 皆、止めてくれ!」
結局。
暴走した私を。
ガイアスとイザークとアジノとメイアースの四人が必死で止めることになった。
なお。
一番真っ先に逃げたのは、当のレオニスだった。
……次こそ、本気で一発入れてやるんだから。




